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記憶の羽  作者: ゆきがさね
第一章
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【焔の町2】

 時折聞こえる砂の落ちる音を聞きながら、ベリルの一歩先を歩くアウイン。

 薄暗い迷宮の悪路を歩く二人に会話はない。

ベリルには既に無駄口を叩けるだけの体力がなかったし、周囲を警戒しながら先導するアウインも余裕のないベリルの様子に気がついていたからだ。

最悪、ベリルを担ぎ迷宮を踏破することも手段の一つとしては考えていた。

しかし、息を乱しながらも己の足で歩くことが、一つの経験として彼に積ませるいい機会でもあったからだ。

妹のシトリンより一つ年上のベリルは、次のメリュジーヌ祭で成人を迎えることになる。

 当然、その時は迷宮に入ることになるのだから。


 長い長い迷宮の先に、差し込む光が見えた。

石造りの階段を上がると、暗闇に慣れた目が白く霞む。

徐々に馴染む光は思ったよりも強くなく、空を見上げれば、青かった空はオレンジ色に変わりつつあった。


「外だァ~」


今にもへばりそうな弱い声を上げたベリルに、アウインが振り返ると、すでにベリルは熱い砂の上にぺたりと座り込んでいた。


「まだ砂、熱いんじゃないか?」

「熱い……けど、も、限界!」


そう言うベリルに、アウインは鞄から出した水袋を渡してやると、彼は一口だけコクリと喉を鳴らすと、すぐに返してきた。


「全部飲んでも良いよ。ここまで来れば村はすぐだし」


岩山の陰に隠れて村は見えないが、ゆっくり歩いても二時間もあれば着くはずだ。

迷ったそぶりで水袋を見ていたベリルだったが、やはり足りなかったのだろう。

もう一度口をつけると、何度か喉を鳴らしながら、水を飲んだ。


「もういいの?」


差し出された水袋にアウインが聞けば、ベリルが頷きながら立ち上がり、砂のついたボトムを払う。

受け取った水袋に己の口をつけ、ベリルと同じように水を飲むと、アウインは水袋を鞄にしまい込んだ。


「もうすぐ日が暮れる。少し急ごうか」


 砂漠の日暮れは長い。


太陽を遮るものが無いために、地平に沈むまでの時間が長いのだ。

しかしいくら村から近いとはいえ、急がなければ村につく頃には、暗闇に包まれてしまう。

灼熱の太陽からは逃れられるが、夜の砂漠も危険な場所には変わりない。

暗闇に視界が限られる分敵に気がつきにくいし、柔らかな砂に足が取られたりもする。

それに今はまだ熱気が残る風も、宵闇が深くなるにつれ、急激にその熱は冷まされ、凍てつく。

 冒険者や旅人は、闇に包まれる前に回避するのが慣わしだった。

それはアウイン達にとっても同じ事で、何の準備も無く砂漠で夜を越すには危険すぎて、どうしても日暮れ前までには、村に戻らないとならなかった。


 しかし、歩き始めてすぐ、異変が起きた。

勢いよく近づく大きな風切音と大きな影に二人は、足を止める。

見上げる二人の姿に、影は僅かにスピードを落とすと、落ちるに近い動きで迫ってきた。

虹色の光を撒き散らすように降りてきたのは、昼間フライト宛ての書簡を託したクォーツだった。


「クォーツ?!……どうした……っ!!」


着地と同時にぐったりと倒れこむクォーツに、顔色を変えたアウインが、回復呪文ヒールを唱えると、辺りに小さな光の粒が乱舞した。

 アウインが右手を振ると、光の粒は吸い込まれるように、クォーツの身体へ当たっては消える。

何度かその仕草を繰り返すと、辺りの光は消え、アウインがクォーツの羽に触れた。

その様子を見守っていたベリルは、アウインの手元の羽が赤黒く汚れている事に気がついた。


「アウイン兄ちゃん、それって血?」

「うん。羽も少しだけ焦げてるし、魔法が掠ったみたいだ」


クォーツが飛んできた方角に目をやると、二人は顔を見合わせた。


「「もしかして?!」」


不吉な予感に、二人の手の平に、じとりと汗が滲んだ。


「ごめん。僕達を乗せて飛べないかな?」


ベリルがクォーツの正面に立ち、瞳を覗きながら懇願するように言った。

主人であるアウインを一瞬伺うように見たクォーツだったが、主人の意を汲みそっと背を向ける。


「クォーツ、無茶させてごめん。それから、ありがとう」


アウインがベリルに手を貸しながらその背に乗せると、その後ろに彼を抱き込むようにして乗り込んだ。

 クォーツは、アウインの声にふわりと舞い上がると、風に乗り上昇して行く。

岩陰を飛び越えると、眼下の遥か先にうっすらと見える村と空が茜色に染まっていた。


「兄ちゃんっ! 村がっ……」

「ベリルッ! しっかり掴まっていろ! クォーツ!」


 ベリルの上げかけた悲鳴にアウインの声が重なると、速度が上がる。

ぐんっとひっぱられる風に、ベリルはアウインのローブにしがみついた。



 ゴォッ、と風を切る音と共に、近づく村の影に、二人の不安は最悪な現実へと近づいていていった。

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