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記憶の羽  作者: ゆきがさね
第一章
4/10

【焔の町1】

 

─────アウインとベリルが、村に向かい始める少し前のこと。


 村には大きな巨鳥が長の家に舞い降り、そしてすぐに飛び立って行く。

その様子に、最近村にやってきたごく一部の人間は、何事かと空を指差していたが、古くからこの町に住むエルフ達にしてみれば、日常の1コマに過ぎなかった。

残された包みを拾い上げた長は、中の書簡を開く。


──── 長へ

 

 ベリルの物と思われる荷物を発見した 迷宮を探索する

                                アウイン――


読み終えた長は、張り詰めた緊張の糸を解いた。

近くに居た村人に、書き付けられた内容と共に指示を出すと、村人は走っていった。


「迷宮とは……また面倒な所に居たな。まぁ、アウインが行ってくれているし、じき帰るだろう。なぁ? シトリン」


長の一言に、夕食用の芋を剥いていた少女が顔を上げる。

少女独特の愛らしさを残してはいるものの、数年後が実に楽しみな程整っていた。

ベリルとよく似た色合いの髪と瞳は、アウインよりもベリルの方と血が繋がっているように見える。

まして幼い頃から近くに育ったためか、じゃれあってる姿は双子のようにも見えた。


「え? お兄ちゃんが行ってるの?」


驚いた表情を、一気に憤怒の表情に変えたシトリンは小さな声で『チッ!あの馬鹿ベリル。許さない!』と、少女にあるまじき様子で呟いた。


「まぁまぁ。すぐに戻ってくるから、ね? アウインが戻ってくるまでは、いつも通りうちに居てくれよ」

「あらあら。シトリンちゃん、残念ね。ご飯もこっちで食べてっちゃいなさい。そうしたら向こうでゆっくりできるでしょう?」

「んー……うん。(でも、あとでベリルは〆ないとね)」


フライトの妻──フローは優しい声で言うと、宥めるようにシトリンの小さな頭を撫でる。

普段からアウインが居ない時は、ここで暮すシトリンにとっては、幼い頃両親や兄と住んでいた家よりも、ここが家と言っても過言ではなかった。

アウインが帰って来た時だけ、移る家に愛着はあるものの、ここも十分に居心地が良い場所だった。

それに、あの家には楽しい記憶と共に、両親を看取った悲しい記憶もあった。


「もう子供じゃないから、大丈夫。お兄ちゃんが優しいのは知ってるし!(だからベリルが許せないんだけどね)」


小声ながら、耳の良いエルフである長夫婦には、しっかりとシトリンの付け加えた言葉は聞こえていた。

そして、その一言はアウインの前で見せている可憐な妹とは程遠い姿である事に、彼女は気がついていない。

ただ、純粋に兄に慕う姿は微笑ましく、周りの人々は、彼女の多少黒い言動が寂しさの一面だと、目をつぶっていたのだった。

それにこの少女の被害を受けるのは、もっぱら近くに居るベリルだった。

そうして巻き起こす騒動は数知れないが、大体は二人の間で収まることだった。

収まらないようなときは、大抵アウインが居る時で、その時はアウインが収める事で、特に問題はなかったのである。


「アウイン君。帰ってきて早々大変ねぇ」


のんびり笑いあう長夫婦に、シトリンが窓辺に視線を戻した。

 小さな村に異変が起きたのは──その時だった。

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