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記憶の羽  作者: ゆきがさね
第一章
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【迷宮1】

 アウインは時々クォーツに指示を与えながら、砂漠の中央に向かうために飛んでいく。

時折吹き付ける強い風に砂が舞い上がり、そしてまた地表へと積もる。

刻々と変わる砂漠の表面では、すぐに砂が積もり足跡を消してしまう。

それでも僅かな痕跡を求めて、アウインは必死に地上に目を凝らしていた。

 砂漠は危険な場所であり、早く見つけないと、手遅れになりかねない。

生命に直結するような出来事が、アウインの頭の中で幾つも浮かび上がる。

 想像しなくても次々に浮かぶぐらい、この砂漠は危険だった。

飛び立って間もなく、焦るアウインの視線の先に、砂煙が舞い上がっているのが見えた。


「あ! 少し速度を落として」


吹きつけていた風が緩み、幾分呼吸が楽になったアウインの目に、黒い小さな物が映った。

想像の一つにあった出来事が、目の前で再現されかけていた。


「クォーツ。あの砂煙に巻き込まれないように降りてね。巻き込まれたら、君の大きな身体では抜け出せなくなってしまう」


螺旋を描きながらゆっくり降りて行くクォーツの上で、アウインはめまぐるしく考えを巡らせていた。

そこは砂漠の中央からは、少し村寄りの場所だった。


「まずいな」


先程空の上で見た砂塵の側にあった黒い物の正体──それは、中身の入った水袋であった。

 アウインは砂塵が舞う場所から離れて降り立つと、厳しい表情を目前の砂地に向ける。

陽射しと熱気の砂漠では、半日もせずに蒸発して中身が空になる水袋。

しかしそれは僅かに膨らんでいて、中身がある、つまりは落とされて間もない事が分かった。

となれば、その水袋はベリルの持ち物だという可能性が高くなった。


「仕方が無いな。ここに落ちたのがベリルなら、危険過ぎるしな」


 胸元を探り、先程送りつけられた書簡の裏に、迷宮に入る旨を簡単に書くと、クォーツのくちばしの前に差し出した。


「これを長に渡してきて欲しいんだ。そうしたら、また食事に行って良いからね? ありがとう」


アウインが書簡の入った小さな包みをくちばしに引っ掛けると、小さい鳴き声を上げてクォーツは舞い上がり、村の方角に飛んでいく。


「さて、じゃあ行くかな」


愛用しているクロスボウを出すと、ローブを砂が入らないように着なおし、目の前の砂塵が舞う場所に近づく。

落とされていた水袋を手に取るのとほぼ同時に、足元の砂地が崩れ、あっという間に飲み込まれていく。

顔が埋る寸前大きく息を吸い込むと、瞳をしっかりと閉じ、クロスを強く握り締め抱え込んだ。


 圧迫感から一瞬にして開放され、若干よろけながらも着地する。

アウインが、詰めていた息をけほっと吐けば、身体のあちらこちらから砂が舞い飛んだ。


「見事に砂だらけ。これが嫌なんだよなぁ」


クロスボウを持っていない方の手で、髪やローブを払う。

しまっていた眼鏡を掛けなおし、辺りを見回せば、薄暗いながらも見えた。

注意すればなんとか見えるのは、今自分が通ってきたように、所々に開いた天井から、光が僅かながら差し込んでいるからだ。

 ガルダ砂漠には、あり地獄が幾つもあって、時々旅人や冒険者を地下の迷宮に誘いこんでいた。

もちろんこの一帯に住むエルフ達はそのことを知っているので、無事に抜けるための脱出方法などは教えられている。

 村を出られる年令になると、わざわざここに一度は落ち、自力で(といっても付き添いは居るが)脱出するのだ。

そうして出て来ると、村を出る許可が与えられるのだ。

 アウイン自身、数年前にその試練を受け、自力で突破していた。

それに、その後にも何度かここには来ていたから、特に慌てる事もない。

落ちていたのが成人のエルフならば……しかし現実に落ちたのはベリルで、まだ年令に達していないベリルは、迷宮に踏み込んだ事はもちろん、抜け道や脱出方法も知らないはずだった。

 普通にしていれば、そんなに危険は無い。

巨大な迷宮ではあるが、アウインはここの道を、ほぼ覚えているからだ。

ただ、連れ帰る対象のベリルが何処にいるか分からないのが、彼の一番の悩みだった。


「ここで大人しくしてくれてたら、楽だったんだけど……」


辺りに聞こえるのは、零れ落ちる砂の音だけで、人の気配や物音はない。

それでも一度声をかけておこうかと、一度軽く息を吸うと、探し人の名前を叫んだ。


「ベリルーッ!!」


 広い洞穴を、アウインの声が木霊しながら響いていく。

尖った耳に意識を集中させて音を拾うが、やはり物音はなかった。


「自力で出られれば、村はすぐだからいいとして、問題は途中で力尽きて倒れた場合と、モンスターに襲われた場合か? ここの敵は弱いけどベリルの手に負えるかは、分からないしな……地道に探すしかないか」


ここから近い危険場所を頭の中で展開しながら、アウインは昨日久しぶりに会った、幼馴染の姿を思い出していた。


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