第2話 亡霊
――― その日、異変に気付いたのは歩哨の交代に来た若い兵士だった。
魔族に対する人類の防衛線を構築するライン城塞群。
そこは文字通り対魔族戦争の最前線であり、人類と魔族との領域を別つ境界線でもあった。
城塞群は『砦』と点在する砦の間を繋ぐ『城壁』からなり、その点在する砦は人類側の各国が管理していた。
彼の祖国であるジルス・ラウ王国もその例に漏れず、ネイシス神聖同盟に属する国家の義務として沿岸部にほど近い1つの砦を担当していた。
砦一つとっても維持管理に少なくない兵力と金銭を必要とするため、いくつの砦を保有するかがそのまま国力の差となっている。
砦はそれだけを管理すればよいというものではなく、そこに駐留する兵たちの武器や食料を用意し、
かつ本国から離れた遠隔地にいつまでも貼り付けておくと兵の不満が募ったり、
守将が私物化して本国の言うことをきかなくなったりするので適時交代要員をプールしておかねばならず、そちらにも人手と金がかかる。
基本的に物資は陸路では馬匹で運ぶしかないため輸送能力が低く、本国からの輸送では到底間に合わない。
沿岸部にあるので港までは船で運ぶことができるので他の内陸部にある砦よりだいぶ事情は楽だったが、
それでもすべてを後方から運ぶには無理があり過ぎるため、城塞群の後方(安全地帯的な意味で)に策源地としての都市を築いている。
これは他国の砦でも事情は変わらない。
国内経済にはほとんど寄与しない遠隔地の都市、人も金も消費するだけの砦。
これらの維持はジルス・ラウのような小国にとってはかなりの負担だ。
なら止めればいいじゃないかという意見はない。
「人類の存亡をかけた戦いに金の心配など何を言っているのか」ということではなく、実情はもっと生臭い。
魔族との戦争を行っている勢力は大きく分けて3つ。
対魔族の先方であり続けたネイシス教に属する国家がまとまった『ネイシス神聖同盟』。
氷雪に閉ざされた大陸北部の大地で生き残るために通商条約から発展した『ノルト北部連合』。
魔族の領域から最も遠く人類同士の戦争が続いていたが、ようやく統一された西方の覇権国家『ラシイスカ帝国』。
それぞれがそれぞれの目的を持ってこの戦争に臨んでいる。
たとえば神聖同盟は魔族たちの領域に最も近い国家の集合体であり、
魔族という脅威を取り除いて自分たちの安全を確保するのが優先であった。
そのために魔族たちを大陸から追い出すなり殲滅するなりして自分達の生存圏を拡大しようとしていた。
大陸西方は既に覇権国家たる帝国が押さえており、残されているのは北か東。
北は北部連合が一部は押さえているが、ほんどは未開と言っていい。
しかし、そこは峻険な山脈地帯を挟んで極寒の地。
お世辞にも暮らしやすいとは言い難い。
ならば残るは西。 魔族を駆逐し、そこに新たな国を立ち上げればいい。
彼らはまったくもって宗教的情熱という他はないものでそれを成そうとしていた。
北部連合も似たようなものではある。 が、彼らの主張はもっと切実であった。
北部はすべてが凍てつく極寒の冬が年間の1/2を占め、残りが短い春と秋、唯一まともな夏からなる。
農作物はその短い春に種をまき、夏に育て、秋に大急ぎで収穫する。
あとは長い冬をひたすら耐える。
それが国民の大半を占める農奴たちの生活だった。
唯一の利点は豊富な地下資源。
石炭、鉄鉱石、魔導器の材料やアーマード・ギアの素材、燃料としても重宝される魔石といったものを外国に売りさばくことで農産物等を確保している。
とは言え、何もかもが凍結する北部では大地とて例外ではなく、掘り進めるのは至難である。
その恩恵に預かるにはまずもって優秀な『炭鉱夫』が必要になる。
これらの2つを解決する術が魔族領にはある。
まず魔族たちの土地は南方にあり、冬であっても雪が降る程度で何もかもが静止したような有様になる北部よりはマシだ。
冬場は流氷や海面そのものが凍結して船も出せなくなる北部にとってはとても魅力的な場所だった。
冬季でも使用可能な不凍港を得られるだけでもだいぶ違う。
船が使えるならば少なくとも港からは雪と泥濘に閉ざされた道を
凍死の危険を冒してまで苦労して進まなくても済むし、運べる量も段違いだった。
貿易に利用できるなら間違いなく今よりは豊になれるのだ。
炭鉱夫の問題についてもそうだ。
魔族にはオーガやミノタウロス、サイクロプスなど巨躯と怪力で知られる種族が多数存在する。
穴を掘るのに長けたジャイアントアント(こちらは文字通り牛ほどの大きさの蟻)のような種族もある。
採掘した資源を加工するのに種族全体が鍛冶屋のようなドワーフも。
それらを隷属させるなりして活用できれば、その恩恵は計り知れない。
従って、北部連合は神聖同盟のようにすべての魔族を大陸から駆逐することに関しては反対の立場だった。
少なくとも家畜として利用できるならそうしたいと思っている。
ではラシイスカ帝国に関してはというと、こちらもまた前者2つとは大きく異なる事情があった。
ぶっちゃけた話、彼らは自分に火の粉がかからなければ魔族との戦いなどどうでもいいとさえ思っていた。
魔族たちの跋扈する土地とは大陸の東西の端と端であり、直接的な被害を受けていないということも大きい。
無論、小規模な魔物の群れくらいはでるが、それを解決するために遥か東の果てまで遠征しようなどとは思わない。
ただでさえ人類同士の長い戦火に晒された国内は荒廃しており、そちらの復興は最優先だった。
また、統一されたばかりであり国内も完全にまとまっているとは言い難い。
新たな火種にちょっかいを出して家を火事にしたら目も当てられないと考えていた。
「今は火遊びは女相手にだけ留める時だ」とはかの国の初代皇帝の言葉である。
それでも戦争に参加しているのは、古来から国内をまとめるのに有効な手段の1つである
『外部に共通の敵を作る』という目的があるからだ。
帝国としてはせっかく誕生した統一帝国を維持するための新たな『敵』という
看板に魔族を据えただけのこと。
あえて火中の栗を拾うつもりなど毛頭なかった。
とは言え、末端の兵たちにとって最も重要なのはまずもって自分が生き残ること。
その可能性を少しでも上げたいのは誰でも同じこと。
ただし、その手段は大いに違っている。
やる気が暴走している同盟兵、日和見の連合兵、やる気のない帝国兵がさらに混沌とした状況に追い打ちをかけていた。
同盟兵は魔族と見るなり挑みかかっていく。
とにかく敵を排除することで安全を確保するために。
そのため、深追いして反撃を受けることもしょっちゅうだった。
連合兵は勝てそうな時だけ戦い、負けそうなときはさっさと逃げ帰る。
そのため粘りというものがなく、負ける時はすぐに負ける。
帝国兵に至っては引き籠っていてまず出撃しない。
隣の砦が攻められていようと見えないふりをする。
当然ながら仲がいいはずもない。
そんな事情から15年前の魔族と勇者達の決戦場跡に築かれたライン城塞群は
そんな各勢力の思惑が絡み、悪徳と野心、退廃と混沌とをサラダボウルに入れてかき混ぜた上に、破壊の跡に棲みついた欲望と暴力を加えてぶちまけたような酷い状態になっていた。
とは言え、その若い兵がそんな事情までを知っているはずもなく、
彼はいつもどおりに夜勤の者たちと交代するために、
国から支給された簡素な鎧とこれもまた棒の先に刃物を適当につけましたと
言わんばかりの簡素な槍を持って見張り塔へ赴いた。
見張り塔は砦と砦の間を結ぶ城壁から突き出すような形で設けられている塔型の建物だった。
砦の中間に設けられているだけにそこは各国の兵たちが共同管理している。
ただし、前述の事情からあまり仲がいいとはいえない勢力同士場合は
下手に混在させても面倒が増えるだけなので
昼勤と夜勤とを交互にこなすことで折り合いをつけていた。
ちなみにお隣さんはラシイスカ帝国に属している。
神聖同盟としては最悪の印象しかない連中だった。
それでも若い兵は多くの若者がそうであるようにまずは実直に任務に取り組もうとしていた。
そのうち適度な『手抜き』を覚えるのだろうが、それまでは杓子定規に与えられた仕事をこなすしかない。
それ故に彼はいつも通り交代時間に十分間に合うように見張り塔へ向かっていた。
一緒に昼勤をこなす予定の先輩兵士はまだ朝食の最中であろう。
別に遅刻する心配はない。
装備を整えたり荷物をまとめたりする手際が新米とは格段に違っているし、
引き継ぎの手順も心得ている。
新兵である彼が30分かけたことを半分でできるからこその余裕だ。
経験不足の彼にそんなものはない。
昨日の安酒が胃袋を重たくしていたが、塩味のスープで固くなった黒パンを煮込んだ
パン粥を無理やりに流し込んで急いで歩いてきた。
朝食を抜くとかなりきつい。 昼はほとんど食べる暇がないか、
あったとしても粥にする他は固くて食いようのなかった朝食のそれと比較して『幾分かはマシな』程度の黒パンに乾燥肉とヤギのチーズ、
あとは適当な食べられる野草を挟んだサンドイッチ(もどき)を少々くらいだ。
最近は魔族の動きが活発になってきたせいで城塞のさらに外に置かれた
見張り塔は大忙しになっていた。
人魔の境界を担うライン城塞群は大陸の半ばまでを南北に仕切るようにして建造されている。
南側は海。 では半分ほどまでの北の端はというと、
こちらも峻険な山脈地帯が東西に渡りそびえている。
その山脈地帯を挟んでより北は前人未到の極寒の死地。
強大なドラゴンでさえそこに踏み込んでは生存は難しいとさえ言われる。
雄大な自然の猛威と人造の障壁。
この2つが魔族の人類域への侵攻を防いでいるわけだが、
敵とて簡単にあきらめてくれるわけではない。
自然に立ち向かうよりは小賢しい人間の造った壁を壊す方が楽と考えたのか、
思いついたように大規模な侵攻を仕掛けてくることがあり、
その時にはいち早く魔族たちが攻撃してくる地点へ戦力を集中させる必要がある。
この時ばかりはお互いが気に食わないなどと言っている余裕もないから、とにかく大急ぎでだ。
では魔族が攻めやすい個所はといえば、各国の管理の境界線上にあり責任分担が曖昧な城壁部分だ。
また、物理的にも多くの兵が詰めている砦よりは城壁の方が攻略しやすいだろう。
それを補うために早期警戒網として機能させるのが見張り塔である。
見張り塔は味方からすれば遠くを見るべき重要な目であるが、
それだけに敵にとっては真っ先に潰しておきたい場所でもある。
城塞にこもるだけの簡単なお仕事から一転して攻撃の的にされるだけの簡単なお仕事に早変わり。
歩哨にとって最も嫌われる職場の誕生である。
現場では不人気であっても上層部はその存在を必須と見なしていた。
その必須の不人気職場に向かわされるのも若い兵への『洗礼』だった。
面倒なことは下っ端に任せようという話ばかりではなく(その割合は多いにせよ)、
まずは新兵に実戦の感覚を教え込むことも目的としている。
日常的に嫌がらせのような攻撃は仕掛けてくるし、
それに対処することで少しでも経験を積ませようということなのだ。
ひいてはそれが自分たちも含めた全体の生存率を上げることになる。
それは誰からも説明されることはなく、また本人も気付かない。
ただ、面倒なことを押しつけられたと思うだけだろう。
そういうものでよかった。
そして今日もいつも通りに城壁内の薄暗がりの廊下を歩いて行く。
目的の見張り塔への扉まで辿りつくとおざなりにノックする。
「……」
無言で待つ。
いつもならすぐに気だるげな夜勤明けの声が返答するはずだ。
だが、それがない。
不審に思いながらドアノブに手をかけ ―――
「 ――― ッ!?」
慌てて離した。
手に残った異様な感覚に自分の手をマジマジと見てしまう。
続いて鉄製のドアノブと扉にも。
どちらも一見して異常はない。
もう一度、恐る恐るドアノブに触れる。
やはり異様な感覚は残ったまま。
ごくりと唾を飲み込み、そこで自分が緊張していることを自覚する。
先輩の兵が到着するのを待つかとも思ったが、この異常事態が
今も進行している類のものなら一刻も早く報告せねばならない。
意を決して扉を開ける。
そこはいつも通り見慣れた部屋。
兵の待機所であり、休憩や簡単な食事も作れるように食料やかまど、鍋などの調理器具もある。
部屋の真ん中に置かれた木目もそのままに削りだしただけという簡素なテーブル。
上に置かれたいくつもの木製コップと酒でも入っていたのであろう瓶。
夜食のための乾燥肉とパンの籠。
壁には歩兵が使う一般的な手槍。
そして ――― 椅子に腰かけた男たち。
一見して何もかもがいつも通りに在るように見える。
ただ、ただ一つのものだけがそこにはない。
「なんだこれ……」
いつもの変わらぬ部屋。
それが見た目だけのことだと感覚が伝えている。
体の震えが止まらない。
それは目にしたものに対する恐怖ばかりではななく、もっと別の生理的反応でもある。
「まるで……そんな……」
言葉と共に吐き出す息が白い。
椅子に座ったままの男たちを確認し、先程のドアノブから感じ取った
異様な事態が間違いなかったことを悟る。
一見して何もかもがいつも通りに在るように見える部屋。
ただ一つ欠けているのもの。
「……死んでる、みんな、凍って」
それは命。
椅子に腰かけたままの男たちからは一様にそれが抜け落ちていた。
ドアノブを握った時、彼が感じたのは異様なまでの冷たさ。
日が昇らないうちとはいえ、痛みを感じるほどのそれに異常事態を悟ったのだった。
「今は ――― 夏なんだぞ」
○ ● ○ ● ○ ●
『勇者とは異界より招かれし者。
その身は人にして、人の理を超えるもの。
そは信仰によって魔を滅ぼす力を得る。
されど心は変わりゆくもの。
魔の浸食は信仰さえ風化させてしまうもの。
力に溺れて戦う意味を知らず。
欲に塗れて志を失う。
ああ、祝福さえ届かない深い闇の中に身を浸し、光さえ届かない闇を這いずり行き、
いつしかその身は獣に身をやつした。
今はその名を記すことさえ憚れる。
その魂は生きては闇に囚われ、死しては煉獄に焼かれる。
いずれは ――― 』
(……参考になんねぇえええ!)
パタンと、装飾の施された分厚い本を閉じてを頭を抱えた。
傍らには他にも丁寧な装飾表紙の本が何冊か積み上げられている。
ここは知と識の集う場所。
休息日(いわゆる日曜日)を利用して新米勇者のニノマエ・ハジメは図書館を訪れていた。
歴史、文学、宗教、魔法と言った内容の書かれた書物が整然と棚に納められている。
窓から差し込む夏の日差しに焼かれないようカーテンが閉められた室内を
魔法の灯りが頼りなく照らしていた。
一般的には図書館と呼ばれるべき施設である。
ただし、その内容は主に宗教と歴史に偏っており自然科学と魔法関係が次。
文学や化学などはほとんどない。
それもそのはずでこの図書館はこの世界における最大級の宗教勢力である『教会』
が管理しているからだ。
教義に関してはかつての世界でのキリスト教が近い。
ただし、魔族という現実的な脅威が存在し、それに対抗できる紋章機という現実的な御利益もあるため、信徒の信仰心も深いものがあるようだ。
いわゆる『お布施』でこれだけ立派な図書館が建つということからもそれは伺える。
蔵書の数だけならちょっとしたものだ。
それだけに『白い紋章機』や『裏切った勇者』の情報もあるかと期待したのだが、
結果は見事に空振り。
先程の本も抽象的な表現と過剰な装飾ばかりで何一つ知りたいことが書かれていない。
10冊ほど歴史と魔法、宗教関連の本を流し読みしたところだが、得られた情報は多くない。
ほとんどが2次、3次資料 ――― つまりはまた聞きとか報告書を読んで
物語風にしたとかそんなものであることも多い。
例えるなら歴史を学ぶのに花の慶○だとか影武者徳川○康では大雑把な流れはともかく、
細かい点で誤解しか生まれないのと一緒で。
(情報の隠蔽……というより抹消か?
禁忌に近い扱いってのは面倒だな)
先日の酒場で聞いた話にもあった通り、15年前に一人の勇者が人類を裏切った。
それまではどんな思惑があったにせよ人類側に付いて戦っていたはずの人が。
なぜ、という疑問はまがりなりにも勇者を知る者たちなら抱くであろう。
物語でしか知らぬもの、共に戦ったもの、
同じような立場に立つものでは『なぜ』の質も異なるにしろ。
物語でしか知らぬものは人類の希望であるはずの勇者がなぜと言うことになる。
共に戦った者たちに関してはまたそこに別種の思いもあるだろう。
彼のような勇者の立場から見ればなぜの質は大きく違う。
(ぶっちゃけ、『何の得があって』だよなあ)
裏切りと言う行為はリスクが大きい。
下手をすると敵と元味方の両方から袋叩きに合うか、いいように利用されて使い潰されるか。
余程の切り札でもなければメリットなどないはず。
追い詰められて命惜しさにと言う可能性も考えられなくないが、
それにしても魔族相手にそんな交渉が通じるのだろうか。
まして15年前の戦いは『勇者達の勝利』に終わったのだから。
この世界に召喚されてからほぼ勇者としての訓練に時間を費やしてきた。
その傍らでこうして先達の勇者のことを調べているが、やはりキーになるのは『15年前』。
この世界における『召喚された勇者』は何も1人ではない。
1人の勇者の力ですべてか片付くほど勇者とて圧倒的な力を持っているわけではないのだ。
まあ、普通に考えてなんとかできそうな奴を呼べるなら頑張って2人、3人と召喚し
て確実を期そうとするだろう。
誰だってそうするし、実際にこの世界の連中はそうした。
最初の勇者がいつの時代から呼ばれ、いかなることを成したかまでは
今となっては詳しく知ることはできない。
だが、今まで連綿と勇者召喚が行われていることからある程度の成功を収めたのだろう。
すべてを終わらせることはできなかったにせよ。
(初代勇者は魔王を討って世界に平和をもたらした。
でもその何十年か後にはまた新たな魔王が出てきての繰り返しか)
まるでRPGの続編みたいなノリだ。
そのまま結局、人類と魔族との戦争は延々と今日に至るまで続いているようだ。
続いているということは今まで召喚された勇者たちも結局のところ
魔族を倒しきることはできなかったということか。
それでもいくつかの『歴史的な勝利』は納めている。
代表的なもので初代勇者の魔王討伐。
言うまでもなく魔族たちの首魁である魔王を滅ぼしたのは大きかったらしい。
魔族たちの襲来に怯えながら町や村単位でなんとか凌いでいる状況から、
魔王討伐後は一気に大陸の1/3を人類の領域としている。
いくつもの新興国も生まれたようだ。
次は時代は定かではないが、恐らく100年ほど前。
何度目かの魔王復活と魔族の大規模侵攻に対して人類側の総力を挙げた防衛戦が行われた。
特筆すべきはこの頃になると勇者も複数人が登場し、さらに勇者の使用する人型兵器、
紋章機の劣化量産型のアーマード・ギア(略称:AG)が登場する。
複数の国家が召喚した複数人の勇者と同数の紋章機。
そして多数の一般兵と量産型AG。
人類も魔族も組織だった戦いを繰り広げる『戦争』を行っている。
紋章機とAGの違いはいくつかある。
列記すると、
1.紋章機は勇者しか扱えない。 AGは一般の兵士でも扱える。(ただし、魔術的な洗礼は必要)
2.紋章機は名前の由来にもなった『紋章の浮かび上がる宝玉』を胸部に埋め込まれている。
AGにはない。
3.紋章機は2の宝玉の効果によって固有の魔術を使える。 AGは使えない。
4.紋章機はすごく高価。 AGは高価だけど紋章機ほどじゃない。(約半値)
ガ○ダムとジ○のような関係。
ただし、紋章機は勇者しか使えないから量産しても意味がない。
勇者を複数人召喚するにしても莫大なコストと時間がかかるらしい。
何でも魔力を吸収する特別な霊水晶を数年かけて月光を当て続けることで触媒にし、
他にも貴重な宝石だの魔獣の素材だのを集めて霊装を作成し、
召喚用の大規模な神殿を魔力の集まるスポットに建築して、魔法陣も宮廷魔術師たちが
えっちらおっちら月齢やら星辰やらを組み込んだ計算を行った上に設計して書くので
やはり時間と手間がかかる。
しかも準備に使った諸々は1回の召喚によって魔力を使いきってしまうため、再使用できない。
魔力が集まる土地にしても同じ。
地下水の汲み上げ過ぎで地盤沈下を起こすようなもので、魔力を根こそぎ吸い上げてしまうために、
霊地としてはまったく意味を成さなくなる。
何十年、あるいは百年以上という期間で回復はしていくが、乱発しすぎるとまずいのは一緒。
霊地は何も勇者召喚にのみ使うわけではない。
むしろ病院を兼ねた教会と施療院を建てて治癒魔術の効果を強めたり、
工房を建てて魔術処理の精度を上げた霊装を作るなりと言った使い方の方が一般的である。
工房の中にはAGを作成するためのものも含まれるから、
全体的な戦力の底上げという意味ではこちらの方が有効ですらある。
この辺りは勇者という戦力をどう考えるかという点になるので、さじ加減としか言いようがない。
例えばドラゴン1体を倒すのにAGでは12機が必要
(しかも半数以上が戦死する見込みで)となるのに対して、
紋章機なら能力次第では複数を相手取っても十分に戦えることだってある。
逆にAGでも対抗可能なサイクロプスやギガントといった巨人種、
魔術を使えないでかいトカゲな亜竜種が広域に渡って攻めてくるような状況では
紋章機の単機では複数の拠点を守るのに手が足りず、
波状攻撃を受け続けたらいずれは疲労で倒れてしまう。
この場合は一般のAGを数揃えた方がよい。
どちらか一方があればよいというものではなく、どちらも必要とされている。
それを多くの人々に認識させたという意味で貴重な戦争だった。
それからまたいくつかの大きな戦争を経て、最も新しいのは15年前。
人類側最大の反攻作戦が行われた。
投入された戦力は莫大。
2年の期間をかけて人類側は大陸の半分を自らの領域に取り込んだ。
最終的に雌雄を決したのが今はライン城塞群によって分断された境界の地、
セントール平原における『決戦』だった。
幾多の戦闘を乗り越えて残った8人の勇者が参加し、
魔族側も魔王自らが出陣するなど総力を挙げての文字通りの『決戦』が行われたのだ。
人類側はそれに勝利した。
無論のこと払った犠牲も少なくない。
少なくとも万単位の将兵が戦死、参加した勇者も無傷で済んだものはない。
記録によれば3人が戦死。 1人が重傷を負いそれが元になり1年後に死亡。
生き残った者も戦列に復帰できたのは1人。 2人は紋章機を完全に破壊され、
自身も2度と搭乗できないほどの手傷を負った。
そして ――― 1人が裏切った。
(……やっぱり、わからない)
なぜ、そのタイミングで裏切ったのか。
魔族が勝っているとかならわかる。
勇者が裏切ったせいで人類は敗退しました(バットエンド)のような流れならともかく、
この戦ではきっちり勝利している。
その後の裏切った勇者の動向が不明ということもあり、動機もまるで見えない。
(魔族についたって言っても、結局のところ魔王は討たれてるわけだし)
資料によって内容に差異はあるものの、今のところ魔王が不在というのは間違いないらしい。
最近になって魔族の動きが活発化してきたという話も聞くが、
それは逆説的に「今までは魔王がいなくて大人しかった」とも言える。
この時の決戦で討たれたとも、受けたダメージが大きくて封印されたとも、
裏切った勇者に暗殺されたとも言われている。
最後の場合はますますもって裏切った勇者が何をしたかったのか不明になってしまうが。
(考えられる理由か……。 王道的にはいくつかあるけど)
召喚前の世界であったマンガやゲームからの悪堕ち・闇堕ちパターンから推測してみる。
1.「こんなに悲しいなら、愛など要らぬ!」パターン
理不尽に愛する者を失い、復讐に走ったりする場合。
あるいは世の中とかに絶望した場合。
無駄に復讐対象のスケールが大きかったりして、しかも自身も実力あったりすると
魔王化する……らしい。
実際、多くの勇者や将兵、民間人も犠牲になっているのでその中に含まれていた
可能性も否定できない。
でも魔族のせいで死んだら普通、魔族が復讐対象じゃなかろうか。
保留。
2.「やめろ、ショッ○ー!」パターン
簡単言って洗脳とか改造とか。
敵にさらわれたり、死んだと思われていた人物が敵に洗脳されて敵として登場する場合。
別に決戦までは行方不明にもなってないし、さすがにちょくちょく洗脳されてたら
周囲が気付くだろうから関係ないと思う。
可能性低し。
3.「クククッ、この体はもはや我のものよ」パターン
倒したはずの魔王の意思とかが憑依・寄生する場合。
ファンタジーなのであながち無いと言い切れないのが怖い。
でもそうなったら初代勇者が『魔王を倒しました』なんて言えないし、
その時の魔王が特殊なだけだったりしても、別の体に移って魔王が無事なら
魔族が大人しくなることもないんじゃなかろうか。
可能性中程度。
4.「俺は人間をやめるぞ!」パターン
最初から狙っていた場合。 こればかりは何とも言えない。
何しろこの世界における『勇者』とは『紋章機を使える召喚された者』のことなので、
そこに人格の良し悪しはまったく関係ない。
そもそも円満な人格者になれるような人間は勇者として召喚されない。
これは実体験からも、召喚時の説明からも納得している。
なので自身の野望のために裏切ったとしても不思議ではないのだが ―――
(やっぱり、『何の得があって』か)
結局、最初の疑問に戻るのだ。
どのパターンにしろ、まだ情報が少なすぎる。
せめて人となりのわかるようなエピソードの一つでも欲しいところだ。
裏切る動機となるような事件が何かあったはずなのだ。
それを調べきれていない。
この世界に勇者として召喚される条件は紋章機を扱える才能を持つこと。
次にかつての世界に居場所を無くし『どこかへ逃げたい、解放されたい』という思いと、
あとは死にかけているだとか、自殺しそうだとか、天涯孤独だとか、僕は友達が少ないだとか、
その世界との繋がりが希薄になっていることが召喚の条件とのこと。
召喚前の世界の人間がすべて紋章機を扱えるというわけではないらしいが、
この世界にはその才能の因子そのものを持つ人間がいないとのこと。
それだけだ。
ただ、それだけ。
死に難いわけでもなく、幸運に恵まれるわけでもなく、何かすごいアイテムを持っているわけではない。
生身で魔術を使う魔術士もこの世界には居るのだが、紋章機を使うのとはまた別の才能が必要らしく、
一応は診てもらったものの、魔術士は無理といわれてしまった。(これは他の勇者も同じらしい)
異世界なんだし、チート能力の1つでもくれよと思わなくもないが、
この世界の神様とやらは紋章機を使うという才能だけしか用意してくれなかったらしい。
まさに天は二物を与えず。
それにしても紋章機は召喚先で用意されたものだし、その他は自分の才覚しかよって立つものはない。
召喚時に身に着けていた物は持ち込むことができるが、向こうの世界で役立つものはこちらの世界でほとんど役に立たない。
ほとんどが電気か化石燃料を必要とする類のものだから仕方がない。
実際、彼が持ち込んだスマートフォンはあっさりバッテリー切れをおこしてそのまま放置されていた。
生きるためには衣食住が必要で、その代価を求められる。
紋章機を使うことしか才能のない勇者達は生きるためにただ魔族との戦争に参加していく。
ただそれが不幸かと言われれば必ずしもそうではないのではないか、最近はそう思っている。
少なくとも前の世界に帰りたいなどと思うことはない。
不便な面はあるが、それでもこちらの生活は充実している。
『誰かに必要とされている』というやりがいを感じるからだ。
きっと先達たちも最初は仕方なくだったに違いない。
ただ生きるため、他に方法がないから、状況に流されて。
それがいつしか『大切な誰かを守るために』や積極的な意味で『生きていくために』という
理由に変わっていったのだろう。
きっとこの世界で生きて、笑って、泣いて、怒ったりもして。
友達もできて、恋もして、ケンカもしたかも。
(だから、死ぬまで戦えたんだよな。
なんにもない奴は、そこまでできないよ)
今の自分はそこまで至っていない。
命を投げうってまで人類のために戦うという動機もなく、
かといって裏切り者と言われてまで何かを成すために仲間たちと袂を分かつような
強烈な自我もない。
だからこそ調べようと思ったのだ。
このまま戦うにしろ、別の道を模索するにしろ、
いずれにせよ後悔はしないように。
自分が戦場へ赴く日もそう遠くないはずだ。
この図書館に来る前も妙な噂を聞いた。
( ――― 勇者の亡霊ね)
それはここ数ヶ月でまことしやかに囁かれている都市伝説……
というべきか戦場伝説というべきか、とにかくそんな噂だった。
あらすじとしてこうだ。
若い兵士が夜勤の交代に見張り塔へ赴く。
ノックをしても部屋の向こうから返事がない。
不審に思って中を確認すると、皆死んでいる。
しかも死因は『凍死』。
この真夏に冬山にでも放置されたかのような有様で凍っていたという。
召喚前の世界ならそれこそミステリーなのだが、この世界にはファンタジー要素が満載である。
冷気の塊を敵にぶつけるという魔術があるので、状況を再現すること自体は可能。
ただし、その場合はなぜ部屋の兵たちは魔術を食らうまで何もしなかったのか。
そもそも犯人はどこから侵入したのか。
見張り塔へ続く通路にも不寝番は立っている。
そこに不審者が通ればいくらなんでも気付く。
見張り塔はあくまで見張りが任務なので外部からの侵入を許すような扉や、
低層階の窓は存在しない。
なので恐らく攻撃は外部から行われたと思われる。
それを証明するかのように見張り塔の周囲にはいくつかの痕跡があったという。
まずは巨大な足跡。
巨人族かAGに匹敵するような巨大なそれが残されていたという。
次に地面に何かを突き立てたような跡。
恐らくは細身の剣か槍か、そのあたりと思われる。
そこまではっきりした証拠を残しておいて亡霊はないだろうと思うのだが、亡霊といわれる由縁もいくつかある。
まず、8m級の人型兵器なんてものが近付いてきたのになぜ見張りたちは気付かなかったのか。
夜間とはいえ、間近まで迫ったらさすがに気付きそうなものなのだが、そんな痕跡がない。
他の通路を見張っていた者たちも特に変化に気付きはしなかったという。
次に足跡。
もちろんのことそれを追跡することはした。
ただ、それは途中からぷっつりと途切れていたという。
それ以上捜索しようにもあまり進むと魔族たちの領域に入ってしまうため
捜索を打ち切らざるを得なかった。
もし犯人がAGならば、魔術を使ってそれを成したということになる。
魔術が使えるAGとはすなわち紋章機。
紋章機を使えるのは勇者だけ。
今いる勇者が味方を攻撃する理由などないから、それは『別の何か』ということになり ―――
(それが15年前の亡霊となるわけか)
彼は幽霊の類を信じていないが、このファンタジー世界ならあり得るかもと思い
この噂を聞かせてくれた仲間の少女に確認してみた。
『ゆゆゆ、幽霊なんて居るわけないじゃない。 居ない、とにかく居ないの!』
という反応があったのでこちらの世界でも死者に対するそれは同じようだ。
(そうなると、やっぱり『15年前の亡霊』 ――― この場合は比喩的な意味での亡霊だね。
裏切ったって言う勇者の復讐?)
その当時で何歳かは知らないが、戦争に参加できる年齢と考えれば10代半ばから
20代くらいだろうか。
当時で30歳を超えているとはあまり考えられない。
なぜなら今残っている他の勇者達も10代から20代だったから、一人だけ年上というのはないだろう。
紋章機に年齢制限はないだろうが、あまり歳をとってからでは体力的にキツイということもあり、
召喚される年齢帯もその辺に集中しているらしい。
だとすれば今生きていて30代くらい。
まあ、紋章機に乗るにも無理のない年齢ではある。
(じゃあ、裏切った勇者の能力は『冷気を操る』こと?)
状況だけ聞けばそう思えなくもない。
だが、そうすると酒場で聞いた話と一致しない部分がある。
冷気を操る能力で瞬間移動のようなことはできるのだろうか。
それに、冷気を操る能力は戦死した別の勇者の紋章機が持っていた。
炎や冷気はメジャーな能力なので被ることだってあるだろうが、
それでは瞬間移動が説明できない。
それに、
(この亡霊が出たのは一例だけじゃないってことだ。
その他にも斥候に出たAG部隊が襲撃された話もあるし)
そちらの話はまた趣が違う。
斥候に出たAG部隊は途中で濃霧にまかれて身動きが取れなくなる。
交代で周囲を警戒することにするが、ある1機がいつまでたっても戻らない。
何かあったかと思って探しに行くとそこには一刀のもとに斬り伏せられた味方機が。
袈裟掛けに裂かれた機体の中ほどまでに達する切断個所には半ばで折れた特徴的な剣が ―――
というのがまたホラーチックではあるのだが、その特徴的な剣というのが話を聞くと
『細身で反りの入った片刃の剣』だという。
サーベルとも違ったというから、たぶん刀だろう。
こちらもやはり襲撃者の姿は見られていないが、その武器の特徴は先日の話で聞いた
『白い紋章機』のものと一致する。
最後にもう1つ。
こちらはなんと目撃情報。
輜重隊を護衛していたらいきなり茂みから刃が突き出してきてAGの喉を貫いた。
輜重兵たちは命からがら逃げ出したそうだが、その時に見たのだそうだ。
灰を頭から被ったかのような不吉な色の機体を。
応援を引き連れて戻ってみるとそこに敵の姿はなく、物資は奪われ、
外傷はほとんどない護衛のAGが2機。
最初に喉を貫かれた機体も、人間と違って胸部のコクピットを貫かれたわけではないから
パイロットは無事かもと思ってハッチを開けてみるとそこには氷漬けになったパイロット。
この点は最初の真夏に氷漬けになった兵士たちと共通する。
ただし、もう1機の撃破されたAGのパイロットはもっと酷い有様だった。
刀による傷は腋の下にあったがコクピット内に残されていたのは炭化して原形を留めない人の残骸。
しばらく焼き肉が食べられないこと確定モノの代物だったという。
(で、その目撃情報からついたあだ名が<灰かぶりの亡霊>)
『白い紋章機』そのものではないようだが、話してくれた兵はそれが白い色が長年の
汚れで灰色にくすんだのだと説明してくれた。
(まあ、それは疑わしいけどね)
それが白い紋章機のなれの果てと多くの人は信じているようだが、彼はそうは思わない。
なぜなら、紋章機の能力は1機に付き1つ。
氷漬けと丸焦げではまるで正反対ではないか。
そしてその能力のどちらも先日の話の瞬間移動と合致しない。
むしろまったく別の機体と思った方がいいのではないだろうか。
仮に近頃の襲撃犯が紋章機だとして、その理屈から言うと機数は最低で2機。
冷気を操る1機と熱を伴ったの攻撃をしている1機。
逃げた輜重兵は灰色の1機しか見ていないが、もう1機はどこか別の場所に隠れていて、
タイミングを計り2機で襲撃する。
最初に冷気を操る機体が一撃を加え、そちらに気を取られている隙をついて
もう1機が残りを始末する。
(うん、なんとなくイメージできる)
茂みに身を潜めて獲物が来るのを待ち受ける2機の紋章機。
彼らは打ち合わせ通りにジッと息を潜めてその時を待つ。
時は夕闇時。
魔族たちが活発になる夜になる前に目的地へ到着しようと急ぐ輜重隊。
焦りから周囲への警戒はおざなりになっている。
彼らにとっては絶好の獲物。
まずは灰色の機体が通り過ぎようとしたAGに仕掛ける。
狙うのは装甲の隙間。
人を模したAGのそれは基本的に対人戦闘のノウハウが使える。
伏せていた茂みから突き上げるようにして喉元へ刃を滑り込ませる。
そして能力を解放。
喉の下はコクピット。
破孔から吹き込む冷気は一瞬にしてすべてを凍りつかせる。
崩れ落ちる相棒に慌てて応戦しようとするもう1機のAG。
まさに襲撃者の狙い通りに。
そこへすかさず無防備な背後からもう1機の紋章機が襲いかかる。
背を向けていた護衛機に抗う術はない。
狙いはやはり装甲の隙間。
腋の下に刃をもぐりこませると、魔術を行使。
コクピット内部を焼いてパイロットを殺害。
(間違いなく熟練のパイロットだよね、これ)
最低限の魔術行使で最大限の効果。
斥候隊を襲った時にはうっかり装甲を持った相手に斬りつけて刀を折っているが、
それを反省して学んだとしか思えない動きをしている。
ますますもって実体のない亡霊の仕業とは思えない。
(だけど、また新たな謎が……)
ではこの襲撃者は誰だということになる。
勇者の得る能力は基本的に変わらない。
成長したりして強力になることはあるらしいが、まったく別のものに変質することはないという。
瞬間移動、冷気、炎。
どれ一つとして共通点はない。
(それに気になるのは冷気も炎も戦死した3人のうち2人の勇者の能力ってことだ。
まるっきり偶然とは思えない)
<灰かぶり>とはいったい何なのか。
噂で言われるように『裏切った勇者』なのか。
またはまったくの別人なのか。
戦死したはずの勇者達の能力を使えているのはなぜなのか。
襲撃者たる謎の紋章機は何の目的があるのか。
謎は尽きない。
裏切った勇者のことを調べていたはずなのに調査が進むどころか新たなな謎が出てきてしまった。
だが、それ以上に ―――
(戦場に赴いたら、そいつらと戦うかもしれないんだよね)
間違いなく手だれの、しかもこちらと同じく魔術を使える連中と。
(……ああ、明日からの訓練頑張ろう)
まずは最低限生き残るために。
シクシク痛み出した胃を押さえつつ、そう決意を新たにするのだった。
とりあえず第2話まで。
色々とネタまみれですが。
次話あたりでヒロイン登場の予定。
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