王城の森の魔女(掌編)
王城の背を守るように広がる、鬱蒼と暗い森の奥。ひとりの魔女が住んでいた。
「チッ」
台所の鍋をかき混ぜながら、魔女は大きく舌打ちをする。
「千客万来。毎日招かれざる客ばかり!」
黒い帽子の下からうんざりした声が漏れてから半刻、小屋の扉が叩かれた。
「お呼びでないよ、とっととお帰り!」
外に向かって怒鳴るも、礼儀正しいノックの音は続く。
「ああ、まったく!帰れと言ってるだろう」
怒声とともに扉を開けた魔女に、今日の客はにっこりと笑った。
「おはよう魔女様。招いてくれてありがとう」
許しを得る前に、陽光のような髪をなびかせて、少年は飄々と家に入っていく。
「けれど扉を叩き続けるってのも疲れるんだ。家の主が扉を開けないと中に入れないって魔法、解除してくれない?」
片手で肩を揉みながら嘆く少年に、魔女は歯をむき出しにして威嚇した。
「嫌なこった!たとえ王子様の命令でも聞けないね」
「そりゃ王国を守ってくれるあなたの方が偉いものね」
魔女の言い分にけらけらと笑って、少年は肩をすくめる。
「姉上も兄上も従兄たちも、みんな骨が折れると言っているのに」
「軟弱者どもめ。じゃあ来なければいいじゃないか」
「そうもいかない」
皮肉気に言う魔女へ、少年はぴかぴかの瞳を柔らかく細めて肩をすくめた。
「始祖王から先祖代々のお役目だからね」
「お前らが来なくなったって、王国は守るさ。マブダチとの約束だからね」
壁に掛けられた始祖王と二人並んだ肖像画を杖でバンバンと指しながら、魔女はフンと顔を背ける。いじけた仕草を見せる魔女に、少年は相好を崩した。
「優しい魔女様。それはありがたいけど、僕らもちゃんと約束は守るよ」
くすくすと笑いながら、少年は手慣れた様子でテーブルにお茶の用意をする。大きなバスケットからサンドイッチを出しながら、歌うように口にした。
「毎朝おはようを言うこと。朝食を共にすること。聖夜祭の晩は城に招くこと。誕生日は王族の子みんなでお祝いすること」
「余計なお世話だよ」
カーテンの裏に隠れた魔女を引っ張り出して、テーブルに導く。不貞腐れている魔女に少年は首を傾げた。
「嘘ばっかり。大嵐が誕生日に重なった時は、ひとりで泣いていたじゃない」
「そんなことはない!」
「嘘。あれからずっと不機嫌じゃないか」
不本意そうに喚く魔女へ呆れたように言って、少年はマフィンを差し出す。
「百年ぶりにひとりぼっちの誕生日を過ごさせてしまって悪かったよ。夕方になるまで、とても外に出れなかったんだ。ごめんね」
「ふん」
いじけていた魔女も、好物ばかりが並ぶテーブルに悔しそうな顔で手を伸ばす。
「朝ごはんを食べたら、かけっこでもしようよ。永遠に子供の魔女様」
「身体は子供でも精神は年相応だよ!」
「僕よりお子様のくせに」
魔女と言いあって、少年は笑った。
「寂しがり屋の魔女様、僕らはお役目がなくても、みんな、あなたのお友達なんだよ。仲直りしよう?」
差し出された手を無視する魔女と無理矢理に握手して、少年は「手が焼ける三百歳だ」と呆れて笑った。




