1円玉
信じられなかった
財布の中、ちょうど1円だけ足りなかった
『現金払い以外お断り』
店の張り紙を横目で見る
焦って1円玉を探すが、財布は空だ
ポケットの中にもカバンの中にも、
どこにもない
「本当に無いんですか。
たった1円なのに」
店員が呆れた迷惑そうな顔で聞いてくる
別の張り紙が見える
『後払い厳禁。即通報』
『信じない。「下ろしてくるから」全て詐欺』
俺はさらに青ざめる
店内の他の客は
焦る俺を、面白がり、傍観している
味方はいない
1円玉もない
諦めかけたその時
店の扉が開いた
そこから
純度100%アルミニウムの、小さな顔が覗いた
「呼んだか」
1円玉が来てくれた
走って来てくれたのだろう
汗をかき、荒い息をしていた
1円玉は、状況を察すると、
止める間もなくレジに飛び込み
精算を済ませてくれた
あっという間のことで
俺は感謝の言葉を口にすることも出来なかった
店を出て
貯金を下ろし
別の1円玉に聞いてみた
その1円玉は言った
「感謝なんていいよ。その1円玉も嬉しかったはずさ。
普段、無視されることの多い我々を
そんなに求めてくれたのだから
その心だけで十分さ」
そう言って、財布の中に戻ろうとした
だが、途中で立ち止まり
突然、遠くを見つめた
俺には聞こえない遠くの声に
耳を澄ましているようだった
俺は察して
「行っておいで」
と、声を掛けた
1円玉は、俺を見て
微笑んだようだった
そして
困っている誰かのために
1円玉は
走って行った




