2話 ママのカラフルなお出かけ
「もう。じゃあ、お昼ね。うん。大丈夫よ。今から支度するから。少し遅れるかもしれないけどー。うん、じゃあ後でね」
ママは電話を切った。
そしてすぐに二階へ駆け上るように走って行った。
「またママデートみたいね」
「そうね。見ててごらん。珍しくまたスカートはいて下りて来るから」
私とホーは階段の下でママが下りて来るのを見てた。
ママは普段はかないスカートをひらひらさせながら階段を軽い足取りで下りて来た。
「ね」
私とホーは顔を見合わせて笑った。
「ママ出掛けて来るから、ちょっと留守番しといてね」
ママは私とホーの顎の下を指先で撫でた。
私はホーの顔を見て、示し合わせる様に二人でママに吠える。
「わかったわよ。ほら」
ママは吠える私たちにおやつのクッキーを二つくれた。
人間の世界ではこれを「口止め料」って言うらしいけど。
ママは買ったばかりのブーツを玄関ではいて、お気に入りのバッグを肩から提げた。
玄関の棚の上に置いた車のキーを取り、指で回しながら、ママは出て行った。
私とホーは玄関でそのママを見送る。
「最近、ママ、お出かけの回数増えてるよね」
ホーはクッキーの粉を舐めながら私に言う。
「そうね。ほとんど引きこもりでネットばっかしてたのにね」
「パパさんとか気付かないのかな……」
「パパさんは家の事に関心ないんだよ。ママが髪切って来ても気付かないしね」
私とホーはいつものリビングの陽のあたる場所に移動した。
そしてゆっくりといつものように丸くなる。
ママの運転する車がガレージから出て行った。
側溝の蓋をタイヤが踏み、大きな音をたてる。
ホーは水を飲みながら、そのママを見送っていた。
「ママが居ないとソファで寝れるから良いな」
ホーはそう言うとソファに飛び乗り、丸くなった。
私はソファより硬いフローリングの方が好き。
「最近、知らない人の匂いが増えて来たよね」
ホーは鼻をクンクンしながら言う。
「そうね。多分ママの彼氏の匂いなんだと思うけど」
「何年か前にもあったよね」
「うん。あの時はパパさんだよ。パパさんに彼女がいてさ。その彼女の匂い。なんか安っぽい香水の匂いだったな」
私は外を眺めたままホーに言った。
「私嫌いだったな。あの匂い」
「私もよ……。でもあれはすぐにパパさん振られちゃったはずよ。すぐに匂いも消えたし」
私はその時の匂いを思い出した。
そして吐きそうになった。
あの匂いはこの家の新築祝いのパーティをした時にやって来た、パパさんの会社の圭子って女の匂い。
誰にもわからないかもしれないけど、私たちにはわかるのよ。
だって犬なんだもん。
パパさんもつまんない女が好きなんだね。
ってあの時もホーと話した。
何にも言えないから、そのつまんない圭子って女に撫でられて、もう気持ち悪くて気持ち悪くて、早く帰ってくれないかなって思ってたな。
「ママ。何時に帰って来るのかな」
「今日はほら、下着替えなかったから早いよ」
ホーは不思議そうな顔をしてた。
「どうして……」
私は溜息を吐いた。
「あなたもまだまだガキね。ママが下着を替えて外出する時は彼氏とセックスするのよ。今日は替えなかったから、ご飯だけでしょ……」
ホーは納得したかのように頷いてた。
「ママ、パパさん以外とセックスしてるんだ」
「そうよ。だから彼氏の匂いしかママからしないでしょ」
「そうか」
「パパさんとはもう長い事セックスしてないはずよ。匂わないもの……」
私たち犬は大抵の事は匂いでわかる。
例えば、パパさんが焼き鳥食べて来たとか、お風呂入って来たとか。
人間にはわからなくても私たちにはわかるの。
喋れないから、そんなことわかっても仕方ないけどね。
喋れないから人間は平和なのかも。
喋れたら、浮気なんてすぐばれちゃうしね。
少し前に「バウリンガル」なんてモンが流行ったけど、あれはデタラメ。
お腹すいたって言ってるのに、遊んで欲しいって認識したみたいで、パパさんに無理矢理散歩連れてかれた事あったし。
まあ、たまには機嫌取らなきゃいけないから、いいけどね。
さて、ママが帰って来るまで、少し寝よう。
ホーもウトウトしてるみたいだしね。
ママは彼氏と会うと機嫌良くなるから、私たちには好都合なのよね。
頼むわよ。
ママの彼氏。




