16話 ママのカラフルな怒り
寒くなって来ると暗くなるのも早いわね。
もう外は暗くなりかけてた。
「ただいまー」
って大声で帰って来たのはケンサク。
ケンサクは玄関のカギを開ける時からガチャガチャうるさいのよね。
ママはソファに座ってかなり不機嫌な顔をしてる。
モエナのサボタージュ事件のせいなんだけどね。
返事のないママの様子にケンサクも少し気がついたみたいで、
「ママー、おやつ……は、後にしようかな……」
なんて声を小さくしてゆっくりと二階にランドセルを持って上がって行っちゃった。
そりゃ気付くわよね。
ママも額に血管浮いちゃってるし。
こりゃモエナ、今日はどうなる事やら。
ボーイフレンドのところにいるってわかったら、ママ更に怒るかな。
ホーは私の顔を覗き込んできた。
そりゃ、怒るなんてもんじゃないんじゃない。
あんたが男作るなんて百万年早いわよ。
って感じで怒鳴りつけるわね。
私は近すぎるホーの顔を少し鼻先で突いた。
ママも彼氏いるのにね。
ホーはそう言って少し舌を出してた。
ホーもなかなか毒付くようになったわね。
私は少しママの足元に寄ってママの顔を見上げた。
駄目だわ……。
ママの視点定まってないわ。
これはモエナ、今晩は久々に泣きわめく事になるわね……。
足音が聞こえた。
でもこの足音はワカナね……。
玄関のカギを開ける音がして、
「ただいま」
ってワカナの小さな声が聞こえた。
ワカナだね……。
ホーはそう言うとリビングの入口まで行って私の方を見てた。
いつもなら私とホーはワカナのお出迎えに玄関まで走るんだけど、今日はそんな空気でもない。
って、犬の私たちまで空気読む事ないんだけどさ。
ワカナもリビングに座るママを見て、一瞬でその空気を読んだみたい。
「どうしたのママ。怖い顔して……」
ワカナは鞄を階段に置いて、ママにそう言ってた。
ワカナって勇気あるわね。
あのママに話しかけるんだから……。
ホーは私の傍まで戻ってきて少し笑ってた。
「モエしらない。どこに行ったか」
久々にママの声聞いたわ。
ママも久しぶりに声を出したから少し声かすれてるし。
「モエいないの」
「うん。学校から電話あって、体調悪いって帰ったって」
そこにケンサクが二階からドスドス降りてきた。
「どしたの。モエナお姉ちゃんがどうかしたの」
ケンサクもママの不機嫌さが気になってたのね。
私たちが話せれば教えてあげられるのにね。
ホーはそう言って窓際で寝転がる。
そうなんだけどさ。
口止め料ももらってるしね。
そんな簡単じゃないわよ……。
あ、そっか。
口止め料って強いのね。
もらっちゃったしね。
私たちも同罪かもね。
私は少し首をかしげて、ホーに微笑んだ。
「まったく……モエったら何やってんのよ」
ワカナはそう言って二階に上がって行った。
「ケン。宿題あるんでしょ。早くしなさい」
ママはケンサクにも少し強い口調。
とばっちりってやつね。
「うん。でもちょっと、おなかすいちゃって」
ケンサクはそう言ってキッチンの方へ。
ケンサク、オヤツ食べるんだ。
ホーは勢いよくケンサクのところへ走って行った。
ホー。
馬鹿ね。
今ケンサクからおこぼれもらうと私たちにもママの怒りが。
もう、知らないわよ……。
「ママ、晩御飯なに」
ケンサクはそう言ってリビングを覗き込む。
そのケンサクを見たママの目。
そりゃこの世のモノとは思えない怖さよね……。
私からは見えないけど。
やっぱ空気を読むって人間も犬も大事よね。
ご飯の事、ママに聞くとママはいつも不愉快になるのよね。
ママは料理嫌いだもんね。
ワカナは料理出来るけどモエナもケンサクも自分じゃ出来ないもんね。
ご飯なにってなるわよ。
あれ……。
私は窓際まで行って、外の音に耳を澄ました。
やっぱり……。
モエナ。
そろそろ帰って来るわ。
始まるわよ……。
地獄の黙示録が……。




