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第九百四十六話 運用術(三)

「それで、第一作戦室長殿が考える武装召喚師の運用法というのがいったいどういうものなのか、お聞かせ願えますか?」

「もちろんです。先にひとつ断っておきますけど、俺の考えた運用術が実用に耐えるかどうかを聞きに来たのであって、実際にその通りに動かすわけではありませんからね」

 エイン=ラジャールはそういうと、こほんと咳払いをした。続けてくる。

「武装召喚師は、ただひとりで強力です。セツナ様の例を挙げずとも、ファリアさんやルウファさんも強力極まりない戦力といっていい。通常戦力では太刀打ち出来ないのが、武装召喚師という戦力です。武装召喚師ひとりで通常戦力の百人分から二百人分に当たるという局長の評価は間違っていないでしょう。まあ、ファリアさんたちは五百人分とかいう次元ですけどね」

「セツナはさらにその上ですね」

「万魔不当のセツナ様ですからね」

 万魔不当とは、たったひとりで万を超える皇魔を撃破したことからつけられた異名だ。魔屠りと呼ばれることもある。

「あのひとだけ特別なんですよ」

「ええ、まったく」

 エインが心底嬉しそうに笑った。実際、彼はセツナが活躍することが嬉しいのだ。

 彼は、セツナ信者と呼ばれている。ログナー戦争以来、セツナ=カミヤを崇拝してやまなくなったといい、ナグラシアでセツナと逢ったときの彼の様子は、いま思い出しても不思議としかいえなかった。

「話を戻しますと、武装召喚師はただそれだけで強力ですので、そのまま運用するというのも悪くはないんですよね。《獅子の尾》のような武装召喚師だけの部隊を組織して運用するのも間違いではないし、ガンディア軍の各部隊に分散させるのもいい。いずれにしても、ガンディアの戦力を大幅に底上げすることに違いはないんですから」

「そうですね。下手な運用術を用いるよりは、ほかと同じように利用するのも悪くないとは思いますよ」

「しかし、それでは参謀局の立つ瀬がない」

「といいますと?」

「戦力の運用法に創意工夫を巡らせるのが、我々参謀局の役割ですり、将来、軍師を目指すならなおのことだれもが考えつくようなことで満足している場合ではない」

「軍師を目指している、と?」

「ええ。だから局長の召集に応じたんですよ」

 エインが遠い目をした。参謀局が設立されたのは、昨年末のことだ。それから半年近くが経過している。その間、戦争がふたつあった。ひとつはミオン征討と銘打たれた戦いであり、ひとつはクルセルクとの大戦争だ。特にミオン征討は、目の前のエインがガンディア軍の指揮を取ったことを覚えている。参謀局のお披露目的な意味もあったのだろうし、エインに経験を積ませる意味もあったのだろう。ミオン征討では、エインは一度しくじっている。単純に敵戦力を見誤ったのだが、それによってガンディア軍に多大な被害が生じた。ミオンの突撃将軍ギルバート=ハーディ率いる騎兵隊の決死の突撃など、想像のしようもなかったが。

 ナーレス=ラグナホルンなら、見ぬいただろうか。

「それはともかく、武装召喚師を通常戦力と同じように運用するだけでは、参謀局の存在する意義がないといっても過言ではないんです。参謀局は、軍師の後継者を育成するための組織ではありますが、同時にガンディア軍を更に強くするための組織なのです」

「それはわかりましたけど、どう運用するのです?」

「本題はそこですよね。本題であり、問題であるんですが」

 そういって、彼は、鞄の中から一枚の封筒を取り出した。封筒の中には書類が収められており、ファリアの位置からも書類の文頭に記された文言がわかる。武装召喚師の運用法についての提案、とある。書面にびっしりと書き込まれた文字列が、その提案に関するものなのだろうが。

「具体的にはここに書いてある通りなんですが、手間取らせるのもなんですので、口頭で説明しますね」

「そうしていただけるとありがたいですね」

「簡単にいうと、武装召喚師を中心とする小隊を設けよう、というものなんです」

「武装召喚師の小隊?」

「武装召喚師だけの小隊ではなく、武装召喚師を中心に通常戦力を交えた小隊、ですね。具体的には武装召喚師ひとりに対し通常戦力五人程度の小隊になります」

「……それって通常の運用法となにが違うんですか?」

「ここからがこの運用術の肝なんですよ」

 エインが目を光らせた。

「武装召喚師は、武装召喚術を駆使することで強力極まる戦力となります。召喚武装がなければ、どれだけ強力無比な武装召喚師であっても、通常戦力の延長上にしかならないといっても過言ではない。セツナ様をはじめ、《獅子の尾》の皆さんも、そうでしょう?」

「ええ。それは否定しませんよ」

 もちろん、弱兵にまで落ちるわけではない。武装召喚師は、鍛え抜かれた肉体を持つ。心身を限りなく鍛え抜いてはじめて召喚武装の支配が可能になるという考えが武装召喚術にはある。武装召喚術の習得に時間がかかるのも、召喚武装の使用に耐えうる肉体を作り上げるためにはそれだけの時間を要するからだ。それに、肉体を鍛錬するだけではない。戦闘術も学ぶ。リョハンの武装召喚師は、あらゆる武器の扱い方を体得しなければならなかった。武装召喚術を用いずとも、一線級の力量を発揮できるのは間違いなかった。

 とはいえ、それは通常戦力と比べた場合の話だ。

 そして彼のいった通りのことでもある。召喚武装を用いない武装召喚師は、通常戦力の延長上の実力しか持ち得ない。彼が通常戦力と認識する将兵のほうが強い可能性だってある。ファリアなどは、《蒼き風》のシグルド=フォリアーやジン=クレールといった常人と戦って勝てるとは思いがたい。武装召喚術を駆使すれば話は別だが。

「それなら、召喚武装を通常戦力に貸し与えたらどうなるか。戦力は三倍にも四倍にもなるんじゃないか、と思いまして」

「なるほど……」

 エインのその言葉で、彼がなにを企んでいるのかわかりはじめた。不透明だったものがにわかに輪郭を帯び、明確化していく。

「小隊の中心となる武装召喚師を仮に召喚術士と呼び、他の隊員は仮に召喚戦士と呼びます。ファリアさんなら、ここまでいえば、俺の考えていることがわかりますよね?」

「わかりますよ。でも、それはきっと運用に耐えないと思いますよ。いえ、はっきりいって、不可能でしょうね」

 ファリアが断言しても、エインは笑みを崩さなかった。むしろ、ファリアの断言を喜んでいるようですらある。

「……はあ、そうですか」

「室長殿の考えた案は面白いと思いますし、運用に耐えることさえできれば、ガンディアの戦力は大幅に増大するでしょう。小国家群統一も加速するに違いありません。ですが、その方法は、召喚術士の負担があまりに大きすぎます」

「やはり、そこが問題なんですね」

「もちろん、召喚師の負担が最大の懸念要素ですが、問題はほかにもありますよ。召喚戦士と名付けた隊員の練度もまた、問題となります」

「練度……ですか」

「召喚武装の扱いは、簡単ではありません。武装召喚師が一人前になるために十年近くもの修練を要するのは、なにも武装召喚術そのものの体得に時間が掛かるからではないんです。召喚武装の扱い方もまた、長い修練の中で体得していくものなんです」

 クルセルク戦争の例を見ればわかるだろう。

 クルセルク戦争の折、魔王軍は武装召喚術を行使する皇魔、あるいは召喚武装を装備した皇魔を大量に投入した。数多の召喚武装が猛威を振るい、連合軍の将兵が蹴散らされたことは記憶に新しいだろう。それら皇魔の召喚武装は、該当皇魔を撃破次第、連合軍将兵の手に渡り、即刻運用され始めた。が、多くの将兵が、召喚武装を思い通りに扱うことができず、あまつさえ味方に損害を出すものまで現れる始末だったという。

 召喚武装は、ただの武器ではない。

 特異な力を持った兵器であり、さらにいえば、意思を持った武器防具なのだ。思うままに扱うのは、簡単なことではなかった。

「一朝一夕に扱えるものではありませんよ。もっとも、練度に関しては、召喚小隊が日々訓練を行うことで対処できるでしょうが」

「つまり、召喚師の負担が最大の問題、ということですね」

「ええ。武装召喚術というのは、ただひとつの召喚武装を呼び出すだけで精神力を消耗するものですし、身体にも負担がかかるものなんです。それをふたつどころか四つ、五つ召喚しろというのは、召喚師に死ねといっているようなものですよ」

 つい、言葉が辛辣になるが、しかたがないことではあった。

 武装召喚術のことであり、専門家としての意見を求められたのだ。武装召喚術の専門家として、武装召喚術の総本山で学んだものとして、ちゃんとした意見をいう必要があった。不可能なものは不可能だし、無理なものは無理なのだ。そこを誤魔化してエインの考えた運用術を実現させてしまえば、今後ガンディアに仕官してくるであろう武装召喚師たちを間接的に殺すようなものだ。

 彼は、召喚小隊の隊員を召喚師を除いて五人といった。その五人全員に召喚武装を持たせるとなると、五つの召喚武装が必要となる。五つの術式を使いこなす武装召喚師もそういるものではないが、術式を新たに考えることくらいなら大きな問題にはならない。時間さえあれば作り出せるだろう。しかし、召喚武装を五つも召喚するとなると、大変だ。ひとつの戦いの最中、召喚を維持し続けることもできなくなるだろう。戦士たちが戦っている最中に強制送還が起きるかもしれず、そうなれば召喚武装に頼っていた戦士たちは一気に窮地に陥ること請け合いだ。

「ファリアさんでも不可能?」

「はい」

「言い切りますね」

「わたしはオーロラストームで手一杯ですから。お祖母様――大ファリア様のように複数の召喚武装を併用することなどできませんし」

 もっとも、この場合、ファリアの能力が低いのではない。彼女の召喚武装がとてつもなく強力であり、オーロラストームひとつ召喚するだけで、ほかの召喚武装を呼び出す余裕がなくなるというだけの話だ。別の召喚武装ならば併用することも可能ではある。とはいえ、ファリア=バルディッシュが規格外の武装召喚師であるという事実に代わりはない。彼女の祖母は、天流衣という召喚武装を常に召喚しているような超人なのだ。比べるのもおこがましい。

 複数の召喚武装を同時併用する武装召喚師といってほかに思い浮かぶのは、マリク=マジクだろう。リョハンの四大天侍の最年少であり、

「となると、ウェインさんって凄かったのか」

「ウェイン……?」

「ログナーの青騎士と呼ばれたひとですよ」

 ウェインの返答によって思い出したのは、ウェインという人物ではなく、ウェインと関連のある女のほうだった。

「ああ……エレニア=ディフォンの」

 エレニア=ディフォンという名前が印象深く残っているのは、彼女がセツナを暗殺しようとする陰謀に深く関わったからであり、実際に彼女の手によってセツナが殺されかけたからだ。間一髪間に合ったものの、一秒でも遅れていれば、セツナが死んでいた可能性は高い。瀕死のセツナに“運命の矢”を打つにも、召喚する必要があり、召喚までに死んでしまってはなんの意味もない。

 幸運に恵まれた、というほかない。

 そういう意味でも、オーギュスト=サンシアンには感謝しかなかったし、王宮ですれ違うたびに大げさなまでに挨拶を交わすのは、そのことがあったからだ。オーギュストがいなければ、セツナはいないのだ。

「ええ。エレニアさんと恋仲だった方です。あのひと、最大三つの召喚武装を併用していましたから」

「そういえば、グラードさんの鎧も、その方の召喚武装だという話を聞いたことがありますね」

「グラードさんのディープクリムゾンに、本人のアークブルー、そしてスネークライン。同時に三つの召喚武装を扱っていたんですよね、ウェインさん」

 エインは遠い目をしていたが、必ずしも遠い昔の話ではない。一年前には、ログナーという国は存在していたし、ガンディアに対して優勢にあったのだ。五百一年五月頃なら、ログナーの飛翔将軍とその双翼がガンディア侵攻に乗り出せば一溜まりもなかったはずだ。だが、ログナーはバルサー要塞をジオ=ギルバース将軍に一任した。アスタル=ラナディースから一対の翼をもぎ取り、ジオ=ギルバースに与えたのも、不可解としか言いようが無い。

 いまにして思えば、ログナーのそういった不可解な行動さえも、ナーレス=ラグナホルンの策謀だったのだろう。ログナーをザルワーンの属国としたのもナーレスであり、そのころから、ナーレスはガンディアの将来的な北進を見越して動いていたのだ。そういったナーレスの暗躍によってガンディアはログナーを下すことができた。

 その過程で、ログナーの青騎士ウェイン・ベルセイン=テウロスは戦死している。セツナが倒した武装召喚師のひとりであり、その際、ウェインはランスオブデザイアを召喚したという。そして、ランスオブデザイアは黒き矛に吸収された。

「召喚者に掛かる負担は召喚武装の力によるけれど、それでも、三つの召喚武装を併用するのは、ただただ凄いことですよ」

「やっぱり、そうなんですね。惜しい人をなくしたなあ」

 エインがしみじみとつぶやいた。心底そう想っているようだが、だからといってウェインを殺したセツナについてなにか言及するようなことはなかった。彼のことだ。セツナを責めることはないだろうし、むしろ賞賛するに違いない。

「そういえば、エレニアさん、そろそろ出産したころかな」

 エインが窓の方を見やった。双龍殿の彼方にエンジュールがあるわけではないのだが、なんとなくそうしたくなったのかもしれない。

「エレニアさん、悪い人じゃないんですよ」

「……わかっていますよ」

 ファリアは、小さく肯定した。エレニア=ディフォンは、決して悪人などではない。罪人ではあるが、悪人とはいえない。彼女はただ、愛に生きただけだ。愛に生き、愛に殉じようとしただけのことだ。そこに善も悪もない。そこがたちの悪いところなのかもしれないし、だからこそ、セツナは彼女を生かしたのかもしれない。

 この世を善と悪のふたつでわけることなどできない。

 そんなこともわかりきっている。

 そして、彼女のお腹に宿った命には、善悪などそれこそ関係のないものだ。


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