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第七百六十四話 御前試合(四)

 御前試合の出場者は、以下の通りだ。

 ガンディア軍ログナー方面軍第一軍団長グラード=クライド。

 ガンディア軍情報部所属ミース=サイレン。

 傭兵集団《蒼き風》突撃隊エルク=エル。

 ガンディア軍副将ジル=バラム。

 ガンディア王立親衛隊《獅子の牙》リューグ=ローディン。

 傭兵集団《蒼き風》突撃隊マーカス=アンディート。

 エンジュール黒勇隊ハルシェ=デューム。

 ガンディア王立親衛隊《獅子の牙》シェリファ・ザン=ユーリーン。

 ガンディア軍ガンディア方面軍第四軍団長ミルヴィ=エクリッド。

 ガンディア王立親衛隊《獅子の爪》副長メノウ・ザン=オックス。

 国王側近バレット=ワイズムーン。

 国王側近スレイン=ストール

 ガンディア王立親衛隊《獅子の尾》隊長セツナ=カミヤ。

 ガンディア軍ログナー方面軍第四軍団副長ニナ=セントール。

 ガンディア王立親衛隊《獅子の牙》隊長ラクサス・ザナフ=バルガザール。

 ガンディア王立親衛隊《獅子の爪》隊長ミシェル・ザナフ=クロウ。

 以上、十六名が第二回戦への進出を競い合って激突したのが、第一回戦である。

 第一回戦第八試合は、ラクサス・ザナフ=バルガザールの勝利で終わった。

「以前より鋭さがましたな」

「そちらこそ、一撃の重みが上がっている。わたしの完敗だ」

 ラクサスが差し伸べた手を取って、ミシェルが立ち上がると、万雷の拍手が練武の間を埋め尽くした。ふたりの獅騎による試合は、競技とは思えないほど白熱したものであり、凄まじいまでの得点の取り合いにはだれもが息を呑み、感嘆の声を漏らした。


「親衛隊長の名に恥じぬ戦いぶりでしたね。陛下もご安心なされたのでは?」

「元より不安などはないよ。ふたりを隊長に抜擢したのはこのわたしだ」

 レオンガンドの嬉しそうな返答に、ナージュは微笑を湛えた。

 高所に作られた貴賓席は、練武の間全体がよく見えていた。客席の隅々まで見渡すことが出来たし、観衆のため息や声援まで堪能できる、まさに特等席だった。試合もよくわかる。レオンガンドやジゼルコートによる解説を聞いているだけでも面白かったし、ふたりが参加者をどう評価しているのかもうかがえて、夢見心地だった。

 そう、まるで夢を見ているようだ。

 政略結婚で結ばれた相手がこれ以上望みようがないほどにできた夫であり、毎日、こちらが照れてしまうほどの愛情を注いでくれている。どんなときでも、だ。遠く戦地にいっているときですら、手紙をかかさなかった。そして、そういった愛の結晶が、彼女のお腹の中で日々成長している。

 御前試合は、この胎内の子供のためのものだ。レオンガンドとナージュの愛の結晶は、ガンディアとレマニフラの絆の象徴でもあり、この国の将来に希望をもたらすものでもある。王の子が生まれるとは、そういうことであろう。

 レオンガンド、グレイシア、ジゼルコートだけでなく、国中が喜んでくれている。祝福してくれている。これ以上の幸せはない。あるとすれば、無事に出産したときであり、子の成長を見守っている時であろう。

 舞台上では、ゼフィルが一回戦の勝敗結果を読み上げている。

 グラード=クライド、ジル=バラム、リューグ=ローディン、シェリファ・ザン=ユーリーン、メノウ・ザン=オックス、バレット=ワイズムーン、セツナーカミヤ、ラクサス・ザン=バルガザールの合計八名が、午後から行われる第二回戦に進出するということだ。

 御前試合は、今日一日で終わるわけではない。

 準決勝である第三回戦と、決勝戦である第四回戦は、明日行われる予定だった。いくら競技試合とはいえ、最大四連戦は参加者への負担が大きすぎるし、試合展開によっては決勝が夜中になってしまうかもしれないのだ。それでは見ている方も辛いだけだ。

「第二回戦第一試合は午後二時からでしたね」

「それまでは休憩だな。セツナと会いたいが……さすがにな」

「ええ。そうですね」

 ナージュは、レオンガンドに同意して、さきほどのセツナの戦いぶりを思い出していた。彼女がセツナを特別視しているのは、レオンガンドに感化されているところが大きいのだが、それだけではない。ナージュがレオンガンドと婚約する前、ある程度自由に振る舞えた時期、ふたりきりで言葉をかわした数少ない相手だからだ。

 ガンディオンからマイラムへの道中、星の綺麗な夜のことだった。

 あのどこにでもいそうな少年が、ガンディアの隆盛を支えているとは、とても信じられないことだった。だが、彼は確かにこの国を支えていた。彼が活躍するから、ガンディアは躍進し、ここまでの大国になったのだ。

 だれであれ、彼ほどの英雄を目撃すれば、特別視せざるを得まい。

 

「なんとか、間に合ったわね」

「さすがは隊長補佐、仕事が速い!」

「当然よね。もっと褒め称えてもいいのよ」

「ははー」

「そんなんところでなにやってんだ」

 セツナが半眼になったのは、控室に入ってくるなりコントを始めたふたりを目撃したからだ。ファリアとルウファは、こちらの視線に気づいたものの、まったく動じていない様子だったが、背後からの衝撃にはその場を退かなければならなかった。少女が飛び込んできたのだ。

「お兄ちゃん!」

「エリナ? どうしてここに」

「ファリアお姉ちゃんが連れて来てくれたの!」

 抱きついてきた少女の勢いに驚きつつ、ファリアを見やる。ファリアは、ルウファに向かって胸を逸らした姿勢を維持したまま、さも当然のようにいってきた。

「エリナがお師匠様に用事があるっていうから、親衛隊特権を使ったのよ」

「なるほど。ってお師匠様?」

 聞き慣れない言葉に目を丸くすると、後ろで椅子から立ち上がる音が聞こえた。

「ふっふーん。だれのことだと思う?」

「まさかミリュウが?」

「そうよ、そのまさかなのよ。このあたしが、未来の大召喚師エリナ=カローヌの偉大なるお師匠様なのよ!」

 見ると、彼女はなにやら上体を逸らして胸を張っており、エリナが透かさず彼女の真似をした。

「えーと……大召喚師とはまた大きく出たものっすね」

「エリナの才能はあたしのお墨付きよ!」

「えへへ」

 ミリュウに褒められて嬉しさを隠し切れない少女の姿は、可憐というほかなかった。とはいえ、エリナに武装召喚師としての才能があるというのは初耳だった。彼女はごく普通の少女だと認識していたのだが、ミリュウの発言が確かならば、その認識を改める必要がある。もちろん、生まれによって才能の有無が決まるわけではないのだろうが。

「才能?」

「そうよ。この子、古代語を諳んじることができるのよ!」

「それは確かに凄いことかもしれないけど、才能っていうのか?」

「才能にきまっているじゃない!」

 なぜかむきになって詰め寄ってきたミリュウの剣幕にたじろぐと、ファリアが助け舟を出してくれた。

「まあ、お師匠様がそういうのならそれでいいんじゃないの」

「そうよ、それでいいのよ! ってことで、愛しい弟子ちゃんはこっちにいらっしゃい」

「はい! お師匠様!」

 ミリュウに呼ばれると、エリナは元気いっぱいに返事をして、大急ぎで彼女のもとに駆け寄っていった。ミリュウは、エリナの反応が挙措動作のひとつひとつが可愛らしくてたまらないらしい。ミリュウの表情が緩みきっている。

 エリナが肩にかけていた鞄から書物を取り出しはじめたとき、セツナの側にファリアが近寄ってきた。そっと、耳打ちしてくる。

「実際は、エリナのお父さんが言語学者だっただけよ」

「そういうことだったのか……」

 セツナが声を潜めたのは、ミリュウとエリナの耳に届かないようにするためだった。可愛らしい師弟は、控室の片隅で勉強会を始めたようだが、ともすると、こちらの会話を聞いているかもしれないのだ。

 エリナは、カラン大火で父親を失っている。その父親が言語学者だったというのだろう。

「ええ。わたしがカランで《協会》の局員をしていたとき、古代語についてよく話していたわ。それで、エリナと知り合ったんだけどね」

「でも、父親が言語学者だからって、古代語を諳んじられるわけじゃないだろ?」

 セツナがいうと、ファリアが静かにうなずいた。

「そうね。だから、確かにある種の才能はあるんでしょう。記憶力が格段に優れているとか。それに古代言語に堪能なら、術式を覚えるのも苦労はしないでしょうね。使えるようになるかは別として」

 武装召喚術の呪文は、古代言語で成り立っているということは、セツナでも知っている。もっとも、セツナは古代語について堪能ではないし、ほとんど理解してもいないのだが。

 セツナの武装召喚術は、武装召喚術ではない。ファリアにいわせてみれば卑怯であり、ほかの武装召喚師からみてもありえないものなのだ。

 セツナは、武装召喚という呪文の結語を唱えるだけで良かった。ただそれだけで、意中の召喚武装を呼び出すことができる。それは、セツナとクオンだけの特性であるらしく、アズマリア=アルテマックスに召喚されたことが影響しているのかもしれない。

「ま……気長にやればいいさ」

「そうね。ミリュウにとっても良い変化かもしれないわ」

「これでミリュウ様がわたくしに対しても愛情を持ってくださればいいのですが」

「ないだろ」

「ないでしょ」

「ですよね」

 レムが笑ったのは、最初から否定されることが前提の言葉だったからだろう。

 第二回戦までの休憩時間は、そのようにして潰れていった。


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