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第四百七十七話 王宮の事情(二)

 第一位、セツナ・ゼノン=カミヤ。

 第二位、ナーレス=ラグナホルン。

 第三位、クオン=カミヤ。

 第四位、ルクス=ヴェイン。

 第五位、ファリア・ベルファリア=アスラリア。

 第六位、エイン=ラジャール。

 第七位 イリス。

 第八位 ルウファ・ゼノン=バルガザール。

 第九位 ウォルド=マスティア。

 第十位 マナ=エリクシア――。

 論功行賞における上位十名のうち、会場の反響が大きかったのは、やはり第三位のクオン=カミヤだろう。一介の傭兵がこの長期に渡る戦争の第三位をかっさらっていったことは、正規軍人たちの誇りを多少なりとも傷つけたかもしれない。だが、同時に納得もせざるをえないのが、クオン=カミヤの活躍だった。

 クオン自身、戦果を上げたわけではない。彼は強力な武装召喚師ではあったが、彼の召喚武装シールドオブメサイアは、防御にこそ能力を発揮する代物であり、ザルワーン戦争においてもその鉄壁の防御力を遺憾なく発揮した。ロンギ川会戦においては、中央軍の犠牲を最小限に止め、勝利に貢献した。もし、中央軍に彼がいなければ、多大な損害を出していたことは、戦場一帯の地形が変わったことからでも想像できるというものだ。嵐を起こすジナーヴィ=ワイバーンと、分身を生み出すフェイ=ワイバーンは、普通に戦えば強敵以外のなにものでもなかったのだ。シールドオブメサイアあってこその大勝利といえた。

 彼の活躍はそれに留まらない。

 クオン最大の見せ場は、ヴリディア突破戦だったのだ。セツナとともに先行した彼は、ドラゴンの注意を引く一方、ガンディア本隊が通過する際、広大なドラゴンの攻撃範囲全域を守護領域とし、ガンディア軍をドラゴンの苛烈な攻撃から守り抜いたのだ。おかげでガンディア軍は、ドラゴンの領域を無傷のまま突破、征竜野の戦いに万全の状態で挑むことができたのだ。

 クオンとシールドオブメサイアなくしては、ガンディア軍の大勝利はなかったと断言できた。彼とナーレスが二位を争ったのも当然といえる。

 そして、彼の守護の恩恵を受けたものたちにしてみれば、彼が第三位なのは必然であり、納得せざるを得ないのだ。一方、彼と戦場をともにせず、ヴリディアで守護の実感を抱かなかった者達には、不満の出る結果といえるだろう。

 残念ながら、《白き盾》との契約はザルワーン戦争の間のみだったが、十分すぎるほどの働きに感謝するしかない。

 第四位のルクス=ヴェインも傭兵ではあるものの、上位三人より一段落ちる評価ということと、彼の戦功はわかりやすいということもあって、反発はほとんどなかった。彼は、ふたりの武装召喚師を撃破、撃退していた。ひとりは、ジナーヴィ=ワイバーンである。ロンギ川の戦いにおいて、ジナーヴィを弱体化させ、止めを刺したのがルクスであった。もうひとりは、オリアン=リバイエン。ミリュウ=リバイエンの父にして、ザルワーン魔龍窟の総帥として知られた人物だ。彼もまた、ルクスの活躍によって撃退された。

 武装召喚師の撃破は大金星といってよく、その撃退も無力化と同義であり、彼を第四位にすることに異論は挟まれなかった。

 ファリアが五位なのも、武装召喚師を撃破したからだが、同じく武装召喚師を撃破したイリスが七位でルウファが八位なのは、全体を通しての戦功の多寡によるものだ。ファリアは、国境突破以来常に戦闘に参加し、戦果を上げてきたが、イリスはロンギ川と征竜野の戦いだけであり、ファリアとの差が開くのも当然だった。ルウファに至っては、武装召喚師との戦闘が原因で戦線を離脱せざるを得なかったのだ。それ以上の戦果を上げることができなかったが彼が、八位なのは仕方のないことだ。

 エイン=ラジャールが六位に食い込んでいるのは、西進軍における彼の軍師的立ち位置と、中央軍との合流後の活躍によるものだ。彼はバハンダール攻略においてセツナの運用法を考えだした人物であり、ルベン近郊の戦いでも上手く敵武装召喚師を分散させ、各個撃破に持ち込んでいる。ヴリディアの強行突破も、ほかに手がなかったとはいえ、彼が立案し、実行に移したものだ。征竜野の戦いでも、彼の軍勢は十分な働きを見せている。六位には、彼こそが相応しいのだ。

「なんだかんだで納得の行く順位だとは思いますが」

「慰められている気分だよ」

 レオンガンドがいうと、バレットは涼しい顔で告げてきた。

「陛下を慰めてもなんの得にもなりませんよ」

「口が悪いな」

「昔からです」

「わかっているさ」

 レオンガンドは笑い飛ばすと、茶器を口元に運んだ。南方産のお茶の香りは独特だが、彼にはその独特の香りが嫌いではなかった。ナージュを想起させる匂いだというのもあるのかもしれないが。

 レオンガンドがバレットと談笑を交えながら政務に集中していると、執務室の扉が外から叩かれた。執務室の外には、王立親衛隊《獅子の牙》の隊士が待機しているはずで、当然、扉を叩いたのも隊士のいずれかだろう。

 王の身辺を守るのが《獅子の牙》の役割なのだ。ほかの親衛隊よりも、そういう性質の強い組織だった。無論、レオンガンドの身辺は、アーリアという絶対的な防壁によって守られているのだが、彼女だけでは対処できないこともあるかもしれないし、近衛兵ひとりいないというのは、対外的にもよろしくはないだろう。虚飾や虚栄で飾り立てるのとはわけが違うものの、似たようなものかもしれないとも思う。

「どうした?」

 問うたのはバレットだ。レオンガンドは机の上の書類と睨み合ったまま、バレットと親衛隊士の会話に耳を欹てている。王たるもの、人に会うのも仕事とはいえ、現時刻、執務室に来客がある予定はなかった。そんなときに彼に会いに来るとすれば、暇を持て余したナージュか、ルシオンの王子夫妻くらいしか思いつかなかったが、まったく想像外の返答が飛び込んできた。

「失礼します! ジゼルコート様が来訪されましたが、いかが致しましょう?」

「ジゼルコート様が?」

「はっ!」

 バレットが問いただすと、親衛隊士は緊張しているのか、声を震わせた。来訪したということは、扉の向こうにジゼルコート・ラーズ=ケルンノールがいるということだ。ジゼルコートは、先王シウスクラウドの実弟であり、また、ケルンノールの領伯である。ガンディアでも随一の権力者と言っても過言ではない。シウスクラウドが病に倒れた後、混乱する国政を取り仕切ったのがジゼルコートであり、彼が影の王として君臨していた時期が長く続いた。レオンガンドが“うつけ”と振る舞うことができたのは、ジゼルコートのような有能な人物が、病床のシウスクラウドを補佐していたからにほかならない。レオンガンドとしても、ジゼルコートほど頼りになる人物はいなかった。

 レオンガンドは、シウスクラウドから王位を継承したとき、ジゼルコートからは国政に関する様々なことを継承した。ジゼルコートはまさに影の王であったのだ。

 バレットがこちらを見て怪訝な表情になったのは、影の王であることをやめたジゼルコートは、ケルンノールに引き篭もっていたからだ。国政との関わりを完全に断ったのは、レオンガンドこそが王であり、国政の中心であるべきだという彼の発言の通りなのだろう。事実、彼はそれ以来、領地の経営に力を注いでおり、王都にさえ足を運ぶことはなかった。

 そんな人物が王都に足を踏み入れただけでなく、王宮に顔を出したのだ。なにか、奇異なものを感じて、レオンガンドも眉間にしわを刻んだ。レオンガンドが王都に戻ってきたのは昨日のことだが、凱旋の情報がケルンノールに届いたのはさらに数日前と見ていい。おそらく、ジゼルコートは、レオンガンドの凱旋に合わせて都に登ってきたのだ。

「会おう」

 ほかに選択肢はなかった。


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