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武装召喚師――黒き矛の異世界無双――(改題)  作者: 雷星
第三部 異世界無双

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エピローグ(三十一)

「お、おまえら、なんで……?」

 セツナが声を上擦らせたのは、ミドガルドと同じようになにもないはずの空間から姿を現したのが、ルウファ、エスク、エリナの三人だったからだ。

 秘密裏に島を訪れる術を持ち、実際に時折顔を覗かせるルウファはともかくとして、魔王との関わりを断ち、平穏な日常へと回帰したはずのエスクとエリナが目の前に現れたのだ。さすがのセツナにも想定外の出来事であり、少しばかり混乱した。

「なんでって、そりゃあ、隊長に逢いたかったからに決まっているじゃないですか」

 悪びれる様子もなく、ルウファはいった。この場の雰囲気に似つかわしくない礼服を身に纏った彼の姿は、さながら貴公子そのものであり、彼がガンディアの名門バルガザール家の人間だということが思い起こされるようだった。

 もっとも、彼の顔を見るのは、別に珍しいことでもなんでもないため、なんらかの感傷のようなものが沸き上がってくるようなことはなかった。

 驚きは、ルウファではなく、彼以外のふたりの存在によるものだ。

「暇さえあれば覗きに来るくせに?」

「俺は暇人じゃありませんってば。毎日毎日大忙しで心の安まるときなんて、エミルと一緒にいる時間くらいしかないんですよ?」

「そのわりには、結構頻繁にここに来てるじゃない」

「頻繁って……月に一回くらいじゃないですか」

 ルウファがファリアに反論するも、まったくもって反論になっていなかった。

 月に一回くらい、と、彼はいった。が、それは平均すればそれくらいになるのではないか、という感覚的なものに過ぎない。多いときでは、週に一回ほどの間隔で島を訪れ、セツナたちと談笑したり、親睦を深めたりしているのだ。

 もちろん、それは、セツナたちにとっても気分の悪いことではない。

 彼がいまもなお、セツナたちのことを大切に想ってくれているという事実が、その一挙手一投足に現れているのだ。

 彼の存在が、セツナたちの孤独感を埋め合わせてくれている。

「十分すぎるわよ! そう想うでしょ、エリナ」

 ミリュウが憤慨し、エリナに同意を求めるのももっともだ。

「はい! とってもずるいです!」

「まったくだ。いくら元副隊長とはいえ、ずるすぎだぜ」

 そして、エスクが不服そうにルウファを横目に一瞥すると、ルウファは困ったように肩を竦めた。会いたくても会えない日々を我慢し続けてきたエリナとエスクにそういわれると、返す言葉もないのだろう。 

「まあまあ、その話は、後にするとしましょう。いまは、再会を堪能なされてはいかがですかな?」

「そうそう、そうですよ、ミドガルドさんの仰るとおり! あれから二年ですよ! 二年! やっとの想いで再会することができたんですから、俺への恨み言はなしにしましょうよう!」

 ミドガルドの助け船にがっしりとしがみつくようにして、ルウファが熱弁を振るう。

「……恨み言をなしにすることはできねえが、まあ、そうだな」

「なしにしましょーってば」

「セツナ様の変わらぬ様子を見れたんだ。いまはそれでよしとしようかな」

「そういうおまえは、随分と変わったな。エスク」

「でしょう?」

 エスク=ソーマは、セツナの反応が想定通りだといわんばかりににやりと笑った。

 彼のいう変わらぬ様子というのは、外見的なことだけではあるまい。セツナを取り巻く人間模様に大きな変化はなく、かつての光景がいつも通りに繰り広げられている。

 セツナの腕に抱きついているミリュウも、セツナの肩に顎を乗せるようにしているラグナも、そんなふたりをどこか羨ましげに見ているシーラも、隣に立っているファリアの様子も、満面の笑みのレムも、無表情に見えるウルクの姿も、ひとり少し離れた場所にいるエリルアルムも、あの頃からなにも変わっていない。

 大戦から三年。

 帰還から二年。

 どれだけ時間が経過しようと、変わらない風景がここにある。

 一方、エスクはというと、外見的にも、雰囲気的にも大きく変わっていた。

 まず彼は、長い髪をばっさりと切り落とした上で整った髪型にしており、髭も剃り、いかにも爽やかな雰囲気を身に纏っていた。身につけている衣服は、ザイオン帝国の紋章が入っており、その格調高い格好が彼の周囲に漂う空気を常ならぬものに変えているかのようだ。

 エスクらしさが微塵も感じられない。

 かつてのエスク=ソーマが消えて失せ、まったくの別人に変わってしまったかのようだ。

 彼はいま、ザイオン帝国に仕官しているというのだから、身なりに気を使うのは当たり前といえば当たり前だった。

「なんだか別人みたいね」

「エスクじゃないみたい」

「別人なのでは?」

「やもしれぬ」

「では、本物かどうか確認しましょうか?」

「そりゃあいい」

「よってたかっていうことがそれですか!?」

 女性陣が口々にいえば、エスクが頓狂な声を上げる。そして、助けを求めるようにセツナに視線を送ってきたものだから、彼は、静かに告げた。

「そりゃあおまえが悪い」

「俺が!?」

「変わりすぎなんだよ、おまえはさ」

 とはいったものの、この様変わりした世界で生きていくには、彼の変化はむしろ正しいとしか言い様がなかった。

「いやいや、変わらなすぎなんですよ、皆さんが……」

 苦笑しながらもどこか楽しげなエスクの反応は、彼がこの瞬間、この空気を心底喜んでいることの証明だろう。

「そうですよ。なんでそんなに変わっていないんですか」

 エスクに同意しつつも、不服というよりは嬉しげな声を上げたのは、エリナだ。

 彼女の変化は、エスクの比ではなかった。

 エスクは、身だしなみを整えた程度に過ぎず、背格好に違いはない。相変わらず鍛えられ続けている肉体も、あの頃とまったく遜色がなかったのだから、違いといえば、結局の所、見た目と雰囲気だけなのだ。

 その点、エリナは違う。

 少女から大人の女性へと成長を遂げており、輝いてさえ見えた。

 彼女は、今年で二十歳になる。

 この世界の常識はともかくとして、セツナの感覚としては、大人と呼ばれる年齢になるということだ。実際、エリナは、二年前よりもずっと大人びていたし、可憐さと美しさを併せ持ち、なおかつ清廉ささえ感じさせる女性へと進化していた。

「あんちえいじんぐよ、あんちえいじんぐ」

 ミリュウが自信たっぷりに告げた言葉には、エリナ、ルウファ、エスクの三人が怪訝な顔をした。

「なんですか、それ」

「あんたは知らなくていいの。エリナにはあとでたっぷり教えて上げるわ」

「さっすが師匠! エリナ、一生ついていきます!」

 ルウファには無愛想に、しかし、エリナへの愛情を隠さないミリュウの反応は、いつも通りといえばいつも通りとしか言い様がない。

「……エリナにそんなの必要ないだろうに」

「まあ、いいじゃない」

 ファリアが微笑ましそうに見つめる先では、セツナの側を離れたミリュウがエリナを抱擁していた。

 最愛の弟子との二年ぶりの再会は、ミリュウにとっても素直に喜ばしいことだったに違いない。


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