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武装召喚師――黒き矛の異世界無双――(改題)  作者: 雷星
第三部 異世界無双

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エピローグ(二十六)

 今日という一日が特別なのは、なにもイルス・ヴァレの住民たちだけの話ではない。

 セツナたちにとっても、極めて特別な一日といっても過言ではないのだ。

 聖魔大戦終結の日は、魔王再臨の日と同じなのだ。

 終戦が宣言されたのが、大陸暦五百七年一月十日。

 セツナがファリアたちに伴われてイルス・ヴァレへの帰還を果たしたのが、その一年後である大陸暦五百八年一月十日なのだ。

 もっとも、セツナの帰還は、その日に世界中に知れ渡ったわけではなく、そのため、魔王再臨の日とされているのは、今日からさらに二十日後の一月三十日だったりする。

 なぜ、露見しなかったのか、といえば、セツナが力を消耗し尽くしていて、黒き矛も眷属たちも身につけていなかったからだろう。竜王や神々ならば、世界中の何処であろうと魔王の魔力を感知できるだろうが、肝心の魔力が存在していなければ、感知のしようもない。

 よって、セツナの帰還は、秘密裏に行われ、成功裡に終わったということになる。

 そして、帰還から露見までの二十日間の間には、セツナたちの間で一悶着があった。大騒動というほどのことではないにせよ、セツナたちの人生にとっては重要な決断に迫られる出来事だ。

 それこそ、ルウファ、エスク、エリナの去就に関することだ。

 当初、三人が三人ともセツナとともに在ることを望んでいた。しかし、三者三様の理由があり、様々に話し合った結果、ルウファとエリナはリョハンへ、エスクは帝国へ、それぞれ戻ることになった。

 もう二度と逢えないわけじゃない――などという慰めの言葉をかけることしかできなかったのだが、実際、それ以降何度もこの島に姿を見せているのがルウファであり、彼に連れられたエリナだ。

 エスクだけは、南ザイオン大陸から抜け出し、ヴァーシュ島に辿り着く方法がないため、この二年、音沙汰がなかった。

 が、心配はしていない。

 彼のことだ。きっと帝国でも上手くやっていることだろう。

 なにせ、聖皇使徒のひとりなのだ。

 帝国が彼を丁重に扱わない理由がなく、彼が生活に困る要素もなかった。

 魔王再臨が露見し、世界中が大騒ぎになったのは、ルウファたち三人を見送ったあとのことだ。故に、三人と魔王の関わりについては、かつてともに戦った間柄であり、最終最後に裏切られ、ついには敵対したという世間一般の認識から変わっていない。

 リョハンを離れ、セツナの元へと至ったファリアと、元よりセツナとともにいたミリュウたちだけが、魔王の味方――つまりは、世界の大敵と認識されるようになったのだ。

 セツナとしては、ファリアたちにも元の生活に戻ってもらっても問題はなかったし、それが彼女たちの望む幸福ならば、なにもいうことはなかったのだが、彼女たちは、当然のようにセツナの側にいることを選んだ。

 たとえ、故郷と決別しても、祖国と敵対することになっても、家族に忌み嫌われ、あまつさえ刃を交える可能性を孕むことになったとしても、それでも、ファリアたちは、セツナとともに生きることを望んだ。

 それが自分たちの幸福であり、また、トワの願いでもあるのだ、と、彼女たちはいった。

 トワの願い。

(そうだな……)

 しかしながら、塚に祈るのは、トワのことではない。

 クオンやアズマリアといった、あの戦いで散っていったものたちのことだ。

 深く祈り、静かに願う。

 彼らの魂が安らかに眠り続けられることを。

 いつか、再びこの世界に舞い戻り、平穏なる日々を送れるようになることを。

 そして、そのときには、この世界が真の意味で平和になっていることを。

 ただ、それだけを祈り、セツナは、顔を上げた。様々な文字が刻まれた石碑からファリアに視線を戻す。

「トワちゃんのこと、かしら?」

「いいや」

「あら、どうして?」

「トワは、ここにいるからな」

 そういって、セツナは、自分の胸を示した。

「……そうね。そうよね。トワちゃんは、いつだってわたしたちと一緒なのよね」

 ファリアは、」遠く想いを馳せるようにして三年前のことを思い浮かべたようだ。

 三年前。

 ミエンディアの消滅直後のことだ。

 ファリアたちは、ミエンディアによって改竄された認識を元に戻すことができた。それによってすべての真相、戦いの真実に辿り着き、世界の現状をも理解したのだ。イルス・ヴァレの住民すべてがセツナを魔王の如く忌み嫌い、恐れ、憎悪し、敵視しているという事態に直面した。

 そして、セツナがたったひとりでミエンディアとの決戦に赴き、異次元の彼方へと消えたことも。

 故に、ファリアたちは、ほかのだれにも相談することなく、自分たちだけでセツナの居場所を見つけ出し、セツナをイルス・ヴァレに連れ帰る方法を探すことになったのだが、そもそも、彼女たちが真実に辿り着けたのは、トワのおかげだったのだ。

 トワは、彼女たちにこういったという。

『兄様のこと、よろしくね』

 ただ、それだけの言葉を残して、トワはファリアたちの目の前から姿を消した。

 トワは、幼くも女神だ。

 生まれたばかりの女神であり、そのために認識改竄の影響を受けなかった彼女は、そのためにファリアたちだけでも元に戻すことを考えていた。だが、ミエンディアが存在している間は、実行できない。実行してはいけない。ミエンディアがファリアたちの回復を知れば、再び認識改竄を行う可能性があるからだ。

 そうなっては、もう二度と回復できなくなる。

 なぜならば、トワの思いついた回復方法が、トワの全存在を懸けたものであり、それを実行するということは、存在そのものが消えてなくなるということだったからだ。

 トワは、神としての力のすべてを、己の存在に込められた祈りを、願いを、望みを叶えるようにして解き放ち、ファリア、ルウファ、ミリュウ、レム、シーラ、ラグナ、エスク、ウルク、エリナ、エリルアルムの十名と、セツナの絆を結び直したのだ。

 改変され、改竄され、記憶の根底までも覆すかのように塗り替えられた認識、価値観、事実のすべてを本来在るべき状態へと戻して見せた。

 トワは、セツナとファリアたちを結ぶ糸となった。

 ただし、決して千切れることのない、太く硬い糸だ。

 トワの存在そのものは消えて失せた。

 だが、感じるのだ。

 ファリアたちとの絆の中に、確かにトワの息吹きが存在するのだと、わかるのだ。

 それは気のせいなのかもしれない。勘違いなのかもしれない。しかし、セツナはそうは想わなかった。なぜならば、トワのおかげでファリアたちが戻ったのは事実なのだから。

 だから、トワのことは祈らない。

 祈らずとも、感じるのだから。

 存在そのものが消えて失せようとも、ここにいる。

 心と心の間に、確かに存在するのだ。

 トワの、幼くも心強い女神の息づかいを、感じている。


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