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エピローグ(二十一)

 さて、魔王再臨後、聖皇使徒の座を追われたファリアたちだが、彼女たちにもルウファたちのように仰々しい二つ名がつけられていた。

 雷霆の戦聖女というファリアの二つ名は、オーロラストームを主体とする戦い方と、戦女神という立場から考えられたものだろう。

 ミリュウは、愛染霊君などという異名をつけられたが、その異名自体はそこそこ気に入っていたらしい。

『愛に生きて愛に生き続けるあたしらしくない?』

『生き続けるのかよ』

『あったり前じゃない! あっさり死んでたまるもんですか!』

『だれもあっさり死ぬだなんていってねえよ……』

 などという会話を交わして呆れたものだった。

 翠天の覇竜ラグナ、九尾の獣姫シーラ、魔晶機神ウルク、万翼天将エリルアルム――聖皇使徒に選ばれたものたちには、それぞれの戦い方や肩書き、経歴などから相応しい二つ名が考えられている。もっとも、二つ名を惜しんだのは、多少気に入っていたミリュウくらいのもので、ほかの皆は、どうでもいいとでもいいたげな様子だった。

 それはそうだろう。

 そんなものを貰ったところで、なんの意味もない。

 聖皇使徒に選ばれたからといって、仰々しく華々しい二つ名を与えられたからといって、それが彼女たちの人生にどれほどの影響を与えるというのか。

『息苦しくなるだけよ』

 とは、ファリア。ただでさえ、戦女神という自分の意思ではリョハンの外に出ることすらままならない立場にあった彼女からしてみれば、神聖にして偉大なる聖皇使徒という称号は、さらに人生を雁字搦めにする拘束器具のようなものだったのだろう。

 それに対し、

『わしには緑衣の女皇という偉大なる呼び名があろう』

 そういってラグナがふんぞり返るのは、ある意味では当然のことだった。

 聖皇使徒というつい先日誕生したばかりの称号よりも、何億年、いや、何十億年もの太古から存在していた彼女の存在そのものを讃える異名のほうが、何百倍、何千倍も価値があるだろう。

 無論、イルス・ヴァレの住民にとっては、聖皇とともに魔王打倒を成し遂げたと証である、聖皇使徒の称号のほうが上なのだが。

『俺はとっくの昔に姫じゃねえしな』

 鼻で笑うようにいったのは、シーラだ。アバードの姫君であり、獣姫の二つ名で知られていたことから、九尾の獣姫などと名付けられたのだろうが、その発言からも、彼女が気に入っていないことは明らかだった。

 聖皇使徒の称号を剥奪されたことに清々しているとでもいうような表情には、ほかの皆も心底同意していた。

『わたしは、ただのウルクで十分です』

『右に同じだ。そんな称号に興味はないよ』

 ウルクとエリルアルムの反応の薄さたるや、彼女たちが如何に戦後の世界に関心を持っていないかがわかろうというものだろう。

 無論、ただ世界に関心を持っていない、というわけではない。

 聖皇使徒などという得体の知れないものに祭り上げられるくらいならば、いっそのこと魔王の家来にでも成り果てたほうが増しだ、と、エリルアルムなどは考えているのだ。

 だから、という理由で、彼女たちがこの島に隠れ住んでいるわけではないのだが。

 セツナがいるからこそ、ここにいる。

 つまり、セツナの責任は重大極まりないということだ。

 無責任に世界の今後を放り投げた自分に彼女たちに対する責任が取れるのか、と、自問したこともないではないが、最後の最後まで諦めないつもりでもいる。

 彼女たちが望む未来に近づくための努力を怠るつもりなどはないのだ。

 

 話を、聖皇使徒に戻す。

 第五使徒・大いなる叡智エイン=ラジャール。

 聖魔大戦終盤に結成された反ネア・ガンディア連合軍の軍師に選ばれたエインは、神将ナルフォルンことアレグリア=シーンとの読み合いや、戦術計略の数々が評価され、また、突入組の一員として獅神天宮に突撃したことなどが評価されたようだ。

 そんな彼は、ログノールに戻り、総統ドルカ=フォームの右腕として辣腕を振るっているという。

 大戦後、混迷を極める世界を安定させるべく発足された世界連盟。その旗手となったのがエインであり、彼の発言力、影響力の高さは、彼が聖皇使徒であることも関係しているに違いない。

 もちろん、世界連盟には、彼以外の聖皇使徒も名を連ねている上、大戦での貢献度でいえば決して大きくないのが彼の所属するログノールなのだ。大国たる帝国や聖王国の意見のほうが通りやすいという噂は、さもありなんといったところだろう。

 当然ながら、彼も認識改竄の影響下にある。

 しかも、かつて熱狂的なセツナ信者といっても過言ではなかった彼のことだ。ミエンディアによる認識の、価値観の反転は、セツナに対する想いが強ければ強いほど、深ければ深いほど、より鋭く、激しく反射する。

 つまり、エインは、反魔王の急先鋒であると見ていいわけだ。

 彼の知謀がセツナたちに牙を剥く日が来ないことを祈るよりほかはない。

 第六使徒・希望の紡ぎ手マユリ・マユラ。

 希望の女神マユリと絶望の男神マユラという表裏一体の双子神は、長らくマユリ神が表の顔となっていた。しかし、大戦の末期、ミエンディアの認識改変能力の影響によって絶望に堕ちたがため、マユラ神がセツナの敵となって立ちはだかったことは、忘れようもない。

 その絶望も大戦の終結とともに消えてなくなったのだろう。

 いまではマユリ神が主体となって活動しており、他の神々とイルス・ヴァレのひとびとの間を取り持ち、また、みずからは神卓騎士団改め、救世騎士団に力を貸しているらしい。

 詳しいことまではわからないが、ネア・ガンディアに属し、獅子神皇に付き従っていた神々が、戦後、イルス・ヴァレのために尽力するようになったのは、マユリ神の働きかけによるものが大きいという。

 神でありながら聖皇使徒の称号を与えられるのも納得のいく話だ。

 第七使徒・救世騎神ミヴューラ。

 神卓騎士団の神にして、イルス・ヴァレの救済を掲げ、実際にそれを成し遂げようとしたミヴューラ神もまた、神の一柱でありながら、使徒に選ばれている。ミヴューラ神は、獅子神皇との死闘の中で滅び去ったが、第一使徒アズマリアとの連携によって世界中の力を決戦の地に集め、勝利を呼び込む働きを見せたことは、だれしもの記憶と心に残っているだろう。

 ミヴューラ神に付き従った神卓騎士たちを含めれば、その活躍ぶりたるや、凄まじいものだ。

 そんな彼が消滅後、イルス・ヴァレ中のひとびとに信仰の対象として祭り上げられたとして、なんら不思議なことではない。

 ベノアガルドの神卓騎士団は、完全に消滅してしまったミヴューラ神に倣い、救世騎士団と名を改め、さらにはマユリ神の助力を得、世界中に活動拠点を作り始めている。

 大戦が終結し、混乱が収まり、大復興とともに安寧に満ちた日常が戻りつつあるものの、すべての問題が解決したわけではない。

 イルス・ヴァレのすべての住民がひとつに纏まっていたのは、大戦中、それも末期の間だけなのだ。

 大戦が終わり、だれもが平和の訪れを実感し始めれば、緊急事態故に結ばれた繋がりなど、容易く解れ、ばらばらになっていくものだ。

 そんな事態を危惧したからこその世界連盟であるだろうし、エインの優れたところだが、世界中すべての国々が横に倣えで連盟に加入するはずもない。

 そういった未加入の国々だけでなく、連盟加入国にも目を光らせているのが、救世騎士団なのだ。

 そう、このセツナたちが住むヴァーシュ島も、救世騎士団の監視下にある。


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