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武装召喚師――黒き矛の異世界無双――(改題)  作者: 雷星
第三部 異世界無双

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エピローグ(十九)

 聖魔大戦。

 およそ三年前に終わった大戦争のことをそう名付けたのは、どこのだれなのか。

 神々か竜王たちか、はたまた人間たちか。

 いずれにせよ、その呼称には、イルス・ヴァレの住民たちの価値観や認識が多分に反映されている。

 聖皇と魔王の大いなる戦い、という意味を持ち、聖皇こそがイルス・ヴァレ住民の味方であり、守護者であり、救世主であるという意図から名付けられているのだ。

 魔王とは、もちろん、セツナのことだ。

 魔王セツナ。

 百万世界の魔王、その使徒にして、後継者。

 世界を大混乱に導き、絶望的な破局を呼び込みながら、人類の、いや、イルス・ヴァレ側の存在であると欺き、史上最大最悪にして、最凶無比の裏切り行為を為した大悪党。まさに魔王と呼ぶに相応しい所業の数々は、枚挙に暇がない。

 悪行の始まりは、“大破壊”より遙か以前、セツナがイルス・ヴァレに召喚された瞬間にまで遡るという。

 聖皇使徒筆頭アズマリア=アルテマックスによってイルス・ヴァレに引き入れられたセツナ=カミヤなる異世界存在は、最初から世界に大いなる混乱を招き、破壊と混沌を撒き散らし、絶望と慟哭によって満ち溢れさせるつもりだったのだというのだ。

 なぜ、セツナ=カミヤがそのような考えに至ったのか。

 簡単な話だ。

 彼が魔王の杖の護持者であり、魔王の使徒だったからだ。

 そして、後年、魔王の座を継承し、真の意味で魔王と成り果てた。

 イルス・ヴァレのひとびとに記憶され、記録されるセツナ=カミヤの活動歴は、すべて、魔王への道程として関連づけられ、紐付けられた。そこには一切の矛盾がなく、だれひとり疑う余地もなければ、異論を挟む余地もない完璧な結論として、イルス・ヴァレの住民たちに受け入れられている。

 セツナが取った行動の数々は、すべて、この世界に仇なす邪知であり、暴虐であり、悪行として認知され、いまもなお恐れられているのだ。

 たとえば、召喚直後、使者の森を半壊させたのも、いわゆるセツナの魔王行為のひとつであり、また、“約束の地”を探すことを目的とした破壊活動として周知されている。

 ガンディアに仕官したのも、“約束の地”の所在地をある程度絞っていたがためであり、以降、ガンディアがつぎつぎと休む暇もなく軍事行動を起こし続けたのも、セツナがレオンガンド王を唆し、嗾け、駆り立て、突き動かしていたからなのだという。

 そして、各地の戦場で闘争に乗じて破壊活動を行ったのも、すべては“約束の地”を探し出すためであり、三大勢力の神々よりもいち早く“約束の地”を確保するためだったのだ、と。

 すべては、聖皇復活の儀式を利用し、世界にさらなる混沌をもたらすため。

 混沌に満ちたイルス・ヴァレを魔王降臨の儀式を執り行う祭壇とするため。

 果たして、セツナに先んじて聖皇使徒たちの手によって執り行われた聖皇復活の儀式は、失敗した。

 それもこれも、セツナが原因であり、セツナによって聖皇は復活されず、世界は破壊し尽くされた。

 そうなのだ。

 “大破壊”の原因も、セツナになってしまっている。

 今日に至るまでのすべての災禍の原因を押しつけられてしまったのだ。

 ミエンディアがどのように認識の改変を行ったのかは不明だが、ただの好意の反転というだけではなさそうだった。

 あの土壇場でセツナが裏切ったというだけでも、あの戦いを見守っていたものたちには計り知れない衝撃を与えただろうが、セツナに関する認識のほとんどすべてにまで影響を与えているとなると、世界中のすべてのものが彼を恐怖と憎悪の対象とするのも当然の話といえた。

 そのため、セツナが再びイルス・ヴァレの地を踏んだおよそ二年前の出来事は、この世界の住民たちにとっては天地が引っ繰り返るほどの驚きと恐れを抱かせたことだろう。

 魔王の再臨。

 そう、呼ばれている。

 聖魔大戦は、聖皇ミエンディアの勝利によって、幕を閉じた。

 そう世界中に伝えたのは、リョハンの戦女神にして聖皇使徒ファリアであり、ミリュウやルウファといったほかの使徒たちもファリアの発言を支持したこともあり、まず、大戦に関わったものたちはその話を信じた。そして、急速に広まった大戦の終結は、ひとびとの、イルス・ヴァレの全住民に安堵をもたらしたのだ。

 そうして、大戦は終わり、世界は急速に復興していく。

 だが、一年が過ぎたころ、異空の果てで滅んだはずの魔王が、突如として姿を現した。

 ファリアを筆頭とする聖皇使徒たちを伴って、だ。

 聖魔大戦と名付けられた大いなる戦いの勝利の立役者にして、聖皇ミエンディアの腹心ともいえる聖皇使徒。それは、聖魔大戦において、聖皇ミエンディアとともに魔王に立ち向かったものの中でも特に優れたものたちのことを指す尊称だ。

 アズマリア=アルテマックスを筆頭に、ファリア=アスラリア、ルウファ=バルガザール、ミリュウ=リヴァイア、ラグナシア=エルム・ドラース、シーラ、ウルク、エリナ=カローヌ、エスク=ソーマ、エリルアルム=エトセア、エイン=ラナディース、マユリ・マユラ神、そしてクオン=カミヤの十三名が、最初に聖皇使徒として認定されたものたちだ。

 つまり、獅神天宮への突入組と、最後に合流したクオンが選ばれたのだ。

 世界を救った英雄として、祭り上げられたのだ。

 それなのに、その大半が魔王とともに現れ、魔王に付き従っていったため、聖皇使徒の称号は撤回され、彼女たちには魔王使徒の烙印を押されてしまった。

 魔王の寵姫と呼ばれることもあるが、どちらにせよ、いい呼び方ではない。

 もっとも、ミリュウたちにいわせれば、真の意味で敵だった聖皇の使徒と呼ばれることのほうが余程良くなかったし、耐え難い屈辱だった、とのことだが。

 ちなみに、レムが聖皇使徒に選ばれなかった理由は、彼女がセツナの半身であり、魔王の影のような存在だからにほかならない。

 また、大半が魔王使徒となり、欠員が出まくった聖皇使徒には、新たな英雄たちが名を連ねている。

 聖魔大戦で活躍した英雄たち。

 筆頭は相も変わらずアズマリア=アルテマックスであり、彼女がなぜ筆頭に選ばれたのかといえば、その身を犠牲にして聖皇の復活を成し遂げたという聖魔大戦最大の功績からだ。

 アズマリアがミエンディアの魂の一部である、という話を知っているものが少ない以上、そういう結論になったとしてもおかしくはない。

 クオンが聖皇使徒に選ばれた理由も同じだ。ネア・ガンディアに属したことでさえ、セツナが魔王となったいまでは美点となった。セツナの企みを防ぐために行動していた、ということになっているからだ。そして、彼もまた、ミエンディアの肉体となった。

 ミエンディア勝利の立役者に。

 故に彼女は、第一使徒にして福音の担い手と呼ばれた。


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