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武装召喚師――黒き矛の異世界無双――(改題)  作者: 雷星
第三部 異世界無双

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エピローグ(十六)

 もっとも、ほかにも解決方法はある。

 要するに、五感を増幅させる手段さえあればいいのだから、なにもラグナの魔力供給に拘る必要はないということだ。

 ほかの五感増幅手段といえば、真っ先に思いつくのが、武装召喚術だ。武装召喚術によって呼び出した召喚武装を身につけることにより、五感が鋭敏化されるという副次的作用を大いに活用するという方法だ。

 実際、それは決して無意味ではなかった。

 特にカオスブリンガーを手にすれば、かつて神々さえも震え上がらせたときと同じだけの力を得ることができたし、五感もその分だけ増幅されたという結果がでている。

 しかしながら、日常生活において黒き矛を手にしたままだというのは、ある意味不自由であり、むしろ不便だった。異様なまでに拡大され、鋭く研ぎ澄まされた感覚は、平穏な日常を物騒な非日常に変えてしまいかねないものであり、また、カオスブリンガーの持つ莫大な魔力は、この世界に住まう神々や竜王を刺激する可能性もあった。

 故に、黒き矛やその眷属による五感の増強は、却下された。

 さらにいえば、四六時中召喚し続けることそのものにはなれていたし、数日くらいならば召喚状態を維持することも不可能ではないが、維持し続けた結果、精神力が尽き果てるようなことがあれば大問題だ。大事件といっていい。

 そんなことになれば、この平穏極まりない島の全土が想像を絶する戦場になることだって覚悟しなければならないだろう。

 世界は、再臨した魔王の滅びを請い願い、魔王セツナが隙を見せる瞬間を待ち望んでいるのだ。

 セツナが健在であることが、世界への牽制となり、抑止力となる。

 セツナが健康を維持し、隙を見せることさえなければ、この島はセツナたちにとっての楽土となるということでもある。

 世界は、変わった。

 あの瞬間を境に、あの日を境に、あの戦いを境に。

 世界は、変わり果てた。

 そのため、セツナは、自分が健康極まりなく、一切の油断もしていなければ、まったく力が衰えていないことを主張し続けなければならなかった。

 とはいえ、だからといって黒き矛と眷属を召喚し、魔王態になるようなことは、あるべきではない。そんなことをすれば、このヴァーシュ島のすぐ近く、東ヴァシュタリア大陸は“竜の庭”を、銀衣の霊帝ラングウィン=シルフェ・ドラースを刺激しかねない。

 いくら銀衣の霊帝が穏健派だとはいえ、“竜の庭”の安全、世界全土の平和維持を考えれば、魔王セツナの動静次第では動かざるを得ないだろう。

 セツナには、無論、この世界に対する悪意も害意もなければ、ひとびとの平穏を脅かすようなことをしたいとも思わなかった。

 やっとの想いで勝ち取った安寧をみずからの手で破壊するなど、考えるだけで馬鹿馬鹿しい。

 そういう事情もあって、余程のことがなければ、黒き矛や眷属を召喚するつもりはなかったし、このまま一生召喚する事態が訪れないことこそ、真に望ましいことだった。

 魔王も眷属たちも、それを望んでいることだろう。

 では、ほかの召喚武装を呼び出すのはどうだろうかと考え、いろいろ試してはみたのだが、なかなかこれがどうして、上手く行かないのだ。

 セツナは、武装召喚術の基本も学ばず、ただ、武装召喚という詠唱の結語でもって術式を完成させるというやり方で武装召喚術を用いてきた。武装召喚師とは名ばかりの、まったくの素人だったのだ。それでも、いまでは術式がどういった要素で構成されており、武装召喚術が極めて高度な技術であることは理解できるようになってはいた。

 黒き矛や眷属とは異なる召喚武装を呼び出すことにも成功してはいるのだ。

 しかし、そうやって呼び出した召喚武装は、どれもこれも、セツナの五感を正常な状態まで引き上げることすらかなわないものばかりであり、途方に暮れるほかなかった。

 きっと、武装召喚師としての技量が足りないのだろう。

 そう結論づけたりもしたが、ファリアたち曰く、そういうことではない、とのことだった。

 黒き矛とその眷属を容易く召喚し、完全無欠に力を引き出すことのできるセツナが、武装召喚師として二流三流なわけがないのだ、と。

 技量は、十分すぎるくらいにあるはずで、経験も溢れるくらいにある。

 では、問題はどこにあるのか。

 それがわからないから、お手上げなのだ。

 超一流の武装召喚師たちの手にかかっても、なにが問題なのかはっきりとしない。

 セツナの、通常とは異なるやり方が問題ではないことは、黒き矛のみならず、他の召喚武装が正常に召喚されたことからも明らかなのだ、と、彼女たちはいう。もし、セツナの結語だけで術式を完成させる方法に問題があるのであれば、黒き矛も眷属も、他の召喚武装も正常に召喚できるわけがないのだ、と。

 正常に召喚し、正常に駆使し、正常に送還できている以上、術式や方法に問題はない。

 ファリアとミリュウ、そしてルウファという三大召喚師にもわからないことがセツナに突き止められるわけもなく、セツナ自身の武装召喚術による解決は、現在、見送られている。

 それでも諦めきれず、時折、召喚を試してはいるのだが、そのたびに憮然とする結果に終わっていた。

 ただしそれは、セツナが召喚する場合において、だ。

 ファリアやミリュウが新たに別の召喚武装を呼び出すことにはなんの影響も及ぼさなければ、彼女たちの武装召喚術の技量、精度、完成度の前では、セツナの武装召喚術など児戯に等しかった。

 ファリアは、セツナの五感補助のために腕輪型召喚武装を提案し、実現して見せ、ミリュウもまた、同じく五感補助のための召喚武装として、きらびやかな耳飾りを召喚して見せた。どちらもセツナが数多に呼び出した召喚武装とは異なり、しっかりとセツナの五感を日常生活を送ることができる程度に増強することに成功した上、日常生活の邪魔にならない装身具という点でも大きな意味を持っていた。

 もっとも、常時召喚し続け、セツナが身につけ続けるというのは、ふたりの精神的負担を考えればありえないことであり、故に、ラグナが直接魔力を流し込むという方法を取ることが多いのだ。

 ファリアもミリュウも極めて偉大な武装召喚師だが、だからといって四六時中召喚武装を呼び出し続けるというのは、決して良いことではない。

 精神的な負担など軽いものだ、と、彼女たちはいってのけたのだが、セツナはそうは想わなかった。

 武装召喚師としての技量も実力も彼女たちに及ぶべくもないが、召喚状態を維持し続けることによる弊害は、セツナは身を以てしっているのだ。

 だから、常日頃はラグナに頼っている。

 ラグナならば、なんの問題もない。

 なぜならば、ラグナはセツナに魔力を流し込む一方で、セツナから魔力を吸収しているからだ。セツナがラグナに頼っているのは、ラグナ自身に負担がまったくといっていいほどかからないという事実があるからなのだ。

 これがもし、ラグナにも負担がかかるやり方なのであれば、もっと色々と方法を模索し、足掻きに足掻いたのだろうが。

 現状、ラグナがつきっきりだという以外、特に大きな問題がないため、これでよし、としていた。

 もっとも、それがミリュウやファリア、シーラたちにとっての大問題であることも、よく理解している。


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