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エピローグ(十二)

「よくはないに決まっているだろう、三界の竜王よ。だが、レオナが決めたのだ。友のためとな」

 レオナがなにかを言い出す前に返事をしながら、レイオーンは、声がした方向に顔を向けた。

 建設途中の王都、その中心に真っ先に作り上げられた王宮は、周囲を空き地に取り囲まれている。

 かつて栄華を極めんとしたガンディアの王都ガンディオンを模して作られた新たなる王都は、その名も引き継ぎ、ガンディオンとしている。建造中のガンディアの都は、かつてのガンディオンに比べてより快適に、そしてより堅牢な造りとなるよう、設計されたという。

 今後、どのような都が作り上げられ、どれだけの人間で溢れかえるのかは、レイオーンには想像もつかないが、グレイシアたちの熱の入れようには微笑ましささえ感じられたものだ。

 現在、王宮だけが完成している。

 獅子王宮を模倣しながらも、より強固な作りとなったそれは、壮麗な外観からは想像もつかないほどに堅牢強固なのだという。

 本来ならば、王都の完成を待ち、式典を催したかったようだが、終戦記念日には間に合わなかった。しかしながら、王宮だけは完璧な状態に仕上がったため、王宮大広間を会場とした終戦記念式典が開催される運びとなったのだ。

 建設中の王都の様子を見てもらうのも悪くはない、とは、グレイシアの弁だ。

 それに、王宮周囲が空き地だからこそ、多数の竜属を招待することもできたということもある。人間の住む都に、竜たちの巨体が足を踏み入れる場所などあろうはずもないのだ。その点、建物が組み上がってもいない空き地ばかりの王宮周辺は、都合が良かった。

 竜たちが屯するには十分すぎるくらいの空間があったからだ。

 そんな中にあって、レイオーンの視線の先には、巨躯ばかりの竜属とはまったく趣の異なるものたちがいた。

 蒼白衣の狂女王ラムレシア=ユーファ・ドラースの外見が特異であるということは、よく知られた話だ。まるで竜と人間の血が混ざり合った存在かのような姿であり、竜としての特徴と人間としての特徴を併せ持っていた。

 蒼白の竜鱗と翼は竜属のそれであり、凜然とした容貌は人間のそれだ。

 人間から見ても、竜から見ても、美しく、雄々しい存在なのかもしれない。

 精霊たるレイオーンからすれば、人間も竜も皇魔も変わらないのだが。

「友か。ならば、仕方がないな」

「そうでしょうか?」

 ラムレシアが肯定すれば、その隣に立っている女が小首を傾げた。白銀を擬人化したかのような姿の人物であり、その浮き世離れした立ち居振る舞いは、彼女がただの人間ではないことを示しているかのようだった。陽光を跳ね返して輝く銀色の髪も、雪のように白い肌も、竜の鱗を模したかのような装束も、なにもかもすべてが神秘的で、幻想的だ。

 まるでこの世のものとは思えない、そんな感覚。

 しかし、彼女は現実に存在し、ラムレシアと対等に話している。

 彼女こそがラングウィン=シルフェ・ドラースであることは、すぐにわかった。

「そうだとも。友の願いは、何事よりも優先するべきだ。それが真に心を通じ合えた友ならば、なおさらだ」

「ラムレシア……」

 ラングウィンは、まるでラムレシアの心情を察するかのように表情を曇らせた。ラムレシアが友という言葉に込めた感情や想いを知っているからこそなのだろう。当然、レイオーンには、蒼白衣の狂女王の心情など、察しようもない。

 しかも、背の上では、レオナがふんぞり返っている。

「竜王様のお墨付きを得たぞ、レイオーンよ」

「あれをお墨付きと捉えるか」

 レイオーンが憮然とすると、ラムレシアがレオナの反応を見て、笑った。

「ふふふ、面白い子だな。気に入ったぞ」

「竜王様に気に入られもしたぞ」

「……それはよかったな」

 レイオーンは、こうなったレオナにはもはやなにをいっても仕方がないと諦めていた。物心つく前から一緒にいるのだ。レオナの考えていることなど、彼女に聞かずともわかった。だから、式典会場を抜け出すという暴挙にも逆らわなかったのだ。

 レオナの頑固さは、この数年で磨きがかかっている。

 それもこれも、彼女がもっとも心に信を置いていた人物に裏切られたからだ。

 魔王セツナ。

 彼の史上最大にして最悪最凶の裏切り行為は、世界中のひとびとの心に影を落とした。

 中でも、レオナは、セツナに実の父レオンガンドの討滅を頼んでいたのだ。

 それが、実はセツナの企み通りであり、セツナが魔王としてこの世に君臨するための計画の一端だと理解すれば、レオナがこの世に絶望したとしても、だれも彼女を責められまい。実際、レオナは、一度、絶望の闇に飲まれかけている。

 それでもなんとか立ち直れたのは、周囲のひとびとのおかげであり、リュカやレインのような友達がいたからこそだ。

 だから、レイオーンも、甘くなる。ならざるを得ない。

 とはいえ――。

「姫様あああああああああああっ!」

「どこにおられるのですかああああああああああっ!」

「式典の真っ只中ですぞおおおおおおおおおっ!」

「早くお戻られなさいませええええええええっ!」

 王宮から四方八方に向けて放たれる呼び声の数々は、式典の主役たるレオナが姿を消したことに対する反応としては、至極当たり前のものであり、ここから大騒動が繰り広げられるのだろうということは、レイオーンだけが理解していることだった。

 レオナが、レイオーンに話しかけてくる。

「む。皆が追いかけてくるぞ」

「レイオーン様、早く行きましょう」

「でも、呼んでるよ?」

「うむ。では、ゆくぞ、レイオーンよ」

「……ああ」

 有無を言わさぬレオナの発言に、レイオーンはうなずくしかない。

「ええっ!?」

「レイン、あなたはリュカに従っていればいいの」

「レイン、リュカになぞ、従う必要はないぞ」

「あら、それはどういうことでございますか? 獅子姫様」

「いったままの意味だ。レインは奴隷ではないのだぞ」

「はい。リュカの下僕ですから」

「だから!」

「喧嘩をするなら振り落とすぞ」

 レインの扱いを巡る口論を聞きながら、レイオーンは、地を蹴った。

 ラムレシアがその様子に微笑を浮かべ、ラングウィンが困ったような表情をしているのを知ったが、なにもいうことはない。

 レイオーンは、レオナたちが満足するまで、ガンディアの兵士たちから逃げるように走り回るしかないのだ。

 いや、ガンディアの兵士たちだけではない。

 エンジュールの戦士たちも追っ手に加われば、メキドサールの皇魔も警戒網に加わった。

 それどころか、救世騎士団や帝国軍の武装召喚師たち、聖王国軍の魔晶人形部隊までもが、式典の主役を捕まえるために動き出したため、王宮周辺はあっという間に前代未聞の大騒ぎとなった。

「逃げよ逃げよ! 追い着かれたらおしまいぞ!」

 レオナがはしゃげば、

「リュカたちを捕まえようなどと、笑止千万」

 リュカが高笑いとともに魔法を繰り出し、

「ゼフィロス、どうしよう?」

「どうもこうもないでしょうね」

 レインが精霊を呼び出して頭を抱えた。

 レイオーンは、背の上の騒ぎなど気にしている場合ではなく、ただただ、走り続けた。

 

 

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