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武装召喚師――黒き矛の異世界無双――(改題)  作者: 雷星
第三部 異世界無双

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エピローグ(八)

 大人たちの複雑な事情が絡み合った小難しい理屈を並べ立てるような話は、聞いているだけで退屈でつまらないのは、いまに始まった話ではない。

 生まれたときからそうだ。

 生まれたときから目が見え、耳が聞こえていた彼女にとって、大人と呼ばれるものたちの退屈な会話ほど役に立たないものはなかった。

 大切なのは、感覚だ。

 自分の感覚ほど頼れるものはなかったし、信じられるものもなかった。

 とはいえ、親や家族を信じていないわけではないし、むしろ、信じ切っているからこそ、ということでもある。

 信じているからこそ、安心して、飛び出せるのだ。

 そう、彼女は、飛び出した。

 自分を閉じ込める檻の中から、平然と、当然のように飛び出してしまった。

 何日も前から考え、練りに練った計画だった。

 その際、彼女は、ほかのだれも頼りにしなかった。信頼していないわけではなく、侍女たちに話せば、たちまち対策が取られることがわかりきっているからだ。侍女たちの実力を信用しているからこそ、だれとも相談せず、ひとりで考えなければならなかった。

 なぜ、計画を練ったのか。

 簡単な理由だ。 

 日常があまりにも退屈だったからだ。

 大きな戦いが終わり、彼女も彼女の周囲も日常を取り戻していった。ゆっくりではあったが、それそのものはなんの問題もなかった。むしろ、ゆっくりとした変化は、急激な変化の連続だった日々にあざやかな色彩をもたらしたものだ。

 だが、それも度が過ぎれば、退屈に成り果てる。

 人魔融和を解きながら、一方で国の門戸を閉ざし、森の外に出ることを禁じるという父のやり方には多少なりとも理解は示したものの、だからといって、やっとの想いで取り戻した平穏がつまらない退屈な日常に変わり果てていく様は、彼女にはどうしようもなく受け入れがたいものだった。

 それでも、我慢はした。

 親や家族のいうことを聞き、勉学に勤しんだ。修練と研鑽を重ね、魔法の使い手としても一人前になれたはずだ。

 そして、それもこれも、今日のこの日のためにあったのだ、と、彼女は、この話を聞いたときから考えていた。

 終戦記念式典。

 大戦の終結から三年。

 表面上、平穏無事にこの三年を乗り越えてこられた事実を記念し、また、大戦で失われた命を慰め、散っていった多くの魂を鎮めるための集まり。

 そこには、世界中から多くのひとびとが集まるのだという。

 彼女にとって、これほど好奇心を掻き立てられるものはなかったし、自分も会場に連れて行ってもらえるのだと知ったときは、心の底から喜んだものだった。そして、そのときから、彼女の計画立案は始まった。

 父も母も家族も護衛も、だれもかれもが彼女の行動を監視している。

 彼女がどれほど奔放で無鉄砲なのか、知らないものはいないのだ。

 故にこそ、監視の目はきつく、警戒も厳重極まりないものとなることはわかりきっている。

 出し抜く手段を考えなければならない。

 彼女にしてみれば、式典会場でおとなしく座って話を聞いているだけなど、できるわけがなかったのだ。

 そんな退屈さはもう懲り懲りだ。森の中にいるときくらいは我慢してもいいが、森の外に出たのであれば、鳥籠の外に出されたというのであれば、思いっきり羽を伸ばし、飛び回ってみたい。

 そこで案じた一計とは、道中、父にねだって買って貰ったぬいぐるみに魔法をかけ、自分の代わりに席に着いていて貰うというものだった。

 リュウディースの女王の娘であり、その力、性質を色濃く受け継いだ彼女の魔力は、ほかのリュウディースを始めとする皇魔たちが驚嘆するほどのものであり、鍛錬の末、その精度も凄まじいものになっていた。ぬいぐるみを一時的に自分に擬態させることなどお手の物であり、その擬態を見抜けるものなど、そうはいない。

 母ならば看破できようが、そもそも式典会場という特別な場所にあって、看破するだけの集中力を発揮できるかどうか。

 母は、おっとりしているものの、だからといって人間ばかりの集会ともいうべき式典会場で緊張しないわけがないのだ。

 父には、無論、見抜かれようがない。

 彼女は、森を出立する前日、ようやく完成した計画の完璧さに自賛したものだった。

 そして、ついに計画を実行に移したのは、式典会場である王宮大広間に入ってからのことだ。父、母とともに席に着くとき、ぬいぐるみに魔法をかけ、擬態させた。自分はといえば、人間に擬態することで集まりに集まった人間の群れの中に紛れ込んだのだ。

 計画は、上手く行った。

 父も母も護衛たちも、彼女に擬態させられたぬいぐるみとともに式典が始まるのを待っていた。

 そうして監視の目から解き放たれた彼女は、呆れるほどに広く大きな式典会場の中を駆け巡るうち、ひとりの男児との再会を果たした。

 エンジュールの守護エレニア=ディフォンの息子であり、彼女の友達であるレイン=ディフォンだ。

 レインは、エンジュール使節団と同じ卓を囲んでいたのだが、リュカが足下から小声で話しかけると、彼は目を丸くした。しかし、声を上げなかったのは、緊張しきっていたからだろう。おかげで、ほかのだれにもばれずに済んだ。それには、エンジュール使節団の面々が式典の圧に飲まれていたというのもあるのかもしれない。

 大戦終結以来、最初にして最大の集まりである終戦記念式典は、途方もない規模の式典であり、世界中の国々から多くのひとびとが集まり、その熱量たるや凄まじいものがあったのだ。

「久しぶりだね?」

「うん……」

 リュカの呼びかけになんともいえない反応を示したレインだったが、彼女は気にせず、彼の手を取った。そして、用意していたもうひとつのぬいぐるみを彼の席に置き、彼に擬態させた。

 これも最初から計画していたことだ。

 というより、レインを連れ回すことが計画の発端といってよかったのだ。

 リュカは、退屈な日々の間中、ずっと、レインと遊びたいという気持ちを抑えていた。初めてできた人間の知人であり、同年代の友達がレインなのだ。大戦が終わり、これからは毎日のように、とはいかずとも、何度だって会いに行けるし、遊びに行けると思っていたというのに、父の方針は、彼女をメキドサールという鳥籠に閉じ込める行為に等しかった。

 大人には大人の事情があるのだろう。

 そんなことはわかっている。わかっているからこそ、黙って従ってやったのだ。

 だが、子供にも子供の事情があるのだ。

 逢えない日々が想いを募らせ、ついに爆発したのがたったいまなのだ。

 式典にエンジュールの代表も参加することはわかっていたし、代表者であるエレニアが愛息を連れてこないわけがなかった。

 だから、計画を立てた。

 レインと遊び回るために。

 そのためだけに立てた計画は、いまのところ順調そのものだった。

(待って、待ってよ)

(なぁに? どうかしたのかしら?)

 しばらくして、レインが小声で話しかけてきたので、リュカは足を止めた。擬態はとっくに解いているが、その結果明らかになったのは、レインとの体格差だ。卓の下に身を潜めていても、リュカとレインの体の大きさにははっきりとした差があった。

 年は近いはずなのに、どうしてこうも体格に差が生まれるのかといえば、レインが純粋な人間で、リュカが人間と皇魔の混血だからだろう。だから、リュカは、レインを年下の子をあやすように対応する。

(こんなことして、だいじょうぶなの?)

(だいじょうぶですわ。どんな問題が起こったとしても、リュカに任せてごらんなさい)

 リュカは、お姉さんぶってそういうと、つぎなる目的のために動き出した。

 式典はいま、グレイシアの演説が最高潮を迎えようとしていた。



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