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武装召喚師――黒き矛の異世界無双――(改題)  作者: 雷星
第三部 異世界無双

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エピローグ(三)

 シグルド=フォリアーは、自分がこの場にいることがどうにも不釣り合いに感じられ、なんともいえない居心地の悪さの中にいた。

 エンジュールの守護であるエレニア=ディフォンからの申し出ということで断るに断れなかったからついてきたのだが、それが間違いだったと思わざるを得ないくらい、式典会場の大広間には、各国の要人が集まっていた。ほとんどが王族であり、でなくとも国や組織の頂点に立っているような人物ばかりだ。

 たかだか戦闘部隊の隊長風情が列席していいような環境には思えなかった。

 しかも、元々無頼の傭兵集団を率いていた人間だ。

 ガンディア時代にも散々あったとはいえ、こういった堅苦しい式典の空気が苦手がかなわなかった。

 とはいえ、大広間の壇上に立つグレイシア・レイア=ガンディアの話を聞き逃すわけにもいかず、式典のことなど忘れて卓上の料理に舌鼓を打ったり、酒を飲んだりしている場合でもない。

 なんというか、板挟みという感じであり、それがどうにも彼の肌に合わなかった。

 同じ卓を囲むのは、エンジュール使節団の面々であり、代表である守護エレニア=ディフォンは、グレイシアの話に意識を集中させていた。

 立派なひとだ、と、シグルドは彼女を見るたびに想う。

 “大破壊”以来のエンジュールを立て直すことができたのは、ひとえにエレニアが守護としてエンジュールを護り、また、エンジュールのひとびとを引っ張っていったからにほかならない。ゴードン=フェネックや、多くのひとびとの手助けもあったからこそではあるが、それにしたって、彼女がいなければエンジュールはああまで纏まらなかっただろうし、“大破壊”後を生き延びられていたかどうか。

 そんな守護者がエンジュール使節団の代表に選ばれるのは当然であり、彼女が同行者としてシグルドたち《蒼き風》の幹部を選んでくれたことには、面映ゆいながらも感謝するほかない。そして、エレニアに頼まれた以上、断りようがないという如何ともしがたい事実もあった。

 エレニアには、散々な借りがある。

 《蒼き風》が組織として機能しなくなり、なんの期待もできない集団と成り果てたというのに、エレニアはシグルドたちをエンジュールに受け入れてくれたのだ。再び立ち上がるまでにどれだけの時間を費やしたかを考えれば、シグルドたちがエレニアに頭が上がらないのは道理だった。

 だから、エレニアとその子息レイン=ディフォンの護衛のような役割を引き受けたのだが、やはり、場違いだと何度なく想うのだ。

 とはいえ、朗々と響くグレイシアの声を聞き逃すわけにもいかず、また、メキドサールの席からやってきたルニアの相手もしなければならず、彼はなんともいいようのない気分だった。

「席から離れていいのかよ?」

 仕方なく、ルニアに問う。

「護衛の数は十分だ。わたしひとりいなくとも、問題はない」

 とても皇魔リュウディースとは思えない極めて人間に酷似した外見に擬態した彼女は、シグルドの隣の席に腰掛けたまま、そんな風にいった。

 こうして彼女と言葉を交わすのは、久方ぶりだった。メキドサールの皇魔は、森を出ない。ログナー島の人間には、まだまだ皇魔への偏見が強く、余計な軋轢を作りたくないというメキドサールの意向は、森の住民に徹底されているのだ。

 ルニアのようなどこか奔放ささえ感じられるものでさえ、魔王の掟は絶対的であり、従わざるを得ないのだろう。

 だから、このような式典の場さえも利用して、シグルドに逢いに来たのだから、なんともいえない。

 そんなルニアがエンジュール使節団の席を見回して、ぽつりと、つぶやいた。

「……しかし、先程から気になっていたのだが」

「ん?」

「なぜ、ぬいぐるみを座らせている?」

「は?」

 ルニアの予期せぬ問いかけに、シグルドは、きょとんとした。

「いや、そこ」

「ぬいぐる……み?」

 ルニアが指し示したのは、エレニアの隣の席であり、おめかししたレイン=ディフォンが座っている席だった。いまも、レインが退屈そうに座っている――ように見えたのだが、ルニアが魔法で小突くと、レインの姿が掻き消え、中から兎のぬいぐるみが現れた。

「まじかよ」

「どういうことだ!?」

 隣の席に腰掛け、グレイシアの話に傾聴していたエレニアだったが、さすがの事態に驚きの声を上げた。

 

 救世騎士団の卓は、騎士団幹部が勢揃いしていた。

「それにしても、長いな……」

 ベイン・ベルバイル・ザン=ラナコートが少しばかり退屈そうにつぶやけば、ロウファ・ザン=セイヴァスが彼に噛みつくように問うた。

「なにがだ」

「話が、だろ」

「式典なんだ。話が長くなるのは仕方がない」

「だからこういう式典は嫌いなんだよ」

「だったらベノアに残っていればよかったんだ」

 ロウファが待っていましたとばかりに告げると、ベインは冷静に理屈を返した。

「そういうわけにはいかねえだろ。騎士団幹部様御一行が招待されたんだ。俺様がいないと、相手に悪い」

「おまえひとりいなくとも、なんの問題もないが。いや、むしろ、おまえのような粗暴な輩が騎士団の代表だと想われないだけ、いないほうがましだったな」

「随分と辛辣だな、おい」

「これでも優しくしてやっているほうだ」

「それはどうもありがとうよ」

「感謝を示すなら、いますぐベノアに帰ってくれ」

「はっ、冗談じゃねえ」

「本気だが」

 などと、ベインとロウファの口論は留まるところを知らず、際限なく繰り広げられていく。

 そんな様子を眺めているのは、ルヴェリス・ザン=フィンライトであり、シド・ザン=ルーファウスだ。

「まったく、あのふたりは相も変わらずといったところね」

「仲が良いんですよ」

「あれで?」

「はい、あれで」

 シドが当然のようにいってのけると、ルヴェリスがため息を浮かべた。

「どんな仲の良さよ」

「昔から、ああですから」

「まあ、いいさ。問題は起こさないんだからね」

 と、オズフェルト・ザン=ウォードは、いった。

 そうなのだ。

 顔を合わせれば口論を始めるふたりだが、その口論がなにかしらの問題に発展したことは一度もなかった。どれだけ口汚くののしり合っても、それが尾を引かないのだ。しかも、互いに嫌い合っているというわけでもない。どちらも騎士団幹部として信頼し合っており、ふたりで戦場に出れば、お互いをしっかりと援護し、連携し、勝利するのだから、なんの問題もなかった。

 ただ、軽口を叩き合っているだけなのだ。

 気を許しているからこそ、そんな風に振る舞えるのだろう、と、オズフェルトは想っていたし、それが間違いではないことは、これまでの戦いが証明している。

 とはいえ、このような場でも口喧嘩を始めるのは、筋金入りとしか言い様がないのかもしれないが。

 オズフェルトは、式典の進行を眺めながら、周囲への警戒も忘れていなかった。

 あの忌まわしき大戦が終わり、世界が平穏を取り戻したことを記念する式典だ。まさか、なにかしらの事件が起きるなどとは思ってもいないが、万が一の場合に備えておくに越したことはなかった。

 神卓騎士団が救世騎士団と名を変え、新生して早二年半。

 組織の規模は極めて大きくなり、世界中に支部を持つほどになった。それもこれも、安定化へと向かう世界にあって、未だ続発する様々な問題、事件に対応するための戦力が必要となり、その役割を騎士団が担うことになったからだ。

 救世神ミヴューラは、獅子神皇に敗れ去り、消滅した。

 しかし、ミヴューラ神が掲げた志は、いまもなおオズフェルトたちの魂に刻まれており、騎士団の行動理念として息づいているのだ。

 よって、自分たちがこの場に招待された理由のひとつには、会場警護の役割も含まれているのではないか、と、オズフェルトたちは思っていた。

 それもあって、周囲の様子をだれよりも観察していたのだが、子供たちが大人の影や卓の影に隠れるようにして移動している様に目を留めた。

 その子供たちには、どうにも見覚えがあったからだ。

(あれは……確か……)

 魔王の娘ではなかったか。


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