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武装召喚師――黒き矛の異世界無双――(改題)  作者: 雷星
第三部 異世界無双

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第三千六百六十六話 異空を翔ける(九)

 ゲートオブヴァーミリオンによって召喚されたのであろうセツナの同一存在は、ニーウェハインよりも余程セツナに近いように想えた。

 ニーウェハインは、帝国の皇子として生を受け、その立場に相応しい教育を受けていた。立ち居振る舞いや精神性、人格がセツナのそれとは大きく異なるのだ。

 それは別世界におけるセツナなのだから当たり前のことなのだが、いま嬉々としてセツナに襲いかかってきている男は、心までもが鏡写しのようだったのだ。

 だから、神理の鏡による反射能力で生み出された存在なのではないかと推測した。

 神理の鏡は、反射という概念を操る。

 反射によって生じた影に手を加え、形を変えることだって容易い。

 セツナが勘違いするのも無理はないのだ。

 以前クオンがそのように能力を使ったところを目の当たりにしている。ミエンディアが同様に能力を使ったとして、なんら不思議ではない。

 しかし、現実は違った。

 黒き戟を振り回し、突撃を繰り返してくる男は、セツナなのだ。同一存在。並行世界の自分と言い換えてもいい。

(上手く考えたもんだな)

 胸中、唾棄するようにセツナは想った。

 そのとき、新たな気配が背後に生じた。

 振り向きもせず急上昇すると、剣風が異空を揺るがすのを認めた。

 それはつまり、物凄まじい威力の斬撃が繰り出されたということになる。

 よくよく考えれば、異空を平然と飛び回る同一存在の男も、異様としかいいようがないのだが、いったいどういうことなのか。

「どこのだれだ? 俺の邪魔をしやがるのはよぉ」

「邪魔者はおぬしじゃろう。そやつの命も力もわしのものなのじゃからなあ!」

 男の問いかけに対し、響き渡ったのは明朗快活な、しかしどことなく古風な口調の女声だった。

 見れば、確かに女がいた。赤みがかった黒髪を振り乱し、こちらに向かってくる女の目は、勝ち気に輝いている。緋色の瞳は、いままさに燃え盛っているようだった。

 右手には身の丈を超える大刀が握られている。片手で扱うには大きすぎるのではないかと想えたが、異様に肥大した右腕の筋肉を見れば納得がいく。

 そして、その顔立ち。

 女なのだが、見覚えのある顔に似ていた。セツナが女性的な化粧をすれば、そっくりな顔になるに違いない。そして、そんな無惨な状態の自分の顔が脳裏を過ぎり、なんともいえない気分になった。

 ミリュウたちの悪戯を思い出したのだ。

「あんたも同一存在かよ!」

「そうじゃ! わしは朱纏、おぬしの力をもらい受けるものなるぞ!」

 朱纏と名乗った女は、男と同様の発言をして、斬りかかってきた。

 ミエンディアによって召喚された同一存在なのだ。目的が同じなのは当たり前といえば当たり前だ。そして、そんな彼らを説得するなど時間の無駄だということも理解する。

「冗談じゃねえぞ!」

 セツナが朱纏の大刀を受け止めたとき、先の男が怒声を張り上げた。

「そいつの力は、この俺、イーラ様のものだ!」

「はっ、そんなもの、早い者勝ちに決まっておろう」

「その通りです」

 イーラと名乗った男と朱纏の言い合いに割り込んできたのは、無機的な声だった。まるで機械音声のような、しかしどこか聞き覚えのある声色。かつてのウルクを思い出すようであり、だが微妙に異なる。

 直後、閃光が視界を染め上げ、莫大な熱源の接近を認識する。

 瞬時に飛び離れると、蒼白色の光芒が異空を貫いていった。

 波光砲を連想させる光の筋は、さらに二度、セツナを狙って撃ってきた。

 光の源を見遣れば、人型のなにかが虹色の海に浮かんでいた。虹色の光を反射して輝くそれは、漆黒の装甲に覆われているようにも見えたが、それは甲冑というよりは体そのものようだった。機械仕掛けの人形のようであり、魔晶人形に似ているといっていい。

 魔晶人形に似てはいるが、細部は大きく異なっており、ウルクのような頭髪はなかったし、顔の作りも人間を模しているわけではなかった。そもそも、ウルクたち魔晶人形のように人間を元にして作られた存在などではないのだろう。

 個々に現れ、戦闘に割って入ってきたということは、セツナの同一存在に違いないのだ。

 この状況で同一存在以外の要素を叩きつけてくるミエンディアではあるまい。

「力を獲得するのは、もっとも早く対象を撃滅したもの。それが道理。そしてこのわたしが対象を撃滅するのもまた、道理」

 決定事項のように、しかし事務的に告げてきたそれは、人間でいう両目の部分を紅く輝かせた。

 そして、肩に担いだ大砲らしき物体から光の奔流を撃ち出した。蒼白色の光が視界を染め上げ、異空を引き裂く。が、セツナに届くことはなかった。

 イーラの戟と朱纏の大刀が光芒を切り裂いたからだ。

「なにが道理だ、この機械野郎!」

「あやつを戴くのはこのわしじゃ!」

「いいえ、わたしです」

「ざんねーん! あったしーだよ!」

 イーラ、朱纏、そして機械人形の三者が睨み合い、激しく殺気をぶつけ合ったところに割り込んできたのは、まったく空気の異なる女の声だった。

 その声は、セツナの頭上から聞こえてきたものであり、音が届いたときには、気配がすぐ真上に迫っていた。どうにも緊迫感のかけらもない声音とは裏腹に重厚感たっぷりの殺気は、百戦錬磨の戦士のものであり、セツナはすんでの所でその攻撃をかわした。

 その直後、異空を切断した無数の剣閃は、並々ならぬ猛者の証明だった。

 同時に視界を通り過ぎていったのは、薄桃色の残像。

 その正体はすぐにわかった。半人半獣の女であり、頭髪や体の大半を覆う体毛が薄桃色だったのだ。声色から想像できたとおりの女であり、ハートオブビーストの能力で獣化したシーラを連想させた。

 もっとも、その半獣人の女は、得物など手にしておらず、獣化能力は自前のものであるらしかったが。

(もう、なんでもありだな)

 セツナは、異世界の同一存在がもはや自分とは遠くかけ離れた存在なのだという事実になんともいえない気持ちになった。これでは、同一存在かどうか認識できるはずもない。

「このジーニャちゃんがその命もらいうけちゃうよー!」

 半獣半人の女が朗らかに宣言するなり、セツナに襲いかかってきたかと思いきや、なにかが女を弾き飛ばした。

 光がセツナの視界を包み込む。

 

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