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武装召喚師――黒き矛の異世界無双――(改題)  作者: 雷星
第三部 異世界無双

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第三千六百六十四話 異空を翔ける(七)

 勇者になどなる必要はない。

 ミエンディアを斃し、この長きに渡る戦いの連鎖に終止符を打つことができるのであれば、なんにだってなろう。

 たとえそれが絶望に満ちた存在なのだとしても、構いはしない。

 勇者を斃し、殺し、滅ぼす魔王となろう。

 そのために世界を敵に回し、百万世界のすべてのものに忌み嫌われようとも、だ。

 そのとき、ミエンディアが炎の剣を振り翳した。切っ先から噴き出した紅蓮の炎が渦を巻き、セツナに向かってくる。七つの炎の竜巻。異空を掻き混ぜ、圧倒的な破壊力を見せつけながら迫り来るのだが、セツナは、避けようともしなかった。

 尾を――ランスオブデザイアを対抗策として繰り出したのだ。

 魔王の尾は、ランスオブデザイアを凝縮し、変容させたような形状をしている。螺旋状に捻れた先端は、ランスオブデザイアの穂先そのものといってよく、その部分が超高速で回転することで魔力の渦を生み出し、竜巻として撃ち出した。

 紅き竜巻と黒き竜巻がセツナの眼前で激突する。

 凄まじい力の衝突が異空を震撼させる中、セツナはまったく気にすることなくカオスブリンガーの矛先を遙か彼方の光点へと向けた。すると、その射線上の異空が歪んだ。ミエンディアだ。空間転移によって移動したミエンディアが、カオスブリンガーの射線上に立ちはだかったのだ。

「わたしは希望です」

 ミエンディアが、毅然として、告げてきた。

 気にせず“真・破壊光線”を撃ち放てば、神理の鏡が瞬き、反射される。

 セツナは、瞬時にその場を飛び離れることで、跳ね返された光線を放置した。当然、“真・破壊光線”は、異空を突き破りながら、ただただ真っ直ぐに突き進む。圧倒的な破壊を撒き散らしながら異空の彼方へと消え去ったかに想われた光の奔流だったが、ミエンディアが表情を曇らせたことでセツナの思惑通りになったのだと理解した。

 跳ね返された“真・破壊光線”が、異世界のひとつでも破壊したのだろう。

 当然、ミエンディアは、神理の鏡を展開し、破壊の事実を反射した。

「いずれ滅びへと向かう世界にとっての唯一無二の希望なのです」

「そうかい」

 セツナは、ただただ冷ややかに応じた。

 それが三界の竜王の結論と変わらないのだといったところで、ミエンディアには通じないし、聞こえもしないのだろう。ミエンディアは、結論ありきで行動を起こしている。この百万世界を救うには、完全なる統合しか、原初の静寂へと回帰させるしかないのだと決めつけ、ほかの方法や手段になどまったく目もくれず、考えもしなくなっているのだ。

 だから、セツナの言葉も届かない。

 いや、そもそも、魔王の戯言など聞きたくもないのかもしれないが。

(それが駄目なんだよ)

 セツナは、惜しいと想っていた。

 ミエンディアは、確かに理不尽な存在であり、いまとなっては斃す以外に道はないのだが、しかし、彼女の考え方次第では、その可能性は無限にあったのではないか、と、想えてならないのだ。ミエンディアの力があれば、崩壊したイルス・ヴァレを復興することも、イルス・ヴァレを長久の平穏に導くことだってできたはずだ。

 それだけに留まらず、百万世界各地を巡り、それぞれの世界に安寧をもたらすことだってできたかもしれない。

 どれほど長い時間がかかるかはわからないが、ミエンディアならば必ずしも不可能だとはいえまい。

 そうであれば、戦う理由もなかったはずだ。

 斃す必要も、殺す必然性も、滅ぼす意味も、存在しなかった。

 だが。

「……残念だよ、ミエンディア」

 セツナは、魔王の王冠に手を翳し、能力を発動した。魔王の王冠とは、マスクオブディスペアの変容した姿だ。黒く禍々しい髑髏が王冠へと変じたそれは、無論、その能力を失ってはいない。

 セツナの分身というよりも魔王の分身たる魔王の影が無数に出現しすると、それぞれが黒き矛を掲げ、様々な方向方角に“真・破壊光線”を撃ち放った。

 四方八方に飛んでいく黒き光の奔流が、広大無辺な異空をでたらめに引き裂き、打ち砕き、穴だらけにしていくと、遙か遠方に無数の閃光が散った。数え切れない数の異世界が滅び、その数とは比較にならないほどの命が失われたのだ。

「それはこちらの台詞ですよ、セツナさん」

 ミエンディアが神理の鏡を頭上に放り投げる。すると、シールドオブメサイアの円環が通常よりも何倍にも大きく展開し、鏡面がより強く、烈しく輝いた。 

「あなたがわたしの言葉に耳を傾けてくれたのであれば、協力してくれたというのであれば、このようなことにはならずに済んだというのに」

 異空に起きた事象が反転し、無数の世界の破壊という事実が完全に否定され、存在していることこそが現実に置き換わると、セツナは違和感に苛まれた。

 あらゆる感覚が流れ落ちていくように緩慢になっていく。感覚の肥大。だが、いつものように鋭敏化せず、故にすべての事象が遠ざかっていくように感じる。全能感はなく、むしろ、不知不能へと堕ちていくような、そんな感覚。

 虹色に輝く海に沈んでいく。

(これは……)

 ミエンディアの攻撃だと察したときには、セツナの感覚は元に戻っている。

 ただ、破壊したのだ。

 魔王の力を以てすれば、それくらい容易い。

 赤子の手を捻るような軽々しさで、この身に起きていた異変を破壊した。

 すると、今度は、七色の海が激しく揺れ動いた。まるで洪水のように押し寄せ、渦を巻き、セツナを飲み込んでいく。異空そのものがセツナという存在を否定し、押し潰そうとしているかのようだった。

 無論、そうではない。

 ミエンディアが異空を操っているのだ。

 この百万世界を隔てる海ともいえる異空を利用することで、百万世界の魔王と打倒しようというのだろうが。

「甘いな」

 セツナは、矛を振るうと、それだけで異空の奔流を打ち砕いた。ただの一閃。そんな単純な一撃で、怒濤の如く押し寄せた異空の波動を粉々にして見せたのだ。

 だが、それだけではミエンディアの攻勢は止まらない。

 異空の流れが急激に変わった。

 セツナを一方向へと押し流していくかのようだった。

 セツナは、流れに逆らわず、ミエンディアの出方を窺った。セツナの目的は、ミエンディアの力を消耗させ尽くすことだ。そのためにもっとも効果的なのが異世界破壊であって、ミエンディアがみずから力を浪費してくれるのであれば、異世界破壊に拘る必要はない。

 もちろん、ミエンディアがみずからの攻撃で消耗する力など微々たるものだろうし、そうである以上、また異世界を破壊しなければならなくなるのだが。

 いまは、この流れに乗るべきだ。

  無闇な破壊は、望むところではない。

(それも、いまさらだがな)

 皮肉に笑って、セツナは、異空の流れの中に光を見た。

 無数の光点が星の早さで流れていく。

 時が加速している。


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