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武装召喚師――黒き矛の異世界無双――(改題)  作者: 雷星
第三部 異世界無双

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第三千六百五十九話 異空を翔ける(二)

(どこへ行きやがった?)

 セツナは、ミエンディアが残した光塊を処理し終えると、周囲を見回した。

 ミエンディアが異空と称した異次元空間は、幻想的かつ神秘的な光景が広がっており、宇宙空間に瞬く無数の星々のような光点が数え切れないほど点在していた。宇宙とは異なるのは、闇の中ではないということだ。色とりどりの光が入り乱れ、摩訶不思議な情景を描き出している。それらがなにを由来とする光なのかは皆目見当もつかないが、少なくとも、宇宙とはまったく異なるものなのだろうということは想像がつく。

 そして、光点のひとつひとつがそれぞれ異なる世界なのだということも。

 百万世界の宇宙――とでも呼ぶべき空間。

 異空。

(俺を斃す……そう、いったな)

 ということは、セツナを無視して統合を推し進めるつもりはない、ということだろう。

 ミエンディアが嘘をついている可能性もなくはないが、その可能性は限りなく低いはずだ。

 なぜならば、セツナの存在を放置しておくことは、ミエンディアにとって極めて重大な失策になりかねないからだ。

 セツナを放置して統合を推し進めた結果、隙を突かれ、大敗する可能性がわずかでもあるのであれば、まずはセツナを対処しておくべきだろう。万全を期すのであれば、だが、世界統合という重大事に万全を期さないはずがなかった。

 なにせ、百万もの世界をひとつに纏め上げるのだ。

 万にひとつの失敗も許されない。

 故に、ミエンディアは、なんとしてでもセツナを斃しに来るはずだ。

 姿を消したのは、セツナから逃げるためではなく、セツナを完全無欠に斃すためなのだから。

 では、どうやって、ミエンディアはセツナを斃そうというのだろうか。

 異空の特性でも利用しようというのだろうか。

(そんなものがあれば、だがな)

 セツナは、異空がどういった特性を持っているのか知らない。が、それはミエンディアも同じではないのか、と、想わずにはいられない。なぜならば、ミエンディアが異空に出たのは、今回が始めてのはずだからだ。

 およそ五百年前、大いなる力を手にしたミエンディアだが、そのときは、イルス・ヴァレの統一だけで満足している。つまり、異世界への進出など考えておらず、異空に飛び出そうとしたことすらなかったのではないか。

 今回、異空に飛び出したミエンディアがその瞬間に特性を把握したという可能性もなくはないが、限りなく低いと見ていいだろう。異世界と異世界の間に横たわる空間――異空の存在そのものは知っていたとしても、だ。

 そして、そんなものがあったとして、簡単に利用できるものなのかどうか。

(ってことは、だ)

 セツナは、全神経を研ぎ澄まし、周囲を警戒しながら視線を巡らせる。そして、七色に光り揺らめく異空の中で、限りなく肥大し、鋭敏化した感覚を行き届かせていく。視覚、聴覚、触覚、嗅覚――ありとあらゆる感覚を最大限に発揮し、わずかばかりの異変すら見逃さない。

 左後方の空間が揺らいだ。

 瞬間、セツナは、魔王の尾をそちらに伸ばした。超高速で回転しながら伸びゆく尾だったが、その螺旋回転がなにかを捉えることはなかった。空を切り、異空に穴を空ける。空間に空いた穴は瞬時に塞がれていったが、それはミエンディアの力ではない。異空の力だ。

 すると、今度は、右前方の空間に揺らぎが生じ、そちらに対しては左手を振り翳した。“闇撫”を発動し、巨大な魔王の手でもって揺らいだ空間ごと広範囲の空間を削り取る。しかし、やはりなんの手応えもなく、無駄に空間を削っただけに終わった。

 無論、空間の揺らぎがミエンディアが起こしたものだということに疑いはない。異空は不変の空間ではないが、あのような揺らぎ方はほかにはなかったのだ。なにより、揺らぎの根底に神威を感じている。ミエンディアの力をだ。

(随分と慎重だな)

 セツナは、目を細めた。

 ミエンディアは、セツナを本気で斃そうと考えているのだろう。そして、そのためにはどうすればいいのかもわかっているのだ。

 つまり、セツナに消耗させ切ったところを全力で攻撃する、ということだ。

 そしてそれは、セツナの考えている戦法でもある。

 現状、セツナは、正面からミエンディアを斃すことはできそうにないのだ。ただでさえ絶大な力を持つミエンディアだが、それだけならば問題はない。魔王の力を最大限に発揮して、真正面からぶつかれば、いかに相手が聖皇といえど一溜まりもあるまい。

 だが、ミエンディアの手には、シールドオブメサイアがあった。魔王の杖と同等にして正反対の性質を持つ神理の鏡。その力の凄まじさについては、クオンとの戦いで散々理解させられているし、つい先程も、身を以て思い知らされた。

 神理の鏡がその力を発揮する限り、正面から戦うのは得策ではない。

 一方、ミエンディアからすれば、神理の鏡がある限り、正面からぶつかるという戦法を取るのも悪くはないはずなのだが、しかし、聖皇は慎重に慎重を重ねているのか、そのような戦法を取るつもりはなさそうだった。

 神理の鏡で魔王の杖の力を跳ね返し続けるうちに力尽きる可能性があるからだろう。

 そして、そうなってからではもう遅い。

 もう、挽回できなくなる。

 故に、ミエンディアは、策を弄し、手練手管の限りを尽くし、セツナの力を消耗させ尽くそうというのだろう。

 そのために姿を消した。

 どうやっているのかはわからないが、ミエンディアの現在地が掴めない以上、追いかけ回すこともできない。

 空間の揺らぎを頼りに現在座標を特定するのも、いまのところ、不可能だ。

 また、空間が揺らいだ。

 今度は頭上だった。

 しかもすぐ真上であり、そのためにセツナは瞬間的に反応し、矛でもって切り裂いて見せた。なんの手応えもなく、ただ異空に巨大な裂け目が刻まれただけで終わる。そして、その裂け目もあっという間に塞がれていった。

 それからしばらくの間、立て続けに空間の揺らぎが生じた。セツナの周囲、様々な箇所の空間が揺らぎ、セツナを嘲笑うかのようだった。それら空間の揺らぎに対し、セツナは、魔力を帯びた羽を飛ばすことで対処するようにした。魔翔弾と名付けたそれらは、空間の揺らぎに直撃すると、ただの羽一枚で空間に大きな穴を空けるほどの威力を持っている。が、すべて空振りに終わっている。

(……やれやれ)

 セツナは、肩を竦めたくなったが、警戒を止めようとはしなかった。

 空間の揺らぎを黙殺するという方法もなくはないが、それだけはできなかった。それをすれば、ミエンディアに隙を突かれる可能性がある。

 ミエンディアは、セツナの力を消耗させる一方、セツナが隙を見せるのを待っているのだ。隙を突くのであれば、たとえ魔王であっても大打撃を与えられる。そうミエンディアが考えていてもおかしくはないし、正しい考え方だ。

 しかし、いつまでもこのようなくだらない戦いを続けているわけにはいかない。

 一刻も早くミエンディアを斃し、この戦いに決着をつけなければならないのだ。

 セツナは、異空に瞬く光の数々を見遣り、目を細めた。

(仕方がねえ)

 そのためには、やはり、悪逆非道の魔王になるしかない。

 


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