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武装召喚師――黒き矛の異世界無双――(改題)  作者: 雷星
第三部 異世界無双

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第三千六百五十八話 異空を翔ける(一)

 セツナは、もはや問答は不要だと断じた。

 ミエンディアにどれだけこの世の成り立ちについて解説されようとも、どれほどかみ砕き、懇切丁寧に説明されようとも、微塵も納得できなければ、心を揺り動かされることもなかった。セツナがミエンディアの側につくことは断じてあり得ない。

 なぜならば、ミエンディアの目的とは、ただありのままの百万世界を統合するという当初の想像とはかけ離れたものだったからだ。

 百万世界をひとつに統合し、なおかつ、すべての生命、すべての存在、すべての事物を統合し、原初の静寂へと回帰することにあるのだ。

 それはつまるところ、いま生きているものたちの存在意義の否定にほかならない。

 現在を否定し、未来を拒絶し、過去をも断絶している。

「なぜです?」

 ミエンディアが純粋な疑問を浮かべるようにして、問うてきた。

「当たり前だろ。あんたの目的は、原初の静寂とやらへの回帰なんだ。そうなったら、ファリアやミリュウたちはどうなる! ルウファやシーラたちは! 皆は!」

「完全無欠にして永劫不変、唯一無二の存在へと回帰する――それだけのことですよ」

「やっぱりな!」

「すべての生命を、すべての存在を、すべての事物を隔てる不和が消え去り、ひとつに溶け合う。あらゆる不安も不満も失意も哀しみも怒りも絶望も溶けてなくなるのですよ。それを幸福と呼ばず、なんと呼ぶのです?」

「存在そのものを消し去っておいて幸福とはよくいったものだな! あんたが否定した創世回帰となにが違う!」

「違いますよ。なにもかも。創世回帰は、世界の許容限界を超えそうになればこそ行われた大虐殺であり、回帰とは名ばかりの大殺戮です。故にわたしは立ち上がり、世界の統一によって、人心の統一によって、未来永劫、創世回帰を必要としない世界を作ろうとしました。けれど……結局、世界は変わらなかった」

 ミエンディアが至極無念そうにいった。

「わたしが死んだあとの世界は、あなたもよく知っているでしょう。わたしが統一したはずの大陸は、すぐさま乱れ、だれもが相争い、血と死に満ちた戦国乱世が幕を開けたのです」

 そして、三大勢力と小国家群に分かれた後、ある種の平穏に似た時間が生まれたのは、結局のところ、聖皇のおかげだった。聖皇の復活地点である“約束の地”を探す神々の意向が、三大勢力の活動を鈍化させ、そのために小国家群が一種の均衡状態を保つことができたのだ。

 もし、聖皇の死後、神々が“約束の地”探しに没頭しなければ、大陸はずっと戦乱の世だったのかもしれない。

 いや、そうに違いない。

 なにせ、セツナという矛を手にしたガンディアが小国家群の均衡を破ったのを皮切りに、様々な国が活発に動き始めたのだ。

「ひとがひとで在る限り、闘争はなくならない。欲望は際限なく膨れ上がり続け、やがては世界に破局の危機さえもたらしかねない。故に三界の竜王たちは、創世回帰という最終手段を取ってきた。その事実を否定することは、なにものにもできないのです。わたしでさえ、ひとを変えることができなかった」

 かつて、イルス・ヴァレという世界そのものを改変したミエンディアがいうのだ。その言葉には、十分すぎるほどの重みがあった。ミエンディアは、ただ世界を我が物とするために改変したわけではないのだ。創世回帰から世界を救うためにこそ、改変して見せた。だが、改変された世界でも、ひとびとは闘争を忘れなかった。相争い、傷つけ合い、奪い合い、殺し合った。

 ミエンディアがある種の絶望を抱いたとして、なんの不思議もない。

 が、だからといって、ミエンディアの言い分を受け入れる理由には、ならない。

「争うことも、傷つけることも、奪うことも、殺すことも――他者の存在があればこそ。故に、わたしはすべてをひとつの存在へと回帰させましょう。そこには完全がある。完全なる平穏が、完全なる安寧が、完全なる愛が……!」

 ミエンディアの体から溢れた神威が光となって周囲に拡散したかと思うと、いくつもの光の塊が生まれた。その瞬間、セツナは、警戒とともに魔力を解き放った。同等数の魔力の塊を生み出したのだ。

「そうなれば、ファリアさんや皆さんとも、再びわかり合えるのですよ?」

「……それがどうした」

「このままでは、あなたは嫌われたまま、憎まれたまま。こんなに悲しいことはないのではありませんか?」

「だから、それがどうしたよ」

 セツナは、ミエンディアを睨めつけるだけだった。心は揺れない。揺れるはずがない。確かに、ファリアたちとこのままだなんて考えるだけでも嫌だったし、できるならば一刻も早く元の関係に戻りたいと想っている。けれども、それは、いまのありのままのファリアたちと、なのだ。

 ひとつの存在に溶け合って分かり合うというのは、まったく違うものだ。

 そんなこと、ファリアたちだって望んではいまい。

 それに、それはファリアたちを失うのと同義だ。

 セツナは、どれだけファリアたちに嫌われようとも、憎まれようとも、彼女たちの幸福の未来を願ってやまなかったし、そのためにこそ、ミエンディアを排除しなければならないと考えていた。

「残念です。それでもあなたがわたしに協力しないというのであれば、邪魔をするというのであれば、戦いましょう。あなたを斃し、魔王の力を根絶し、完全には不要な存在を完全無欠に排除致しましょう」

「はっ」

 ミエンディアがついに戦闘態勢に入ったのを見て、セツナは、前進した。一気に距離を詰めようとしたのだ。

「それはこっちの台詞だ!」

 叫び、間合いに飛び込めば、ミエンディアの周囲に浮かんでいた複数の光塊が一挙に押し寄せてきた。無論、セツナの周囲にも魔欲の塊が浮かんでおり、それらがさながら衛星のように飛び回って光の塊を迎撃する。激突する神威と魔力が異空を激しく震撼させる中、セツナはミエンディアを捉えている。

「俺は元よりあんたを斃しに来たんだ! 話し合いをしにきたわけじゃねえ! あんたを斃し、この長きに渡る戦いに決着をつける!」

 レオンガンドが望んだように、アズマリアが望んだように、クオンが望んだように――だれもが望み、求めたように。

 セツナは、カオスブリンガーをミエンディアに突きつけた。

 しかし、矛の切っ先は、鏡の盾に防がれてしまう。神理の鏡が輝き、黒き矛を反射する。衝撃がセツナの腕を貫き、体中を駆け抜けた。凄まじい衝撃は、セツナが矛に込めた力に比例する。セツナが素早く飛び退いた瞬間だった。

「最強の矛も、無敵の盾の前では形無しですね」

 ミエンディアは、微笑し、その姿が異空に溶けて消えたように見えなくなった。 

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