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武装召喚師――黒き矛の異世界無双――(改題)  作者: 雷星
第三部 異世界無双

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第三千六百五十四話 聖皇問答

 ミエンディアの右手の先に収束した莫大な神威が、目も眩むような光を発したかと思えば、セツナに向かって打ち出されてくる。

 有無を言わさぬ一撃は、しかし、セツナに掠ることさえなかった。

 セツナが軽々とかわしたからであり、かわされた神威の塊は、次空の狭間に飲まれて消えた。

 あれだけの神威ですら、短時間しか形を保っていられないのだ。

 並の人間は無論のこと、ある程度の力を持った神でさえも、次空の狭間には存在していられないに違いない。

 そんな領域なのだ、次空の狭間とは。

「この異空は、すべてを拒む」

「異空……」

 ミエンディアの言葉を反芻するようにつぶやき、理解する。セツナが次空の狭間と呼んでいる領域は、ミエンディア曰く、異空と呼ぶらしい。それがミエンディアが独自に考え出した呼称なのか、それともなにかしら由来のある呼び名なのかはわからないが、セツナもそれに倣うことにした。

 この異空間の呼称などどうでもいいことだが、どうでもいいことだからこそ、ミエンディアの用いる呼び名を使うことにしたのだ。

「ひとも、動物も、魔も、神も……世界さえも、そのすべてを拒絶し、存在することを許さない」

 ミエンディアは、忌み嫌うように、いった。その声音や表情から、聖皇がこの異空という領域について、心底嫌悪していることが伝わってくる。常に悠然とし、寛容な感のあった聖皇らしからぬ表情と態度に想えてならなかった。そしてそれこそ、ミエンディアの本質なのではないか、と想わずにはいられない。

「その割には、世界は百万も存在しているじゃないか」

「それこそ、拒絶された結果ですよ」

「拒絶? だれに」

「いったでしょう。この異空にです」

「は?」

「この異空が、すべてを分断してしまった」

 セツナが訝しめば、ミエンディアが遠い過去に想いを馳せるような言い方をした。

「遙か太古の話です。あなたは無論のこと、わたしが生まれる遙か以前――いいえ、三界の竜王すら誕生する前のこと。それこそ、百万世界が成立するよりもずっと前の……もはやだれも覚えていないころのお話」

「……だとしたら、なんであんたがそんなことを知っているっていうんだ?」

「あなただって知っているはずですよ。だれもが知っている。知っていて、覚えている」

 ミエンディアは、眩いばかりの微笑を湛え、告げてくる。その表情ひとつとっても、先程有無を言わさず攻撃をしてきた人物のものとは想えなかった。まるで別人だが、それこそ、ミエンディアなのだろう。人間と同じだ。時と状況によって、いくらでも顔を変え、態度を変える。

 聖皇も、人間だったのだ。

 いまや、神々の王に等しい力を持っているとはいえ、だ。

「……知らねえな」

「知ろうとしないからでしょう。ですから、想い出せない。忘却の彼方に置き忘れたまま、拾い上げることができない。つまり、それがあなたの限界ということなのでしょうね」

「ひとの限界を勝手に決めるなよ」

「……まあ、いいでしょう」

 セツナの発言などまったく意に介さず、聖皇は話を続けていく。

「大切なのは、あなたがなにも知らないということです。あなたは、なにも知らない。わたしの目的も知らない。わたしの目的がこの世界にとってどれだけ有益で、どれほど意義のあることなのかも、知らない」

「知りたくもねえからな」

 ぼそりと言い返せば、ミエンディアは、目を細めた。

「知りなさい。知っておくべきです。そして、理解して、わたしに協力なさい」

「なにを……いまさら……!」

 セツナは、叫ぶようにいった。矛を握る手に力が籠もる。一瞬にして脳裏を過ぎったのは、聖皇の存在がもたらした様々な被害であり、ファリアたちが敵に回ったという圧倒的な事実だ。それだけならばまだいい。そのために彼女たちがどれだけ傷つき、どれだけ悲しんでいるのか。想像するだけで心が震える。怒りが燃え上がる。

 けれども、ミエンディアは、まったく気にもしていないようにいってくるのだ。

「確かにいまさらかもしれませんが、しかし、わたしも考えたのです。この異空を游ぎながら、考えたのですよ」

 異空を見渡しながら告げてくるミエンディアの有り様に、セツナは、怒りをぶつけることもできなかった。問答無用で襲いかかってもいいはずなのに、攻撃する気になれない。ミエンディアが思わず話し合いをしようとしてきたからというのもあるし、ミエンディアの話を聞いておく必要があるように思えたのもあるだろう。

 確かに、セツナには知らないことがあり、それは知っておくべきかもしれないのだ。

 ミエンディアを斃すのは、そのあとでいい。

「あなたを殺すのは簡単です。ですが、あなたほどの力を持つものをただ滅ぼすのは、あまりにも勿体ない。世界の損失だと気づいたのです。なぜならば、あなたは、百万世界の魔王、その力の使い手なのですから」

「この力が目当てかよ」

「ええ」

「はっきりいうな」

「そのほうがわかりやすくていいでしょう? 特に、あなたのような御方には」

 馬鹿にしているわけではないのだろうが、そう受け取られても仕方のないような言い方だった。もっとも、セツナにとっては、ミエンディアの言い方などどうでもいいことだったし、どういわれてもなにも感じようがなかったのだが。

「そう……わたしは、あなたの力を借りたい。あなたとわたしが力を合わせれば、百万世界の統合は、きっと上手くいく。わたしがひとりで行うよりもより早く、より精密に、より完璧なものとなること間違いありません」

 ミエンディアは、はっきりといった。

「なぜならば、あなたと魔王を滅ぼさずに済むのですから」

 セツナがミエンディアに協力するということは、つまり、そういうことだろう。だが、それは、ミエンディアがセツナとの戦いに臆しているとか、戦うことが面倒だとか、そういう理由ではなさそうだった。ミエンディアは、自信に満ち溢れている。まるで自分の敗北の可能性をわずかたりとも考えていないようであり、接待の勝利を確信しているようだった。

 そして、セツナと魔王に救いの手を差し伸べているような、そんな気配さえもあったのだ。

「わたしが目指すのは、完全なる世界の統合。そこにひとも、神も、魔も、関係ありません。正邪の別なく、すべての存在を統合し、ひとつにしましょう。この忌まわしき異空を超えて、もう一度、すべてを原初の静寂に戻すのです」

 ミエンディアの紡ぐ言葉に、違和感があった。

「原初の……静寂……?」

 その言葉がなにを意味するのか、わからない。

 ただひとつわかっているのは、ただ百万世界を統合し、ひとつの世界を作り上げることが目的ではなさそうだということだ。

「セツナさん。あなたは、感じたことはありませんか?」

 ミエンディアは、そういって、セツナに問うてきた。

「この世界は、あまりにも未熟で、あまりにも不完全だと、考えたことはありませんか」

 

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