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第三千六百五十話 魔王の挑戦

「だからさ」

 セツナは、ミエンディアを睨み、告げた。

「あんたを斃し、この戦いのすべてに決着をつけるんだ」

「決着……ですか」

 ミエンディアは、自身の有利性を信じているのだろう。微笑すら湛えていた。

「それはこちらの台詞ですよ。セツナさん」

 そのとき、ミエンディアの周囲の空間が歪んだかと思うと、複数の光の塊が出現した。それは莫大な神威を凝縮したものであり、破壊的な神威を撒き散らしながら膨張を始める。

「あなただけは――魔王の杖の護持者であるあなただけは、魔王と繋がりを持つあなただけは、連れてはいけないのですから」

「案ずるなよ、聖皇」

 セツナは、いった。傲岸に、不遜に。神々の王にして、神理の鏡の護持者となったものに対し、真っ向から喧嘩を売るように。

 元より敵であり、斃すべき存在なのだ。

 この期に及んで、長々と話をする道理もない。

 斃すだけだ。

「どうせ、あんたの望む世界は来ないんだからな」

「いいえ。それは違いますよ。わたしの望みは世界の望み。この世界に生きとし生けるものすべてが、それを望んでいる。悲願といっていいでしょう。だれもが切望し、求め、願っている。ですから、わたしが代表者となった。魔王を討ち果たす勇者と。そして、あなたを斃し、魔王を滅ぼしましょう。その上で、この百万に分かたれた世界をひとつとし、恒久の平穏をもたらすのです」

「それが世界中のひとびとが望んでいることだっていうんならな」

 聞いてやらなくもない、と、セツナは想ったが、同時に頭を振った。

 ミエンディアが目指す未来を、その目的を知ってしまった以上、首を縦に振ることなどできなかった。

 ミエンディアの目的。

 それは、約五百年前の世界統一の延長上に位置するものといってよく、ミエンディアの目的を知っていれば納得のいくものではあった。もっとも、だからといって余人が想像できる範疇のことではなかったし、途方もなく規模の巨大なことであり、正気の沙汰とは考えられないことでもあった。

 ミエンディアが先程語った言葉通りなのだ。

 百万世界の統一。

 それこそ、ミエンディアの目的だった。

 この世界、イルス・ヴァレの外には、次元を隔て、無数の世界が存在する。それら異世界群の総称をイルス・ヴァレを含めて百万世界というのだが、その百万世界を統合し、完全なる存在へと作り替えることこそ、ミエンディアが行おうとしていることだったのだ。

 かつて、ミエンディアがイルス・ヴァレのみに行ったことを百万世界全体を巻き込んで行おうとしているということだ。

 そして、ミエンディアが完全なる復活からいまに至るまで動かなかったのは、そのための力を集めていたからにほかならない。

 およそ五百年前、神々の王と呼ぶに相応しいだけの力を手にしたミエンディアだが、そのとき、彼女が為したのはイルス・ヴァレの統一だけに過ぎなかった。莫大な神々の力を以てしても、世界ひとつ作り替えるのがやっとだったのだ。

 百万もの異世界にその力を及ぼさせるには、やはり、当時の力だけでは足りない。故にミエンディアは、クオンの肉体を依り代とし、神理の鏡の護持者となった。それによって聖皇の力はいや増し、さらに複数の異世界を巻き込むことすら容易となったに違いない。

 そもそも、獅子神皇ですら、百万世界に己を同時に存在させることができたのだ。

 そこに神理の鏡の力が加われば、どれだけのことができるようになったのか、想像しようもない。

 それだけでも圧倒的としか言い様がないというのに、ミエンディアは、さらなる力を求めた。

 その成果が、いまのミエンディアの力だ。

 ミエンディアは、セツナが撤退せざるを得なかった初戦とは比べものにならないほどの力を放っていた。

 それは即ち、ミエンディアがさらに多くの神々と契約を結び、召喚し、力を得たということにほかならない。

 セツナが魔界にいっている間に、イルス・ヴァレに満ちる神威の総量が大幅に増大していたのだ。そのことからも、聖皇によって召喚された神属――皇神の数が増えていることがわかるし、聖皇自身の神威も飛躍的に増大していることが確認できている。

 では、セツナは、どうか。

「望んでいますよ。あなたには聞こえませんか? ひとびとの、民衆の声が。救いを求め、光を、希望を探す弱者たちの声が。だれもがそれを望んでいる。だれもがそれを求めている――ああ、あなたは、求められていませんね」

「だろうな」

 否定はしなかった。

 セツナは、魔王だ。

 ミエンディアによって認識が逆転した結果、セツナは、世界を救う存在ではなく、世界を滅ぼす存在と成り果てた。

 ミエンディアこそ、この世界を窮地から救う存在であり、神々に祝福されし勇者となったのだ。

 故に、だれもがセツナを憎み、恨んでいる。失意と絶望の対象に過ぎず、セツナの死こそ望んでも、セツナの活躍など、だれも求めていないのだ。

 ファリアたちでさえ、そうだった。

「俺は、魔王だ」

 そして、呪文を唱える。たったの四文字。それだけで、世界は変わる。

「武装召喚」

 全身から爆発的な光が生じ、視界を白く塗り潰したのは、一瞬。その一瞬のうちに光が右手の内に収束し、黒き矛が具現する。禍々しくも破壊的な黒き矛。カオスブリンガー。あるいは、魔王の杖。その柄に手を触れた瞬間、あらゆる感覚が肥大し、鋭敏化する。だが、それだけでは足りない。さらに呪文を唱える。何度も、何度も。

 呪文を唱えるたびにセツナは精神力を消耗していくが、逆に力は増していった。メイルオブドーター、マスクオブディスペア、エッジオブサースト、ロッドオブエンヴィー、アックスオブアンビション、ランスオブデザイア――魔王の杖の六眷属を召喚し終えると、それらは瞬時に変容し、セツナの全身を包み込んだ。

 メイルオブドーターは禍々しくも絢爛たる鎧となり、エッジオブサーストは巨大な闇の翼に、ロッドオブエンヴィーは籠手となって両腕を覆い、アックスオブアンビションは脚甲として両足に絡みついた。ランスオブデザイアは悪魔の尾であり、マスクオブディスペアは魔王の王冠となっている。

 完全武装・深化融合の究極形――魔王態とでもいうべき形態となったことで、セツナの身体能力は神をも越え、動体視力も五感も、あらゆる能力が圧倒的なものとなっている。

(ああ……)

 セツナは、感じ入るほかなかった。

 これまでの完全武装は、不完全としかいいようがなかったのだ、と、理解した。

 魔界での魔王との対峙は、相互理解を深めるに至った。

 そして、それによって、カオスブリンガーと眷属たちは、セツナにこれまでとは比べものにならないほどの力をもたらしたのだ。

 これならば、戦える。

 セツナがそう認識した瞬間だった。

 聖皇が動く。

 聖皇の周囲に出現し、膨張を続けていた複数の光の塊は、ひとつひとつが獅子神皇と同等の神威の塊だったのだが、それらが周辺の時空を歪めながらセツナへと殺到してきたのだ。




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