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武装召喚師――黒き矛の異世界無双――(改題)  作者: 雷星
第三部 異世界無双

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第三千六百四十八話 絶望の中の希望(十二)

 赤黒い瞳の奥の奥に、遙か悠久の時の彼方が見える。

 魔王がどれほど長いときを生きてきたのか、そして、その時間がどれだけ苦しく、どれだけ絶望的なものであったのかが伝わってくるようだった。

 何億年、何十億年――いや、それどころではない。そんなもの、彼が過ごしてきた時間からすると、わずかばかりのものでしかなかった。もっと長く、もっと遠く、もっと深く。彼の人生は、人間のセツナには想像しようもないほどに長大であり、膨大だったのだ。

 そしてその膨大な時の流れは、無明の闇に覆われている。

 時折、光が瞬いた。

 まるで闇夜を飾る星々のように輝く光は、彼の運命を嘲笑うように通り過ぎ、消えていく。

 また、絶望が増えた。

 光が通り過ぎるたび、彼の絶望は増大し、闇もまた深く、昏くなっていく。

 何度となく同じことが繰り返される。

 希望などどこにもなく、暗澹たる絶望の闇だけが彼のすべてだった。

 それでも、立ち止まってなどいられない。

 だから、彼は前に進み続ける。

 それがたとえ、百万世界を滅ぼすことになるのだとしても、進むしかない。

 同じことを繰り返すことになったのだとしても、前進しなければならないのだ。

 繰り返す。

 また、繰り返す。

 何度だって繰り返していく。

 救いなどどこにもなくとも、希望などどこにも見当たらなくとも。

 期待は裏切られ、悲願は踏みにじられる。

 それでも、征く。

 征かねばならない。

 征って、果たさなければ。

 約束を――。

 遙か悠久の時の彼方で結んだ約束を、いつか、必ず。


「なるほど。道理だ」

 魔王が、少しばかり納得したように告げたとき、セツナもまた、多少なりとも納得できたような気分になった。

 無論、完全に理解したわけではないし、それが見当違いや勘違いである可能性も捨てきれない。しかしながら、なにも理解しようともしなかったときよりは、歩み寄れたのではないか、と思わずにはいられなかった。

 そうだ、と、いまさらのように想う。

 セツナは、いまのいままで心の底から魔王を理解しようとしていなかったのではないか。

 召喚武装がその真価を発揮するためには、召喚者と心を通わせ合い、相互理解を深め、互いに心を許し合わなければならない。それこそ、ファリアたちが最終試練によって成し遂げたことであり、彼女たちが各々の召喚武装の力を最大限に発揮できるようになった理由だ。

 セツナは、地獄において最終試練を行ってはいる。

 それによって、カオスブリンガーも、六眷属の力も、最大限に発揮できるようになったはずだ。

 だが、振り返ってみると、そんなことはなかったのだ。

 最終試練を終えたことにより、カオスブリンガーや六眷属が真価を発揮できるようになっていたというのであれば、地獄から現世への帰還を果たしたその瞬間から、完全武装も深化融合も完璧に使いこなせていなければおかしかったのだ。

 しかし、そうではなかった。

 完全武装は愚か、カオスブリンガーの力さえ、完全に使いこなせていなかったのではないか。

 戦いに次ぐ戦いの中で、ようやく、少しずつ力を解放していったという事実は、結局、セツナが魔王の本質を理解していなかったことに繋がるのだろう。

 理解しようともしていなかったという事実に。

 相互理解を深める必要があるというのであれば、セツナからも魔王に歩み寄る必要があったはずだ。

 それなのに、最終試練を終えたからという理由だけで黙殺し、見て見ぬ振りをして、魔王から力を借りることだけを考えていたのだ。

 いまならば、わかる。

 はっきりと、理解できる。

 百万世界の魔王とはどういう存在であり、なにを求め、なにを望んでいるのか。

 なぜ、セツナを選び、なぜ、セツナに期待しているのか。

「我はどうやら見くびっていたようだ。おまえの覚悟を。おまえの決意を。おまえの、諦めの悪さを」

「おうとも。俺は世界一諦めの悪い男だぜ」

「百万世界一といってもいいぞ」

「それは褒めているのか?」

「褒めている」

 魔王は、目を細めていった。瞳の奥の絶望の闇は、相変わらず無限の暗黒を湛えているが、魔王の心は、動いたようだった。

「絶望の底から立ち上がり、魔王に立ち向かおうとするものなど、百万世界のどこにいるというのだ」

「ここにいる」

「そうだ」

 セツナが自分を指して告げると、魔王が肯定する。

「おまえだけだ。これほど愚かで馬鹿げた行いができるのは、おまえただひとりなのだ」

 そんな魔王の言を、セツナは褒め言葉と受け取った。

 魔王とは、滅びだ。

 セツナはいま、滅びと対峙しているのだ。

 魔王の気分次第で、一瞬にして滅び去り、この世とおさらばする可能性は十二分にあった。魔王が少し動いただけで、そうなりうる。ただの人間と百万世界の魔王なのだ。その差は、考えられないくらいに巨大だ。差を埋める方法などあろうはずもない。

 そんな魔王に立ち向かおうというのは、愚行以外のなにものでもなかった。

 だからこそ、手が震え、足も震えている。

 それでも、セツナは、一歩も退かなかったし、魔王を見据えていた。

 諦めるわけにはいかないのだ。

 ここで諦めたら、すべてが終わりだ。

 これまで自分がしてきたことがすべて、無意味になる。払ってきた犠牲も、繋いできた命も、結んできた約束も、なにもかもすべて、水泡に帰す。

 一方、ミエンディアを斃し、戦いを終わらせたなら、無駄にはならない。

 たとえそこにセツナの居場所はなくなろうとも、セツナが戦ってきた意味は、戦い抜いた意義は、残り続ける。ファリアたちも死なず、生き残ったものたちによってイルス・ヴァレの未来が築かれていくことになるだろう。

 それでいいじゃないか、と、セツナは想う。

 少し寂しいが、ファリアたちが生き残るのならば、それに越したことはない。それだけで十分だ。その上で、彼女たちが幸せを掴んでくれれば、なにもいうことはない。

 しかし、そのためにも、魔王軍の侵攻を許すわけにいかないのだ。

 なんとしてでも食い止めなければならない。

 そんなことができるわけがないとしても、なんとかしなければならない。

 この命に代えて。

「ならば、もう一度、試してみるか」

「試す?」

「そうだ」

 魔王が静かにうなずく。

「再び彼奴に挑み、見事この戦いを終わらせて見せよ。さすれば、我らがイルス・ヴァレへ侵攻する必要もなくなろう」

 魔王は、いつの間にか手にしていた杖を掲げた。暗黒の結晶のような杖は、魔王の象徴のようであり、魔王の力そのものようでもあった。

 その瞬間、セツナの眼前の空間がねじ曲がり、闇が意識を包み込んだ。

 空間転移が、起こる。

 完全無欠の、なんの間違いも不足もない、完璧な空間転移。

 セツナをイルス・ヴァレへ、この長きに渡る戦いの終点へと運ぶための空間転移。

 時空が歪み、世界が震えた。

 セツナは、征く。

 聖皇を討ち斃し、すべてに決着をつけるために。

 



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