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武装召喚師――黒き矛の異世界無双――(改題)  作者: 雷星
第三部 異世界無双

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第三千六百四十五話 絶望の中の希望(九)

 セツナは、魔王の腹心六名に囲まれ、なんともいえない居心地の悪さを感じていた。

 いずれも黒髪に紅い目という共通点を持ち、それぞれ異なる形状の黒衣を身に纏っている。エッジオブサーストだけは、黒衣と呼んでいいものかわからないほどに露出が激しく、際どさ満点なのだが、どうやらほかの腹心たちは気にしていないらしい。

 メイルオブドーターの性格を考えれば、あれくらいの露出など、気にするだけ無駄だと考えているのかもしれない。

 少年、少女、男、男、女、老人――そんな六腹心の姿からなにかしらの共通点や関連性は見いだせない。黒髪と紅い目、そして黒衣だけが共通しているのであり、それ以外は全員がばらばらだった。

 まるで混沌の中に放り込まれたような、そんな感覚さえ覚えるのは、そのせいかもしれない。

 考え方も意見も趣味も趣向も異なるのだろう六腹心の視線が、いま、セツナひとりに集まっている。

 彼らがなにを考え、なにを想い、なにを望み、ここにいるのか、セツナにはまったく想像もつかなかった。

 そもそも、どうしてセツナがここにいるのかがわからない。

「……ここが魔界だってことはわかった。でも、なんでまた、俺がここにいるんだ?」

 だれとはなしに問いかけると、だれかが嘆息したのがわかった。

「絶体絶命の窮地を助けてくださり、感謝致します、魔王陛下」

「はい?」

「それがいますぐに君の発するべき言葉だといっているんだよ」

 そういってきたのは、エッジオブサーストだった。おそらく、嘆息したのも彼女だ。セツナは問うた。

「……なんでそうなる?」

「なんでって、この状況を一から説明しないとわからないのか、君は」

 エッジオブサーストは、呆れてものもいえないといったような表情だったが、それこそ、セツナにはわからない。

 なぜならば、あの状況は、まだ絶体絶命の窮地などと呼べるようなものではなかったからだ。

 精神的に消耗していたとはいえ、肉体的にはまだまだ戦えたし、完全武装状態も解けていなかった。魔王の力を振り回すことも余裕でできていたのだ。

 確かに敵は多かったし、その敵を斃すことも傷つけることも禁じ手とした以上、困難な戦いであることに違いはなかったが、だからといって、負ける要素は皆無といってよかった。

 なにより、彼らを斃す必要がないのだ。

「いや、だって……あの状況が窮地なわけ……」

「強がるのもほどほどにしなよ」

「強がる? 俺が?」

 セツナは、エッジオブサーストに問い返したが、同時に胸の奥がちくりとするのを認めざるを得なかった。

「ぼくたちは、君の召喚武装なんだ。陛下と一緒に君の手足となり、君の鎧となり、君の武器となってる。そして、その力の源は、君の心だ」

 エッジオブサーストがまっすぐにセツナを見つめている。まるで鏡写しのような真っ赤な瞳。血のように紅く、炎のように赤い。そこから目を逸らすことなど許さないとでも言いたげに、少女はセツナを見据えている。

 すると、背後からなにものかに抱きしめられた。甘い香りと柔らかな感触は、抱きしめてきたのがメイルオブドーター以外のなにものでもないことを示している。まるで子供をあやすように、彼女の腕は優しく、セツナを包み込んでいく。

「そうよ、セツナ。あなたの心が傷つくたび、あなたの心が嘆くたび、あなたの心が血を流すたび、わたしたちもまた、はっきりと感じているのよ」

「おまえの痛みを」

「おまえの哀しみを」

「君の孤独を」

「おぬしの絶望を」

 腹心たちの声が胸に刺さるように響く。

「俺の絶望……」

 つぶやいて、確信する。

(そうか……俺は……)

 絶望していたのか、と。

 だから、ここに強制的に離脱させられたのだ、と。

 絶望したものは、戦う力を持たない。

 わかりきったことだった。

 すべてを失ったのも同じだ。

 セツナにとって、ファリアたちこそ、イルス・ヴァレで生きている理由といっても過言ではなかったのだ。それをすべて奪われ、敵となり、憎悪と殺意をもって立ちはだかってきたのだから、いつの間にか絶望していたとしてもなんらおかしくはなかった。

 見て見ぬ振りをしていただけだ。

 気づかないふりをしていただけなのだ。

 その場に崩れ落ちそうになるのをなんとか踏み止まるも、力が入らなかった。すべてを理解してしまった。

「故に、陛下は御決断なされた」

「決断……? なんの……」

「侵攻だよ」

 一瞬、エッジオブサーストがなにをいっているのか、見当もつかなかった。が、すぐに気づく。

「侵攻……だと」

 セツナは、信じられない気持ちで腹心たちの顔を見回した。もちろん、エッジオブサーストが冗談でそんなことをいうわけがないことくらい、百も承知だった。

「イルス・ヴァレへの侵攻」

「魔界の全戦力をもってイルス・ヴァレに攻め込むのだ」

「そして、この百万世界の調和を乱す存在を」

「聖皇ミエンディアを討ち滅ぼす」

 腹心たちは、口々にそういった。

 聖皇が神々の力を駆使し、神理の鏡の使い手となっている以上、相反する存在である魔属の首魁たる魔王が、その殲滅に動き出すのは当然といえば当然なのかもしれなかった。

「およそ五百年前、彼奴は大いなる力を得、聖皇を名乗った」

 六腹心とは異なる声が頭上から響き渡り、セツナは、思わず平伏しそうになった。それほどの威圧感と迫力を持った声であり、また、六腹心がそれぞれ傅いたのも関係があるだろう。

 いつの間にかメイルオブドーターもセツナを解放しており、彼女も傅いていた。

 六腹心が傅く相手など、唯一無二だ。

 百万世界の魔王。

「そのときは、捨て置けば良かった。なぜならば、我らが脅威にすらなり得ないほどか弱い存在だったからだ。その力は、たかがイルス・ヴァレ内部に留まり、百万世界全体を考えれば、矮小極まりないものだったのだ。故に我は彼奴に干渉しようとも想わなかった」

 見上げれば、魔王が浮かんでいた。

 完全武装・深化融合形態に似て非なる黒き鎧を纏うその姿は、百万世界に存在するすべての魔属が平伏すに相応しいだけの威厳と圧力、存在感を併せ持ち、現状ただの人間に過ぎないセツナも畏怖を覚えるほどだった。全身の肌という肌が粟立ち、毛穴という毛穴が開いているのではないかというほどの緊迫感に襲われている。

 かつて、地獄で対面したときとは比べものにならなかった。

「だが、今回ばかりはそうはいかぬ。彼奴は神理の鏡を手にし、その力を五百年前とは比べものにならないほどに高めている。このままでは、百万世界の調和が崩され、あらゆる世界が彼奴の望み通りに作り替えられるだろう」

 魔王が、ついにセツナの眼前に降り立った。セツナよりも上背があり、貫禄も威圧感も比較にならない存在である魔王は、血のように紅い瞳でセツナを見据えていた。それだけで心の奥底まで見透かされるような感覚に襲われるのだが、実際、その通りなのだろう。

「故に、我は彼奴を滅ぼすと決めた」

 魔王は、世界が沈黙するかのような静けさで宣言した。


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