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武装召喚師――黒き矛の異世界無双――(改題)  作者: 雷星
第三部 異世界無双

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第三千六百三十三話 魔王の如く


 では、どうすればいいのか。

 簡単なことだ。

 黒き矛を、カオスブリンガーをミエンディアにぶち込めばいい。

 シールドオブメサイアではなく、ミエンディアの体に、だ。

 そして、魔王の魔力を流し込み、今度こそ完全無欠に破壊する。徹底的に、跡形もなく、消し滅ぼす。

 そのための準備は、万端整っている。

 あとは、いつ実行に移すか、だ。

 セツナは、ミエンディアの目を睨み据えながら、黒き矛を投げつけた。当然のようにミエンディアはかわし、笑った。

「それで虚を突いたつもりですか?」

 余裕に満ちた聖皇の表情には、明らかな侮りがあった。

 歯噛みして、空の右手を振り上げる。“闇撫”を発動し、巨大な魔王の掌で聖皇に掴みかかる。聖皇は、笑っている。シールドオブメサイアが輝き、“闇撫”を受け止めた瞬間に光の巨手が出現した。あらゆる事象を反射する神理の鏡の力を存分に使いこなしている。その様がただただ不快だった。

 巨大な闇の掌と光の掌が激突し、凄まじい反発が空間を歪ませ、結界にも亀裂を走らせる。

 相反する力がぶつかり合っている間も、セツナは攻勢を緩めない。

 虚空を蹴りつけて破壊の波動を奔らせれば、尾の超高速回転によって竜巻を生み出し、さらに無数の羽を飛ばし、数多の分身を具現する。

 魔王の眷属たち、その力を限界まで引き出し、大攻勢を仕掛けたのだ。

 当然、ミエンディアは、シールドオブメサイアに頼る。

 ミエンディアがなぜか自身の力を使おうともしないのは理由も理屈もわからないが、そんなことはどうでもいいことだ。ミエンディアの目的と関係することに違いないし、その目的を果たさせるわけにはいかない以上、無視していい。

 いや、むしろ、だからこそ、勝機が見えている、というべきかもしれない。

 ミエンディアがなぜ、アズマリアの、量産型魔晶人形の躯体のまま戦わなかったのか。なぜ、器を破壊されかねないほどの隙を見せたのか。ファリアの秘策が成功したのか。

 理由はひとつ。

 五百年の長きときをかけ、アズマリアが選りすぐった聖皇の器にその魂を移すためだ。そして、その前にアズマリアの肉体に宿ったのは、その大前提として、聖皇の魂の欠片たるアズマリアとの統合を図る必要があったからだ。

 そうして、完全無欠の存在として復活した聖皇だが、魔晶人形の躯体では不都合があった。

 人体よりも遙かに強靭であり、どんな生物にも打ち勝つだろう頑健さ、堅牢さを誇る躯体だが、それだけでは聖皇の野望を成し遂げるには足りないと判断したのだろう。

 だから、ミエンディアは、アズマリアが用意した器のいずれかに乗り移ろうとした。

 最初に乗り移ろうとしたのは、セツナに、だ。

 セツナの肉体を我が物とし、最強の矛と魔王の力を得ることで、聖皇の力をより強大なものにしようとしたのだが、それはクオンによって阻まれた。

 クオンは、知っていたのだ。

 すべてを理解して、あの場にいた。

 クオンは、シールドオブメサイアの全力でもってセツナを護った。その結果、彼は無防備となり、ミエンディアの魂に乗り移られ、依り代と成り果て、変わり果てた。

 ミエンディアは、魔王の力を得ることこそ逃したが、無敵の盾と百万世界の神々の力を得た。元より、百万世界に名を馳せ、異世界の神々の力によって絶対者となっていた彼女は、神理の鏡の加護と祝福によって、超絶的な力を手に入れたと見ていい。

 故に、セツナはいままで有効打を与えられずにいた。

 そして、故にこそ、セツナに勝機が見えてもいるのだ。

 力に酔っている――。

 そう、セツナは、見ていた。

 神理の鏡ことシールドオブメサイアが持つ圧倒的な力に酔い痴れているのだ。

 だから、ミエンディアは、みずから手を下さない。シールドオブメサイアの力だけで、セツナと魔王の杖の力を完封し、圧倒し、封殺しようというのだろう。

 セツナは、ミエンディアの目論見通りに全力を発揮した。神理の鏡の力によって反射されることを理解した上で、すべての力を解き放ち、これまで培ってきた経験を、技を、手段を注ぎ込む。

 ランスオブデザイアも、マスクオブディスペアも、エッジオブサースト、ロッドオブエンヴィ-、メイルオブドーター、アックスオブアンビション――六眷属の全力を叩き込み、破壊に次ぐ破壊を引き起こしていく。

 神理の鏡は、セツナの猛攻のすべてをミエンディアにとって都合のいいように改変し、反射した。以前、クオンがそうして見せたようにだ。わかりきった迎撃。時空を震撼させるほどの猛攻の応酬の中で、ミエンディアが微笑む。まるで勝利を確信しているかのような反応。こちらが押されているのだ。当然だろう。

 しかも、セツナは消耗し続けている一方、ミエンディアには莫大なまでの余力があった。

 百万世界に通じる力を持つミエンディアには、無尽蔵の力があると考えていい。

 いや、と、セツナは胸中で頭を振った。

(それなら、俺にだって――!)

 セツナは、もはやなにが起こっているのかわからないほどの力の衝突の中で吼えた。肉体的精神的消耗を凌駕する加速度的な力の増幅。

 声が聞こえる。

 だれかが叫んでいる。

 だれかが祈り、だれかが願い、だれかが望み、だれかが求めている。

 この世界に生きているどこかのだれかが、この戦いの終結をセツナに託している。

(ああ、そうだ)

 感じる。

 それは、ゲートオブヴァーミリオンの力。

 アズマリアがミヴューラ神に託し、ミヴューラ神がセツナたちに託した大いなる力。

 救いを求める巨大なうねり。

 それがいままさにセツナに集約し、収束しているのだ。

 だから、だろう。

 セツナは、死角を見出した。

 ミエンディアの背後、真後ろの一点に完全なる隙を見つけた瞬間、彼は、翼を重ねた。エッジオブサーストの能力・座標置換の発動によって、セツナは、ミエンディアの背後に舞っていた羽の位置へと転移すると、ちょうど頭上に浮かんでいたカオスブリンガーを掴み取った。

 力が、爆発的に膨れ上がる。

 そして、その勢いに任せて振り下ろした矛の切っ先は、見事、ミエンディアの首の付け根に突き刺さり、そのまま胸を貫いた。聖皇が愕然と背後を振り返ろうとしたが、もう遅い。

「これで」

 終わりだ、と、セツナは告げた。

 その瞬間、カオスブリンガーから発散されたのは、セツナの肉体を通して出せる限りの魔王の魔力であり、六眷属の力であり、黒く禍々しくもまばゆいばかりの光となって膨張していった。

 あっという間に視界を昏く塗り潰し、時空を震撼させ、次元を軋ませていく。

 セツナは、自分自身の意識さえも消し飛んでしまうのではないかという感覚の中で、これまでにないどす黒いものを感じ取っていた。

 百万世界の魔王が絶望的な雄叫びを上げ、魔に属するものどもがそれに付き従って叫び声を上げているような、そんな感覚。

 莫大極まりない魔力が黒き矛と六眷属を通し、セツナの肉体を介してこの世界に現出し、ミエンディアの肉体を蹂躙し、魂を傷つけ、破壊し、消滅させていく。

 これで、終わるはずだ。

 そうであってくれ。

 セツナは、祈るように叫んだ。


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