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武装召喚師――黒き矛の異世界無双――(改題)  作者: 雷星
第三部 異世界無双

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第三千六百二十七話 降臨(七)

「ミエンディアは……?」

 ファリアは、自分の体の損傷具合よりも、ミエンディアの状態のほうを気に懸けていた。命を賭した秘策が成功したのかどうか、もしかしたら失敗してしまったのではないかと考えるのは、彼女の立場になって考えてみれば当然のことだ。

 しかし、セツナには、そんな彼女のことのほうが気がかりだった。身を守り、力を増幅するのだろうクリスタルドレスも大破し、体中から血を流し、骨も折れている。一刻も早く治療させるべきであり、そのためにセツナはトワを一瞥した。幼い女神は、瞬時にセツナの元へと到達すると、なにもいわずともファリアに手を翳す。以心伝心とはまさにこのことだ。

 そこで、ようやく、セツナは、ファリアの求める答えを口にした。

「破壊されたよ。完膚なきまでにな」

「そう……良かった……」

「まったく、無茶をするよ」

 ファリアがミエンディアの肉体を叩きつけ、すべての力を炸裂させた爆心地は、遙か地中まで抉れていて、半球形の巨大な穴が穿たれている。さらに無数の亀裂が四方八方に走っており、それはこのわずかばかりの大地に致命的な一撃を打ちつけた爪痕のようだった。

 そこにミエンディアの姿はない。

 亡骸もなければ、髪の毛一本残っていないのだ。

 すべて、ファリアとオーロラストームの力によって吹き飛ばされた。

「でも、ああでもしなきゃ、こんな結果にはならなかったかもな」

 ファリアがどうやってミエンディアの依り代たる量産型魔晶人形の頑強極まりない躯体を打ち砕いたのか。どうやって、それだけの力を得たのか。

 それについては、予想がついている。

「運命の矢……か」

「わかったんだ……?」

「当たり前だろう」

 少しばかり驚くファリアに、セツナは、当然のように言い返した。

 セツナが意識を取り戻したとき、ファリアの全身に突き刺さっていた黒き雷光の矢。それこそが、オーロラストームの秘儀であり、ファリアが滅多に使用することのない運命の矢だったのだ。

 運命の矢とは、その名の通り運命を司り、操る矢ではない。

 その矢が命を運ぶから、運命の矢なのだ。

 運命の矢は、刺さった対象の生命力を何倍にも引き上げ、増幅させるという。その力は絶大であり、全身を灼き尽くされ、炭化しかけていたのではないかと思うほどの大火傷を負い、死に瀕していたセツナをなんの後遺症もなく回復させるほどだ。

 それは、生命力の大幅な増強によって、自然治癒力が強化された結果だった。

 それだけならば、秘儀などといって隠し持つ必要はない。戦いには負傷は付きものだ。負傷の軽重に関わらず、運命の矢で回復させればいい――と、考えがちだが、運命の矢は容易く扱える代物ではなかった。

 なぜならば、生命力を増幅する引き替えとして、対象の寿命を削り取るからだ。

 つまり、運命の矢の効果とは、削り取った寿命の分だけ生命力を増幅するというのが正しいのだろう。

 セツナも、大火傷による死を免れるために寿命を削られたのだが、そのことでファリアに文句をいったことはなかったし、そんな筋合いもないと想っていた。ファリアのおかげで生きていられるのだ。感謝こそすれ、根に持つ道理はない。

 しかし、ファリアがなぜ、運命の矢であれだけの力を発揮できたのかといえば、やはり、生命力の増幅によるところが大きい。

 セツナは、その増幅された生命力を大火傷からの回復に用いた。

 ファリアは、運命の矢によってもたらされた生命力を戦うための力にした。

 しかも、だ。

 ファリアに刺さっていた運命の矢の数は尋常ではなかった。あれだけの数の運命の矢が、ファリアからどれだけの寿命を削り取り、どれほどまでに生命力を増幅させ、どれくらいの力に転換できたのか。

 セツナには想像もつかない。

 とてつもないはずだ。

 聖皇ミエンディアを打倒するためとはいえ、あの状況を打破するためとはいえ、その代償は余りにも大きすぎる。

 セツナは、トワの神威によって急速に回復していくファリアの体を抱きしめたまま、そのことを想った。彼女は、あと、どれくらい生きられるのだろうか。どれくらい、一緒にいられるのだろうか。ミエンディアのいなくなった爆心地を見遣るファリアの横顔からは、察することなどできなかった。

「セツナアアアアアアアアアアッ!」

 大音声とともに空から降ってきたのは、ミリュウたちだ。ミエンディアが吹き飛ばされ、破壊され尽くしたことをようやく理解したのだろう。

「ファリアはだいじょうぶなの!?」

「ええ、もう心配ないわ。トワちゃんのおかげでね」

 勢いよく突っ込んできたミリュウに向かって、ファリアは、大袈裟なくらい快活に笑って見せた。その反応がどこか強がっているように見えて、セツナは心苦しかった。運命の矢の詳細を知っているのは、セツナくらいのものではないか。

「さっすがわたしの妹だわ!」

「だれがおまえの妹なんだよ」

「トワ、妹?」

「そうよ! あたしのこと、お姉ちゃんって呼んでいいんだからね!」

「お姉ちゃん……」

 ミリュウの勢いに気圧され気味だったトワだが、そうつぶやいたとき、少しばかり嬉しそうに微笑んでいた。そんなトワをミリュウが全力で抱きしめる。トワによるファリアの治療は既に終わっていたため、なんの問題もなかったが、トワは目を丸くしていた。

「んっふっふっ、いい感じよ、トワちゃん」

「いい感じ……」

「いいんですか、ファリアさん」

 などとファリアの耳元で囁いたのは、ルウファだ。ファリアは、セツナの腕の中であり、セツナにも彼の声はまるまる聞こえていた。

「なにがよ」

「ミリュウさん、外堀から埋めるつもりですよ」

「あのね、ルウファ……」

「はっはーん……よく考えたもんだな」

 呆れるファリアに対し、どういうわけか聞き取っていたらしいシーラは感心したような声を上げた。

 そのときだ。

「皆、なんだかすべて終わったつもりでいるようだけど、まだだよ」

「ええ!?」

「いや、それはわかってたことだろ」

 セツナは多少呆れながらいうと、頭上を仰いだ。

 獅子神皇を器としたのは、聖皇の力だった。それは魂とも呼べるものであり、聖皇の魂は、アズマリアとの統合によって完全無欠のものとなった。アズマリアが依り代とし、ミエンディアの新たな器となった魔晶人形の躯体は完璧に破壊され尽くしたが、器に宿っていた力、聖皇の魂は、どうか。

 光が、空と大地の狭間を漂っていた。

 莫大な神威の塊であり、絶大な意思の奔流であるそれは、セツナたちの上空を漂いながら、なにかを考えているようにも見えた。

 それはなにか。

「つぎの器をだれにするか、考え込んでいるようじゃな」

「だろうね」

 ラグナの言をクオンが肯定したときだった。

 聖皇の魂は、光の奔流となって降ってくると、セツナに向かって殺到してきた。セツナは、腕の中のファリアをミリュウに預け、瞬時に飛んだ。その場にいればファリアたちを巻き込む可能性があったからだし、全力を発揮できないと考えたからだ。

 聖皇を斃すには、その魂を根本的に破壊する必要がある。ただ破壊するだけでは、駄目だ。魂のひとかけらからアズマリアが誕生したのだ。魂を完全に消滅させない限り、また、アズマリアのようなものが誕生する可能性がある。

 それも、アズマリアのように聖皇の力を滅ぼすためではなく、聖皇の意思を叶えようとするものとして顕現するかもしれないのだ。

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