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武装召喚師――黒き矛の異世界無双――(改題)  作者: 雷星
第三部 異世界無双

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第三千六百二十五話 降臨(五)


「何度やっても同じことだ」

 声が、頭の中に反響する。

 耳朶から飛び込み、鼓膜を突き抜け、頭蓋骨の内側で幾重にも乱反射し、脳髄にその言葉の意味を刻みつけるかのように響き続ける。頭痛がする。吐き気もだ。目眩さえしているようであり、最低最悪の状態だということだけは理解できた。

 なぜ、自分がそのような状態なのかはわからないし、皆目見当もつかないのだが、心身ともに劣悪極まりないことだけははっきりと認識できる。

 そして、声だ。

「無駄、無意味、無明」

 頭上から降ってくる声は、聞き覚えのある声だったが、少しばかり違和感を覚えた。なにかが違う。いや、なにもかもが違うはずなのに、聞き覚えがある、といったほうが正しいのかもしれない。聞くものの心にまで浸透し、それだけで魅了しかねないほどの魅力と魔力を備えた魔人の声。だが、響き渡り、脳内に刻まれるのは、アズマリアのそれとは大きく異なるものだ。

 そして、その違和感たっぷりの声音にも聞き覚えがあった。

 かつて、幻視した過去に聞いた聖皇の声。

 聖皇ミエンディア・レイグナス=ワーグラーンの、声。

 なぜ、聖皇の声が頭上から降ってくるのか。

「せっかく拾った命を意味もなく捨てる行為だとなぜ気づかない。なぜわからない。なぜ理解しようとしない。おまえたちがいまもなお生き続けられていることが、わたしの慈悲だということがわからないのか?」

 そのときになった、セツナは、ようやく地面に張り付いていた顔面を引き剥がすようにして上体を起こすことができた。

 アズマリアに似て非なる聖皇の声がなにをいっているのかさっぱりと理解できないものの、物凄まじい熱量が周囲に渦巻き、爆音と衝撃波の嵐が巻き起こっていることだけははっきりとわかる。力と力の衝突、その余波だけで吹き飛ばされるのではないかと想うほどだが、幸い、セツナは無事だった。

 護られているからだ。

 隣にクオンがいて、彼がシールドオブメサイアを展開していた。ただし、彼もなにが起こっているのかわかっていないのか、判然としない表情をしている。

 頭上には、莫大な光を放つものがいて、それはさながら小さな太陽のようだった。直視すると目が灼かれそうになるくらいに眩しく、鮮烈極まりない光を放ち続けている。それは神威だ。膨大極まる神威が発散され続けており、それが獅子神皇に感じた神威と同質のものであることに疑いようがなかった。

 つまり、聖皇の力だ。

 なにが起こったのか。

 なにが起こっているのか。

 クオンに問いかけるまでもなかった。

 セツナは、瞬時に理解した。

 吹き荒れる力は、突入組の面々による攻撃の数々によるものであり、ミリュウの擬似魔法やラグナの竜語魔法、シーラやエスクの猛攻に、ウルクの波光砲などなどが小さな太陽に向かって放たれていたのだ。そして、それら攻撃は、小さな太陽には届かず、その進路上の空間に生まれた穴に吸い込まれたかと思うと、攻撃した本人の目の前に穴が出現し、攻撃をそのまま返すという方法で反撃されていた。

 まるでゲートオブヴァーミリオンのようだ、と、思ったのも束の間、セツナは、絶句した。

 空中でクリスタルビットを足場にしていたファリアを発見したのだが、彼女の全身に無数の矢が突き刺さっていたのだ。だが、ファリアの全身至る所に突き立っている黒い雷光の矢は、間違いなく、オーロラストームが放ったものであり、ファリアが打ち返されてきた矢をかわせなかったことが原因だった。

「なっ――」

 セツナは、すぐさま立ち上がり、駆け寄ろうと想った。

 しかし、それはできなかった。

 まるで金縛りに遭ったように身動きが取れず、そうしている間にもファリアの体中を電光が駆け巡っていた。無数の結晶体を鎧のように身に纏うファリアだったが、顔面を含め、体中あらゆる箇所に刺さる無数の矢からの放電を受け、身を捩らせた。

「うう……ああああっ!」

 苦悶の声が響き渡った瞬間だった。

 ファリアの体に突き刺さっていたすべての矢が飛散し、傷口という傷口から血が噴き出した。しかも、噴き出した血は瞬時に燃焼すると、ファリアの姿がセツナの視界から消えた。複雑な軌道を描く電光だけが手がかりとなるくらいの速度。

 神速を超えた超神速さえも凌駕していた。

 魔王の力を以てして、ようやく追いかけられるくらいの速度で上空に飛び上がったファリアは、目にも止まらぬ速さで空中を駆け抜けながらオーロラストームを乱射した。無数の雷光がファリアに遅れるようにして、小さな太陽に殺到する。しかし、それら雷光の矢は当然のように空間の穴に吸い込まれ、ファリアに襲いかかったが、穴が出現したときにはファリアはその場にはいない。

 この場にいるだれよりも疾いのではないかと想うほどの速度で、ファリアは、小さな太陽に肉薄した。そのときになって、ようやく、セツナは、小さな太陽の正体を把握した。アズマリアだ。ただし、雰囲気が異なっている。同じなのは姿形だけであり、そこにアズマリアがいるのかさえ不明だった。

 そういうことか、と、セツナは、納得した。

 アズマリアが聖皇の力の器になったのだ、と。

 そして、それこそが彼女の狙いであり、魔人の宿願だったのだ、と。

 アズマリアは、聖皇ミエンディアの魂の一部だ。遙か未来、復活するだろう聖皇を滅ぼすためにこぼれ落ちた聖皇の善性。いや、あれを善性と呼ぶのはいささか間違っている気がしないでもないが、しかし、世界の破滅を望む聖皇に比べれば、善に寄っているといっていいだろう。

 そんな魔人の宿願が、いまにも果たされようとしているというわけだ。

 すべてに納得がいく。

(ファリア……)

 しかし、疑問なのは、ファリアのことだ。

 ファリアがどうやってあれほどの速度を出し、あれほどの力を発揮しているのか、それが問題だった。

 ファリアは確かに最終試練を終えた。召喚武装オーロラストームと心を通わせ合い、心底信頼し合えている。オーロラストームの力を完全に引き出すことができるようになり、クリスタルドレスがその証だ。だが、だとしても、これほどまでの力を持っているとは、とてもではないが、考えられないことだった。

 魔王に匹敵する――というのは言い過ぎにしても、食い下がれるくらいの力があった。

 それは、なにかを代償にしなければならないほどの――。

「何度やっても同じこと。無駄なことだ」

 それは、いった。

 まず間違いなく、アズマリアではなく、聖皇なのだろう。

 聖皇ミエンディア・レイグナス=ワーグラーン。

 獅子神皇のときとは異なるのは、その依り代にアズマリアが宿っていたという点だ。欠けていた聖皇の魂が完全に補完され、まさに完全復活を遂げたといっていいだろう。

 だが、しかし。

 まだ、いまの聖皇には付け入る隙がある。

 セツナには、わかっていた。

 聖皇が未だ力を制御し切れていないことにだ。

(いや、違う)

 虚空に刻まれる雷光の無限の軌跡を見遣りながら、その中心に浮かぶ小さな太陽のこと考える。

 およそ五百年前、自身から分かたれた魂の欠片であるアズマリアの魂との統合が終わっていないのだ。

 だから、聖皇は動かない。動けない。ろくに力も使えない。

 ゲートオブヴァーミリオンの力に頼るしかないのだ。

 だからこそ、付け入る隙がある。


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