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第三千六百二十二話 降臨(二)

 聖皇の力を手に入れたアズマリアを斃す方法は、至って単純だった。

 アズマリアという器を破壊することで、聖皇の力が獅子神皇から抜け出したときと同じ状況を作るのだ。

 そこを討つ。

 無論、聖皇の力を破壊するには、ファリアたちの力だけで駄目だ。ただでさえ消耗しきっているのだ。アズマリアを破壊することさえ簡単なことではあるまい。

 セツナの力がいる。

 セツナと黒き矛カオスブリンガーの力があれば、聖皇の力は破壊できるに違いないのだ。

 アズマリアが、そういっていた。

 聖皇の一部であり、聖皇の完全復活を目論んでいたアズマリアの発言を信じるのは、どうかと想わないではないのだが、いま、ファリアたちにとって唯一の希望がそれなのだ。信じられるかどうかではない。信じるしかなかった。

 そしてそのためには、セツナがアズマリアとの契約から脱却できなければならないのだが、こればかりは、セツナを信じるしかない。セツナと魔王の力を信じ、彼がアズマリアの契約さえも破壊し、みずからの意思でもって立ち上がってくれるのを待つしかないのだ。

 いま、セツナもクオンも地面に顔を埋めたまま、沈黙している。気を失っているのだろう。なぜ、セツナたちが突如として意識を失ったのかは、わからない。アズマリアが聖皇の力と一体になったことで、あのふたりになんらかの影響が及んだのは間違いないが、それがなんなのかわからない以上、無闇に期待を持つのは大きな間違いだ。

 目を覚ませば、アズマリアの命令通りに動くかもしれないのだ。

 だからこそ、アズマリアの肉体の破壊に賭けるしかない。

 アズマリアの肉体を破壊することで、契約の強制力を弱めることができるかもしれないのだ。

 数多の皇神たちは、聖皇との契約によって、イルス・ヴァレに留まり続けていた。そのために聖皇の復活を目論見、五百年の長きに渡り、秘密裏に儀式を進めていたのだ。が、その儀式の末に誕生した獅子神皇は、すべての神々を従えたわけではなかった。

 聖皇の力の器であり、聖皇が交わした神々との契約をも引き継いだはずの獅子神皇が、なぜ、二大神を始め、複数の神々を完全に支配することができなかったのか。

 その理屈は、獅子神皇の支配を脱却した神々の言によって、多少なりとも判明している。

 聖皇復活の儀式が失敗に終わり、“大破壊”が起こった瞬間、エベル神やナリア神といった複数の神々は、大きな力の揺らぎを感じたのだという。その揺らぎに乗ずることで契約による支配を脱却することができたのだと。

 また、例外もある。

 救世神ミヴューラだ。

 聖皇によって召喚された皇神の一柱であったはずのミヴューラ神は、聖皇のやり方に反発し、結果、封印される羽目になった。聖皇ならば、契約によって従わせることができたはずであり、また、送還することだって可能だったはずなのに、なぜ、ミヴューラ神を封印するという処置を取らざるを得なかったのか。

 それもまた、力の揺らぎに乗じたものではないか。

 いまとなっては確かめる術はないが、そこに突破口があるのではないかと想いたくなるのは当然だった。

 だから、ファリアたちは、アズマリアへの攻撃を開始したのだ。

 一斉攻撃だ。

 遙か上空で、まるで小さな太陽のように莫大な光と神威を発散し続けているだけのアズマリア目掛けて攻撃を仕掛けることそのものは、なにひとつ難しくなかった。

 ファリアは、クリスタルドレスの能力を最大限に発揮し、オーロラストームから最大威力の雷撃を連射した。虚空を貫く無数の雷は、さながら天に昇る龍のように咆哮を発しながら、アズマリアの元へと収束していく。

 空中にばら撒かれた緋色の光が、弾幕となってアズマリアに殺到するのもほとんど同時だった。ミリュウの擬似魔法だ。もはや擬似でもなんでもないと想わざるを得ない光景であり、圧倒的だった。

 そこへ、ラグナの竜語魔法が重なり、翡翠色の光の波が四方八方から押し寄せ、アズマリアを飲み込んでいく。

 ウルクが撃ち放った特大の波光砲も、ルウファとエリルアルムの羽と風の響宴による暴圧の嵐も、エスクの虚空砲とソードケインによる連撃も、シーラの九つの尾による乱撃も、エリナが生み出した大樹の枝葉も、レムと“死神”たちも、マユリ神の神威による砲撃も、大きな時間差もなく撃ち込まれていた。

 閃光と轟音が天地を掻き混ぜ、大気を鳴動させる中、小さな、ひどく小さな声が響いた。

「無駄だ」

 アズマリアのそれとは微妙に異なる、しかし、よく似ている声音だった。聞いたものを瞬時に魅了しかねないほどの魔力に満ちた声。いや、神威というべきか。神々の王に相応しい力がそこにあった。心が震える。魂が怯えている。その場に平伏し、命乞いをしたくなるような、そんな畏れを感じていた。

「わたしは聖皇。聖皇ミエンディア・レイグナス=ワーグラーン」

 そのとき、ファリアたちの一斉攻撃は、忽然として消え失せた。当然、まったくの無傷のアズマリアの姿が、ファリアたちの視界に現れている。

 しかし、先程よりもより強力で神々しい光を放つそれは、もはや、アズマリアというよりはミエンディアと呼ぶほうが正しいのかもしれない。

「なに? なにが起きたの?」

 ミリュウが疑問を口にした直後だった。

 ファリアの眼前の虚空が揺らぐと、口が開くようにして空間に穴が開いた。その穴は、瞬く間もなく巨大化すると、穴の向こう側からなにかまばゆい光が飛び出してくるのを認めた。そのときには、ファリアは、全速力で空中に飛び離れている。電熱による激痛が左足に走った。

 痛みは、穴から飛び出してきたものを避けきれず、皮膚を抉られ、灼かれたからだ。

 つぎつぎと轟く爆音は、ファリアの放った最大威力の雷撃の数々が地面に激突し、連鎖的に爆発したことによるものだった。

 そう、穴から飛び出してきたのは、ファリアがミエンディアに撃ち放った雷撃であり、それがそのまま自分に向かって襲いかかってきたのだ。

 見れば、ミリュウも自分自身が放った擬似魔法に襲われていたし、ラグナは竜語魔法の翡翠の光に飲まれていた。ウルクは波光砲を叩きつけられ、ルウファとエリルアルムは嵐に見舞われている。レムは“死神”を自分で切り伏せなければならなくなり、エスクは光刃と虚空砲をかわし――全員が全員、自分の繰り出した攻撃に襲われるという羽目になったのだ。

 左足を軽く負傷する程度で済んだのは、僥倖だったとしかいえなかった。

 避けるのが一瞬でも遅れていれば、全身を灼き尽くされ、死んでいたことだろう。

 ファリアは、背筋が凍るような感覚に襲われながら、ミエンディアを睨んだ。

「どういうこった!?」

 シーラが自分自身の尾に雁字搦めにされながら叫ぶ。

「ゲートオブヴァーミリオンでしょう」

「うん?」

「ゲートオブヴァーミリオンは、空間をねじ曲げることなんてお手の物だったわ。自分を攻撃してきた相手に返し矢を返すことくらい、造作もないってこと」

 先程のあれは、返し矢というには高性能にもほどがあるが、ほかに形容しようもない。

「なるほど……?」

「じゃあ、どうするのよ!?」

「どうもこうもないわよ」

「はい!?」

「やるだけってこと!」

 ファリアは、叫び、再びオーロラストームの雷撃を放った。





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