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武装召喚師――黒き矛の異世界無双――(改題)  作者: 雷星
第三部 異世界無双

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第三千六百二十話 契約

「何度もいったはずだ」

 アズマリアの声が頭上から降ってくる。男も女も老いも若きも魅了する甘く美しい響き。魔力に満ちた魔人の声は、まさに凶悪といっていい。そして、その勝利の確信に満ちた断言は、ファリアたちが直面した最悪の事態を端的に示していた。

「セツナとクオンはわたしのものだ、とな」

 魔人の発言に反応するようにして、セツナとクオンが動いた。ファリアたちとアズマリアの間に立ちはだかる様は、絶対的な障壁とでもいうべきだろうか。絶対無敵の盾シールドオブメサイアと、最強無比の矛カオスブリンガー、その使い手たちが敵に回ったのだ。

 しかも、セツナとクオンの言動からは、自分たちがアズマリアの味方につき、ファリアたちの敵に回ったという意識がなさそうなのだ。

「なんですってえええええええ!?」

 ミリュウが天地をひっくり返しかねないほどの大声を上げる横で、ファリアは、セツナの目を見ていた。彼は、当惑しているような表情をしている。ファリアたちがアズマリアを攻撃しようとしていることが信じられないとでもいいたげな表情、言動、態度。

「どういう……ことよ」

 やっとの思いで紡いだ言葉は、声が掠れていて、魔人に届いたのかどうかさえわからなかった。

 確かに、アズマリアがそのような発言をした記憶はある。

 セツナは自分のものだと所有権を主張してきたのだが、そのときは、まさかこのような羽目になるなどとは想像もしていなかった。

「なるほど……そういうことか。最初からここまで考え、仕組んでいたのだとすれば、とてつもなく計画的でずるがしこく、抜け目のない奴というほかないな」

 そう魔人を評したのは、マユリ神だった。

「なにがなるほどなのよ、マユリん! セツナはあたしのものよ!?」

「どさくさに紛れてなにいってんだ!?」

「いまはそんな言い争いをしている場合じゃないですよ」

「わかってるけどよぉ!」

 などと仕方なく引き下がるシーラを尻目に、ファリアは、マユリ神に目を向け、説明を促そうとした。希望を司る女神は、その属性とは裏腹に、絶望的な表情でセツナとクオンを見遣っている。その反応を見ただけで不安を感じ、不穏な未来を想像させられた。

 常に希望を忘れず、未来に光を見ていたはずのマユリ神の表情とは思えなかったからだ。

「どういうことですか?」

「セツナとクオンがなにものなのか、おまえたちもよく知っているだろう」

「なにものなのか……?」

「セツナは最高の男でしょ? えーと、クオンは……よくわかんないな」

「そういうことではない」

「えー」

「ミリュウ様、しばらくお静かにしていてくださいまし」

「それがよいのう」

「師匠……」

「むー」

 ついにはエリナにまで視線を投げかけられ、ミリュウも黙り込まざるを得なくなる。

 そんなやり取りを他所に考え、導き出した答えは、至極単純なものだった。セツナといえば、だ。

「……異世界存在」

「そうだ。セツナとクオンは、異世界の人間だ。おまえたちが手にしている召喚武装や、わたしと同じく、イルス・ヴァレとは異なる世界に生まれ育ち、特別な方法によってこの世界に召喚された存在なのだ。そして、ふたりを召喚したのが、あの魔人だ」

 マユリ神がアズマリアを睨む。

「そうだけど」

「それが、どうかしたのか? マユリ様」

 クオンとセツナは、マユリ神の説明を肯定しつつ、訝しむ。彼らには、この状況がまったく理解できていない様子だった。

 その間にもアズマリアの上昇は止まらないし、だからといってファリアたちが攻撃をしたところで、阻止できないのが実情だった。どれだけ強力な攻撃を叩き込もうとも、カオスブリンガーに吹き飛ばされるか、シールドオブメサイアに防がれるのだ。

 だれよりも頼もしく、頼りがいのあったふたりが敵に回ったのだ。これがどれほど絶望的なのか、考えるまでもない。

 こちらの攻撃は、もはや、アズマリアに届く余地がなかった。

 それでも、ファリアたちが攻撃の手を止めるわけにはいかないのだ。

 たとえ攻撃が届かなくとも、吹き飛ばされ、跳ね返され、無力化され、無意味になったとしても、力尽きるまで攻撃し続けるしかない。

 ラグナが吼え、ミリュウが擬似魔法を放ち、エスクがソードケインを振り回し、シーラが九つの尾でつぎつぎと攻撃を仕掛ける。ウルクの波光砲が轟けば、エリナの力がファリアたちを包み込み、レムが“死神”たちとともに飛びかかった。エリルアルムとルウファが協力して猛攻を繰り出し、マユリ神も攻撃に参加する。

 ファリアだって、止まらない。

 クリスタルドレスを身に纏い、最高最大威力の雷撃を撃ち続けている。

 それら攻撃の数数がアズマリアに触れることさえなく、セツナとクオンの前に消し飛ばされていく様は、無常感さえあった。

「召喚は、契約を伴う。いや……厳密には違うな。契約を結んだものだけしか、召喚できない。そして、契約は絶対だ。召喚者も被召喚者も、契約を無視することはできない」

 それは、武装召喚術の原理原則であり、武装召喚術の元となった召喚魔法の原理原則でもある。

 異世界の存在を強制的に召喚する方法は、この世界には存在しないのだ。

 故に、聖皇に召喚された神々は、次元を超える力を持ちながら、イルス・ヴァレに縛り付けられている。大いなる神の力を以てしても、召喚者と交わした契約を破ることができないからだ。だからこそ、神々は、聖皇の復活を望み、行動を起こした。

 聖皇が復活さえすれば、本来在るべき世界に送還してもらえる、と、そう信じていたからだし、おそらく、聖皇はそうしただろう。それが、契約というものだ。契約が絶対的である以上、聖皇もまた、契約に従わざるを得ない。

 契約を無視することは、なにものにもできないのだ。

 そう、魔王の杖の護持者であっても、同じなのだ。

「だから、セツナもクオンもアズマリアの味方をしている……」

 それならば、納得もいくというものだ。

 セツナは、アズマリアを信用してはいたが、魔人が聖皇の力を完全なものにしようとすれば、瞬時にその行動を邪魔したはずだ。セツナの性格上、それ以外考えられない。だからこそ、セツナがアズマリアの見方をしている現状が異様だったのだし、衝撃的であり、混乱を極めたのだ。

 しかし、契約に従っているというのであれば、話は別だ。

 セツナがアズマリアとの間にどのような契約を交わしたのかは、知らない。召喚の経緯については何度も聞いたものだが、セツナ自身、そういったことは覚えていない様子だった。

 同時に、絶望感がより深くなるのも当然だった。

 セツナが敵に回った理由が、ファリアたちにはどうしようもないものだったからだ。

 契約は、なにものにも破ることができないし、契約内容を書き換えることもできない。

 契約は、強制的なものではないのだ。

 契約内容が気に入らなければ、召喚に応じなければ良い。召喚に応じたということは、契約内容を認めたということであり、契約に従うということなのだ。

  そして、セツナはいま、アズマリアとの契約に従っているだけに過ぎない。

 おそらく、アズマリアの命令には絶対に逆らわないという契約に、だ。

 そんな単純極まりない契約だからこそ、恐ろしいのだ。

 





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