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武装召喚師――黒き矛の異世界無双――(改題)  作者: 雷星
第三部 異世界無双

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第三千六百十三話 英雄

「君さえいなければ」

 斬撃とともに全周囲から殺到してきた無数の殺意に、セツナは、はっとした。いつの間にか、前後左右、あらゆる方向、あらゆる角度から数多の光線が向かってきていたのだ。咄嗟の判断で上体を捻ると、迫り来る白き矛を蹴り上げるのと同時にアックスオブアンビションの能力を発動することで、光線に対処する。

 白き矛との接点を起点とする自壊の連鎖は、瞬く間に全周囲に拡散し、飛来する光線の尽くを破壊し、粉砕していった。

 だが、それでレオンガンドの攻撃が止むわけもない。

「君さえ生まれてこなければ」

 レオンガンドがそういったとき、セツナは、妙な違和感を覚えた。まるですべてが止まったように見えたのだが、自壊の連鎖が止まり、光線が崩壊していく光景すらも静止している様を見れば、それが錯覚でもなんでもない事実だということに気づく。すぐさま翼を擦り合わせ、時間静止能力を発動した。

 時間静止能力には、時間静止能力で干渉できる。

 そう、つまり、レオンガンドが時間を静止して見せたのだ。

 レオンガンドの白き矛が、エッジオブサーストを取り込んだカオスブリンガーを再現していることが明らかになったわけだ。

 それだけではないかもしれない。

 すべての眷属を取り込んだ完全体のカオスブリンガーを再現していたとしても不思議ではなかったし、すべての能力を眷属の召喚なしで発動してきたとしても、なにもおかしくなかった。なにせ、白き矛はカオスブリンガーではなく、レオンガンドは武装召喚師ではないのだ。セツナのように能力を行使するために眷属を召喚する必要はない。

 獅子神皇ほどの力をもってすれば、魔王の力を再現することなど造作もないだろう。

 質に大なり小なりの差はあるだろうが。

「わたしは、わたしのままでいられたはずだ。そうだろう!」

 静止した時間の中で、レオンガンドは、矛を振り抜いた。セツナの足を脚具ごと切り裂き、神威の渦の中で肉片を消し去っていく。

「……そうでしょうね」

 否定はしなかった。

 する必要がない。

 それもまた、ひとつの事実であり、真実といってもよかった。

 セツナが生まれてこなければ、セツナがレオンガンドと出逢い、彼によって見出され、彼の夢を突き動かすこともなかったのだ。彼の小さな夢を大きな希望で紡ぎ上げ、躍進と隆盛を極めんとすることもなかった。弱小国ガンディアの若き王のまま終わったのか、それとも、ある程度の結果を残したのかはわからないが、いずれにせよ、夢半ば、無念の中で息絶えるようなことはなかったかもしれない。

 少なくとも、最終戦争の結果引き起こされた“大破壊”の中で死ぬ、などという最悪の結末は回避できたに違いない。そして、その結末が獅子神皇という夢の亡霊を生み出し、世界を破壊と混沌の渦に飲み込むこともなかったのだ。

 だから、こうなったのは、獅子神皇に成り果てたのは、セツナのせいだ。

 そう、レオンガンドは、いっている。

 そしてそれがレオンガンドの本心などではないことくらい、わからないセツナではなかった。

 責任を押しつけるような物言いは、レオンガンドが我を忘れ、自暴自棄になったからでも、追い詰められ、責任から逃れようとしているからでもない。

 レオンガンドは、討たれようとしているのだ。

 セツナの手で、獅子神皇として討ち滅ぼされたがっている。

 けれど、セツナがレオンガンドを見てしまった。獅子神皇ではなく、レオンガンドとして、対応してしまった。そのことが、レオンガンドにも伝わったのだろう。短い間ではあったが、苦楽を供にし、君臣でありながら友人のような気安さすらあった間柄だ。互いによく見ていた。お互いの心情が手に取るようにわかるくらいに。

 だから、レオンガンドは、敵になろうとした。

 討たれるべき、斃されるべき、憎むべき敵になろうとしたのだ。

 そして、セツナがレオンガンドを斃したことに後悔や哀しみを覚えたり、引き摺ることのないようにしようとしたのではないか。

 でなければ、説明がつかない。

 獅子神皇の支配を脱却し、むしろ獅子神皇を支配したのがレオンガンドなのだ。理性的かつ冷静な判断を下せる状態でありながら、これまでの事情を一切無視した発言をして、すべての責任をセツナに押しつけるようなことをするはずがなかった。

「ああ、そうだとも……!」

 レオンガンドが、白き矛の切っ先をこちらに向けたときには、セツナの足の傷も元通りになっていたし、時間静止も解除されていた。矛先が白く燃え上がり、また、光輪と光の翼が瞬いた刹那、セツナは、エッジオブサーストの能力・座標置換を発動する。

 無数の光線と光弾、“破壊光線”が虚空を貫き、凄まじい規模の破壊を引き起こす光景を見て、目を細める。

 獅子神皇の莫大な神威は、レオンガンドにその主導権が移ったからといって、なんら遜色なかった。統合によって力が増したときのままだ。いや、レオンガンドや神将たちによる反発がないのだから、あのときよりも大幅に強くなっている可能性がある。

 つまり、いまのレオンガンドこそ、真の獅子神皇というべきなのかもしれない。

「俺のせいだ」

 セツナは、レオンガンドが破壊の嵐の中で佇む様を見遣りながら、つぶやいた。白き矛を手にするレオンガンドの姿は、獅子神皇よりも遙かに神々しく、まばゆく輝いて見える。だが、そこには、目に眩むばかりの輝かしい未来はなかった。

 レオンガンドの先に待ち受けるのは、暗澹たる破滅的な未来だけだ。

 レオンガンドが主導権を握ろうが、獅子神皇であり、聖皇の力の継承者であることに違いはない。その道程が書き換えられることもなければ、血塗られた屍の山の上に立っていることにも変わりはなかった。レオンガンドによって、大量の命が奪われ、数多くのひとびとの未来が失われた事実は覆しようがないのだ。

 そして、レオンガンドが獅子神皇として存在し続ける限り、絶望の暗夜は続く。

 聖皇がイルス・ヴァレの破滅を望んでいた以上、どうしようもないことなのだ。

 もし、聖皇の力に聖皇の意思が宿っていなければ、違っていたかもしれない。レオンガンドが、その力を善い方向に用いることだってできたかもしれない。イルス・ヴァレに救済をもたらすことだってできたのではないか。

 だが、現実は、そう甘くはなかった。

 レオンガンドは、聖皇の力の継承者であり、意思を受け継ぐものでもあった。

 だから、この世界に惨憺たる破壊の嵐を巻き起こし、絶望と恐怖を撒き散らし続けてきたのだ。

「ここまであなたを追い詰めてしまったのは、俺のせいなんだ」

 自戒の念を込めて、告げる。

「だから、俺が決着をつけなくちゃいけない」

 レオンガンドだけが責任を負う必要はないのだ、と、セツナは、想う。

 もっと早く、もっとずっと前に斃せていれば、滅ぼすことが出来ていれば、レオンガンドもこのような状況に立ち合わずに済んだはずだ。

 斃すべき敵であるレオンガンドに余計な気遣いをさせていることが大きな誤りだ。失態といっていい。

 故にセツナは、改めて覚悟を決めた。

 いや、違う。

 決めていた覚悟に全霊を込めた。

「俺が、俺だけが、あなたを斃せる。あなたを討ち滅ぼし、この戦いを終わらせられる」

「随分と自惚れているな」

「俺は、あなたの英雄ですから」

 セツナは、レオンガンドの目を見て、いった。

「ふっ……」

 レオンガンドは、笑った。透き通るような、そんな笑顔だった。

「いいだろう、セツナ。来るがいい! これが最終最後の戦いだ!」

  

 






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