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第三千六百十一話 絶対的なるもの

 速度は、神速。

 音速も高速も超越した速度は、静止した世界に巨大な風穴を開けるようであり、開いていた距離が詰まるまで瞬きする時間すらなかった。

 速度を乗せて振り下ろされた剣を“闇撫”で受け止めると、魔王の掌がずたずたに切り裂かれたが、その瞬間には、セツナはレオンガンドに矛を突きつけている。しかし、矛先に現れた盾がこちらの攻撃を防ぎ、神威と魔力が爆発を起こした。

 余波が激痛となって体を突き抜けていく。

「こんなものではないだろう? セツナ」

 レオンガンドが、“闇撫”を光の中に消し去ってみせると、返す刀でセツナの左腕を真っ二つに切り裂いた。凄まじい痛みが腕を貫いてくるが、歯噛みして堪える。死なない限り、致命傷だろうと問題にはならないのだ。耐え抜けばどうとでもなる。

 実際、切り裂かれた腕は元通りになっている。それと同時に“闇撫”を再度発動し、レオンガンドの全身を包み込んだ。

 すると、巨大な闇の手が閃光とともに切り刻まれ、魔力を消し飛ばすようにしてレオンガンドが出現する。“闇撫”では、拘束するどころか、わずかばかりの足止めにさえならない。

 ならば、と、セツナは時間静止を解除すると、エッジオブサーストの羽を周囲に撒き散らした。そのうちのいくつかがレオンガンドに向かっていったが、神の盾に防がれ、当たらなかった。そして、それら盾を押し退けるようにして、レオンガンドが踏み込んでくる。

「小細工など!」

 レオンガンドが吼えながら剣を振りかぶる。刀身に満ちた神威が巨大な光の刃となり、空間そのものを切り裂きながらセツナに迫ってきた。

 セツナは、カオスブリンガーを振り翳して神の剣を受け止めると、神威と魔力の衝突による爆発を“闇撫”でもって抑え込み、右足で虚空を蹴った。アックスオブアンビションの能力により、虚空を破壊する。崩壊の連鎖が虚空を駆け抜け、レオンガンドに達すると、さすがのレオンガンドも瞬時に飛び退き、距離を取った。

 レオンガンドが飛び退いた先には、黒き羽が漂っている。

 エッジオブサーストの羽だ。

 セツナは、瞬時にエッジオブサーストの能力・座標置換によって、羽と自分自身の位置を入れ替えると、レオンガンドの背後を取った。柄を両手で握り締め、全力で斬りかかる。

「その程度、見え透いている!」

 レオンガンドは、こちらを振り向くこともなく、無数の盾を背後に展開し、セツナの一撃を受け止めて見せた。

(神の目か。だが!)

 セツナは、神の盾の集合体に受け止められたままの矛にさらなる力を込め、押し切ろうとした。すると、無数の熱源が背後から迫ってくるのを感じ取り、それがレオンガンドの光輪から放たれた誘導光線であることを悟った。

 そこで、“闇撫”を後方に投げるように展開し、先程抑え込み、そのままだった神威と魔力の爆発を解き放つ。

 凄まじい力と力の衝突によって生じた爆発は、殺到中だった無数の光線を尽く吹き飛ばし、セツナの背をも押した。

 爆圧に押される力をも利用して、神の盾を押し切り、打ち砕く。

 しかし、そのときには、レオンガンドもこちらに向き直っており、神の剣が莫大な光を発しながらセツナに向かってきていた。

 黒き矛と光の剣が激突し、またしても爆発が起こる。

 その時空を震撼させる爆発の中で、レオンガンドがどこか嬉しそうな顔をしていた。

「だが、まだだ。まだ、この程度では、な」

 レオンガンドが、光背を大きく展開した。光輪から無数の光線が放たれ、光の翼が閃光を放ち、白い炎が渦を巻く。それらがすべてセツナに向かって収斂するようにして殺到してきている。

 セツナは、座標置換を発動してレオンガンドから大きく距離を取ると、マスクオブディスペアの能力を発動した。戦場に漂う羽の数と同じ数の闇人形を具現する。それらは、セツナの影だ。つまり、魔王の影と言い換えてもいい。手には黒き矛を持ち、闇の鎧を纏っている。

 それら何万という魔王の影が、レオンガンドに向かって一斉に“破壊光線”を発射すると、世界が激震した。

 破壊的な光の奔流の数々が一点に集中する。

 そして、レオンガンドに直撃すると、言語に絶するほどの大爆発が起きた。

 爆風が遙か遠方に浮かんでいるセツナにまで届き、防御障壁ごと激しく揺らすほどだった。爆発の光と熱、そして余波が戦場を蹂躙し尽くす。

 だが、しかし、レオンガンドの気配になんの変化も見当たらなかった。

 光が消えてなくなると、当然のようにレオンガンドはそこにいた。まったくの無傷だ。掠り傷ひとつ見当たらない。

「こんなもので、このわたしを、獅子神皇を斃せるとでも想っているのか」

「……そんなこと、想ってもいない。いないんですよ。俺は……」

 セツナは、レオンガンドを見つめ、告げた。

「俺は、陛下。あなたを斃す」

 矛を掲げ、切っ先をレオンガンドに向ける。

「そのためにここにいるんだ」

「ならば、その力を見せてみよ! いまの君では、わたしを斃すことなど、夢のまた夢だぞ!」

 レオンガンドは、吼え、剣を振った。ただそれだけのことで、魔王の影という影が切り裂かれ、破裂し、砕け散り、消滅していく。

「夢……」

 セツナは、レオンガンドの言葉を反芻するように、つぶやいた。

「夢か」

 レオンガンドの放つ神威が魔王の影と羽の尽くを消し去ると、戦場にはセツナとレオンガンドだけとなった。

「夢ならば、よかったのに」

 心の底から、そう想った。

「これがただの悪い夢なら」

 だが、これは現実だ。

 覆しようのない事実であり、どう塗り替えることも出来ない真実なのだ。

 レオンガンドは獅子神皇となり、この世界に破局と絶望をもたらした。

 いま、レオンガンドが自分を保ち、理性的に振る舞えているからといって、それですべてが帳消しになるわけがなかった。

 いや、そもそも、だ。

 彼は、聖皇の力の継承者なのだ。

 その事実がある以上、どう足掻いたところで斃す以外に道はない。

 レオンガンドだけを残して、聖皇の力だけを滅ぼせるというのであれば話は別だが、どうやらそんなうまい話はないらしい。そんなことができるのであれば、アズマリアが提案してくれたはずだ。だが、そんな提案はなかったし、滅ぼすことだけを考えろ、と、彼女はいった。五百年の長きに渡り、聖皇の力を滅ぼすためだけに生きてきた彼女の言葉だ。重みが違う。

「現実を受け止めろ」

 はっと、顔を上げたのは、声が間近で聞こえたからだ。

「そういってくれたのは、君だよ。セツナ」

 レオンガンドは、剣の切っ先をこちらに向けていた。神の剣そのものの形状が一瞬にして変化する。矛だ。見覚えのある矛が、その手の中に生まれていた。

 ただし、白い。

 白き矛、とでもいうべきか。

 矛の切っ先が白く燃え上がったかと思うと、つぎの瞬間、爆発的に膨れ上がった。

 “破壊光線”だ。



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