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武装召喚師――黒き矛の異世界無双――(改題)  作者: 雷星
第三部 異世界無双

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第三千五百九十八話 真の力

 獅子神皇が剣を振り下ろしている。

 その事実を認識したときには、斬撃が空間を断絶していた。

 獅子神皇の直線上に存在するすべてを垂直に切り裂いていた。空間を切り裂き、時間を切り裂き、次元を切り裂き、ありとあらゆる存在を切り裂き、ついでとでも言いたげな容易さで、セツナの右腕を切り落としている。

 なんの前触れもなければ予兆もなく、想像だにしない一撃。

 痛みが遅れてやってきたのは、魔王化による弊害というべきかもしれない。

 召喚武装によるあらゆる感覚の増強は、完全武装の最終形というべき魔王化においても当然発揮されている。完全武装よりも、深化融合よりも遙かに強力で、凶悪といっても過言ではないほどに増強されたそれは、痛覚にも適用されるはずだ。しかし、痛覚の過剰なまでの鋭敏化は、ただの掠り傷を致命傷にしかねないものであり、故に痛覚だけはほかの感覚とは違って、鈍化されていた。

 そのため、前腕が切り離されたという感覚がなかったのだ。

 そして、遅れてやってきた痛みに顔をしかめる暇などはなかった。

 セツナは、マスクオブディスペアの能力によって出現させた影の手でもって切断面を繋ぎ合わせながら、右に飛んだ。

(見えなかった)

 獅子神皇の動きが、だ。

 獅子神皇は、統合が終わった瞬間に剣を振り下ろしたのだろうが、その瞬間を見逃すセツナではなかった。仲間たちの頼もしくも賑やかで馬鹿馬鹿しささえあるような会話を聞きながらも、一瞬たりとも獅子神皇から注意を逸らさなかったのだ。

 当たり前だろう。

 獅子神皇の統合がいつ終わるのかわからなかったのだ。いつ終わってもおかしくはなかったし、完了の合図などあろうはずもないのだ。

 意識のほとんどを獅子神皇に注いでいたといってもいい。

 なのに、セツナの目にも、獅子神皇の動きは見えなかった。

 これまでの獅子神皇の動きは、完璧に捕捉できていたというのにだ。

 速度も威力もこれまでとは比較にならないことが、いまの一瞬で理解できた。

 皆が危惧したとおりのことが起こったのだ。

 獅子神皇は、統合によって、さらに強敵となった。

「気をつけ――」

「気をつけてどうなるものでもあるまい」

 セツナの忠告を遮るように、獅子神皇は嘲笑った。

 獅子神皇の両目が以前にも増して輝いている。金色の膨大な光を放つ両目は、まるで小さな太陽のようだった。体内に満ちた光を抑えきれないとでもいうかのようであり、その輝きの強さが、そのまま獅子神皇の強さを示しているように想えてならなかった。

 溢れているのは、両目からだけではない。

 光背も、さっきまでよりも遙かに強烈な光を発していた。

 その光を目の当たりにするだけで圧倒されそうになるほどだった。

「おまえたちは大きな過ちを冒したのだ」

「過ちだと」

「わからんか。百万世界に遍く存在していた我をひとつに統合してしまったことだ」

 獅子神皇が悠然と剣を掲げた。刀身から迸る神威が周囲の空間をねじ曲げ、震わせ、軋ませていく。圧倒的な力を感じざるを得ない。

 だが、セツナは、不思議と恐怖を感じなかった。

 むしろ、昂揚してさえいる。

 圧倒的な強者を前にして怖じ気づくのではなく、逆に立ち向かおうという勇気がわき上がってくる。

 これもまた、魔王化の影響に違いない。

 反骨精神の頂点ともいうべき魔王の意志が想いがセツナの心までも燃え上がらせているのだ。

「ただでさえ勝てない相手だったというのに、さらに強くしてしまったのだぞ。これを過ちと呼ばずして、なんというのだ?」

 獅子神皇は、断言する。

 実際、獅子神皇は、統合以前とは比較にならないほどの力を持っているのは間違いないだろう。それは、肌で感じている。全身が総毛立つほどに危機感を覚えている。黒き矛や眷属たちが猛り狂っているのもそのために違いない。まさに神々の王に相応しい存在なのだ。

 だからこそ、奮い立つ。

「それを決めるのは、あんたじゃない。俺たちだ!」

 叫び、黒き矛の切っ先を獅子神皇に向けた。同時に“真・破壊光線”を撃ち放つ。極大の黒き光芒が獅子神皇に襲いかかったが、獅子神皇が盾を掲げただけで飛散してしまった。

 そこへ、真っ赤な光の弾丸が雨霰と降り注ぐ。ミリュウの擬似魔法だ。

「そうよ! セツナのいうとおりだわ!」

「いっておくけど、わたしも同じ気持ちよ」

「俺も隊長に同意です」

 擬似魔法に続くのは、雷を帯びた竜巻であり、それはファリアとルウファの連携攻撃に違いない。さらに竜王の咆哮が響き渡る。

「まったくじゃ」

「ようは、勝てばいいんだろ!」

「簡単な理屈ですな!」

 竜王の魔法によって降ってきた隕石群に混じるようにして、シーラが九つの尾を叩きつけようとすれば、エスクがソードケインを振り回し、虚空砲を撃ちまくる。

「はい、その通りでございます」

「勝つのはわたしたちなんだよね!」

「もちろんです、エリナ」

「ああ、そうだとも」

 レムが“死神”ともども斬りかかれば、エリナが木の葉の津波を引き起こし、ウルクが全速力で飛びかかり、エリルアルムがそれに続く。

「さっすが皆さん。俺の出る幕じゃないね」

「でも、仲間、だよ?」

「ありがとう、トワちゃん」

 ひとり攻撃に参加できないエインは、トワの気遣いに心から感謝したようだった。

 一方、トワは、皆の真似事をするようにして攻撃に参加している。

 しかし、それら数々の攻撃も、獅子神皇が掲げる盾の前に露と消え去り、直接攻撃に赴いたものたちも返り討ちに遭った。シーラも、エスクも、レムも、ウルクも、体を真っ二つに寸断されてしまったのだ。

 獅子神皇が剣を振っている素振りさえなく、斬撃だけが空中を駆け巡っていた。

 だが、つぎの瞬間には、皆が切り裂かれた事実は、なかったことになった。

 クオンだ。

「……セツナたちのいうとおりだ、獅子神皇」

 クオンがシールドオブメサイアを掲げていた。既に力を消耗し尽くし、立っているのがやっとだというような状態だというのにも関わらず、彼は、盾の能力を発動し続けていた。だからこそ、セツナたちは、戦える。彼が護ってくれるから、彼が助けてくれるから、なにも恐れる必要もなく、獅子神皇の懐にだって飛び込める。

「ぼくたちの行いが過ちだったのか、正しかったのか。それがわかるのはこれからなんだ」

「そして、我らの勝利は決まっている。それが世界の意思だからだ」

 そう断言したアズマリアの背後には、幾百幾千の門が並んでいた。魔人もまた、消耗し尽くしているはずだ。それでも、力を使い続けている。セツナたちが勝利することを信じ、託してくれているのだ。

 獅子神皇は、殺到する攻撃の数々を捌きながら、いった。

「……よかろう。そうまでして死にたいというのであれば、もはやなにもいうまい。我が真なる力の前に恐れ戦くがいい。そして思い知るのだ」

 そして、獅子神皇の姿が変わった。

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