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武装召喚師――黒き矛の異世界無双――(改題)  作者: 雷星
第三部 異世界無双

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第三千五百九十三話 獅子神皇の秘密(二)

 幾億もの翼で埋め尽くされた戦場は、まるで想像上の楽園のように幻想的で、神秘的だった。

 それが、異世界での最終試練を経てルウファが得た力であり、また、翼の数だけ力を増すシルフィードフェザーの特性を最大限に引き出す能力と考えられた。

(翼の数だけ、か)

 それはつまり、いま、ルウファの力は限りなく増大しているということだ。

 実際、虚空を蹴るように飛んだ彼の飛行速度は、いままでとは比較にならなかった。ようやくセツナの動体視力で捉えられるほどの速度だ。一瞬にして獅子神皇の懐に飛び込むと、腹部に一撃を叩き込んで離脱する。獅子神皇の盾も間に合わなければ、剣による反撃もルウファに届かない。剣が空を切ると、時空の裂け目が生まれるが、それはどうでもいい。

 どうせ、世界によって修復されるものだ。

 大事なのは、ルウファの攻撃だ。ルウファが叩き込んだのは、拳。莫大な風の力を纏った拳の一撃は、確かに獅子神皇の腹に直撃した。その威力たるや凄まじいものがあることは、直撃の瞬間、衝撃波が周囲に拡散したことからもわかる。

 しかし、セツナの目には、獅子神皇の外見上の変化は見えなかった。たとえば、獅子神皇の腹部を覆う装甲が陥没したり、貫通したりといった変化だ。あれだけの威力の打撃を喰らってなんの変化もないというのは、考えにくい。

 獅子神皇が自身を強力な防御障壁で覆っているというのであれば話は別だが、獅子神皇は、なぜか、そういう風に自分を護っていなかった。

 絶対的な自負と圧倒的な力がそうさせるのか、それとも、なにか理由があるのか。

 なんにせよ、通用するはずの攻撃がまったく効果がないというのは、どういうことなのか。

「いまの見ました?」

 ルウファが叫ぶように問うてきた。獅子神皇の光背から放たれた数万本の光線が、彼を追いかけているのだ。だから、彼は叫ばざるを得ない。

「腹に風穴開けてやりましたよ!」

「開いてないけど?」

「嘘でしょ!?」

 ルウファが素っ頓狂な声を上げたのは、彼が無傷の獅子神皇を見ぬまま、その目の前から離脱し、そのまま追尾光線から逃げ続けているからだろう。獅子神皇の傷がなかったことになるのは一瞬なのだが、その一瞬と同じだけの速さで飛んで離れれば、確認できないのも無理はない。

 そこから、獅子神皇に一瞥をくれている暇もない。光線の数は数万を数え、それらが様々な軌跡を描きながらルウファを追い続けている。

 獅子神皇から見ても、いまのルウファが厄介だということに違いない。

「だからいったでしょう。効いているようで効いていないって」

「そんな馬鹿な!」

「……その原因を探るためじゃなかったのかしら」

 呆れて肩を竦めたファリアだったが、セツナがそんな彼女の身に変化が起き始めていることに気づいたのは、そのときだった。

 ファリアの全身がオーロラストームの羽――クリスタルビットに覆われていくという見たこともない光景を目の当たりにしていると、その結晶体の数々がただ彼女の体を包み込んでいるわけではないことを理解する。まるで荘厳な衣のように、ファリアの全身を飾り立てていく。

「わたしも全力で行くわよ」

「それは?」

「オーロラストーム・クリスタルドレス……と、名付けたわ」

 ファリアの全身を包む無数のクリスタルビットが電光を帯びると、彼女自身が輝いているように見えた。その姿を神々しく感じるのは、セツナだけなのかもしれない。ファリアは、まるで女神のように美しく、凜々しかった。戦女神の名に相応しい姿だと、セツナは想ったし、見惚れていたかった。

 無論、そういうわけにはいかない。

「そして、これがわたしとオーロラストーム、最大最高の能力」

 ファリアの姿が、電光を残して掻き消えたかと思うと。つぎの瞬間には獅子神皇の頭上に到達していた。オーロラストームを眼下に翳す。当然、獅子神皇は、盾を掲げた。オーロラストームが咆哮し、大気が震撼するほどの極大の雷撃が放たれるも、獅子神皇の盾によって四方八方に受け流されてしまう。しかし、つぎの瞬間、ファリアの姿は獅子神皇の背後にあった。

 光背に結晶体で覆われた左手を突きつけると、またしても凄まじい雷撃を放つ。極至近距離からの雷撃は、さすがに獅子神皇も避けきれなかったのだろう。大爆発が起き、翼に覆われた天地が震えた。

 とはいえ、だ。

 神威によって爆風が消し飛ばされると、無傷の獅子神皇が姿を現すと、ファリアは距離を取った。

「さすがに最終試練を乗り越えただけあるな……」

「でしょ!」

「おまえは……」

「あたしはこれからよ!」

 ミリュウがそう叫んだとき、獅子神皇が剣を掲げた。刀身が神威の光を帯びていく。まばゆく神々しい光をむしろ禍々しく感じるのは、やはり相手が獅子神皇だからだろう。

「って、もう準備は終わってるんだけどね。あとは、セツナの愛が――」

「なにをいってんだ!」

 セツナは咄嗟にミリュウに接近すると、彼女を抱き抱えてその場を飛び離れた。瞬間、光り輝く斬撃が虚空を切り裂き、ミリュウが立っていた場所を真っ二つにする。それだけではない。獅子神皇の光の刃は、四方八方をでたらめに切り刻んでいた。

 戦場を埋め尽くす翼を消し去ろうとでもいうのだろう。

「これよ、これ! これを待っていたのよ!」

「はあ?」

「ああん、もう、最高っ!」

 なにやら興奮しっぱなしのミリュウだったが、その右手は、握り締めた刀の柄を翳していた。すると、戦場の至る所に漂い、彼女の意のままに呪文を形成していた破片群が一斉に輝き出した。

「ああっ、愛が溢れるわっ!」

 ミリュウが最高潮といった様子で叫ぶ様を見て、だろう。ファリアが憮然とした顔を見せた。

「こんな状況でよくそんなことがいえるわね」

「さすが師匠です!」

「褒めるとこじゃないからね」

「そうですか?」

「そうよ!」

 ミリュウに心酔しているエリナの将来が多少不安になるやり取りだったが、そんな心配をできるかどうかは、この戦いの行方にかかっているのだという事実を想いだし、セツナは渋面になった。すると、両腕で抱えたままだったミリュウがラヴァーソウルの柄を振り回す。

「なんとでもいえばいいのよ、愛は無敵なんだから!」

 直後、擬似魔法が発動したのだろう。

 翼に覆われた世界そのものが激しく軋み、凄まじい振動が空間を揺らした。咆哮のような、怒号のような大音声が聞こえたのも同時だった。それがなにを意味する言葉なのか、そもそも、だれが発した声なのかすらわからなかったが、ただひとつ、理解できたことがある。

 理解できないことが起きたという事実だ。

 獅子神皇を中心とする空間が歪曲し、獅子神皇の姿そのものが歪んで見えた。

 そして、歪曲空間の崩壊が始まる。

 崩壊に次ぐ崩壊の連鎖が獅子神皇を怒濤のように襲い、破壊の嵐がすべてを飲み込んでいく。


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