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武装召喚師――黒き矛の異世界無双――(改題)  作者: 雷星
第三部 異世界無双

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第三千五百八十九話 果たすべき役目


「理不尽なのはおまえだよ、獅子神皇」

 吹き荒れる神威の嵐の真っ只中で、アズマリアの声がはっきりと聞こえた。地上にあって、巨大な門の目の前に立つ魔人は、獅子神皇を睨み据えている。

「そうだ。おまえなんだ。おまえがこの世の理不尽そのものなのだ。聖皇の力を受け継ぎ、神々の王として君臨するおまえこそ、斃すべき敵。滅ぼすべき邪悪なのだ。そうだろう、セツナ」

「……ああ」

 うなずき、矛を強く握り締める。

 獅子神皇の咆哮とともに渦巻いた神威は、ナルンニルノルの玉座の間を瞬く間に消し飛ばした。元よりミヴューラ神の一撃によって天井を吹き飛ばされ、セツナたちとの戦闘によって崩壊寸前ではあったのだが、獅子神皇が吼えたことが決定打となって、玉座の間は跡形もなく消滅してしまった。

 ナルンニルノルそのものが崩壊を始めているようであり、獅子神皇がこの異形の城を維持することすら放棄したのだろうということがなんとなく理解できた。

 獅子神皇の姿にも変化が現れている。

 神々しく荘厳で儀礼的にすら見える装束が変容し、鎧兜が紡ぎ上げられていく。それは真躯にも似た高密度の神威の鎧であり、兜だ。獅子を模した兜は、獅子神皇の名に相応しいものではあったし、見た目にはやはり神々しく、絢爛にして輝かしかった。

 それとともに出現した光背はまるで燃え盛る炎のようであり、金色の獅子の鬣のようでもあった。そこにさらに光の翼と光の輪が加わることで、獅子神皇の光背は完成したようだ。いままで見てきたどんな神々のどんな光背よりも圧倒的だった。

 獅子神皇の変貌中、一見すると攻撃する好機と取れなくもなかったが、そんなわけにはいかなかった。超高密度の神威が竜巻となって渦巻いていて、遠距離攻撃は弾かれ、近づくこともままならないといった有り様だったのだ。

 故に、セツナたちは、獅子神皇の変貌を見届けなければならなかった。

 そしてその間、セツナは、クオンに声をかけた。

「クオン」

「ん?」

「ありがとな。皆を助けてくれて」

「感謝されるようなことじゃあないよ、セツナ。ぼくはぼくの役目を果たしただけのこと」

 彼は、当然のことのように、いう。

 実際、クオンはそう想っているのだろうし、想っていることを実行に移しただけなのだろう。しかし、それでも、セツナは、クオンへの感謝を忘れまいと想うほかなかった。クオンが助けてくれなければ、皆死んでいたのだ。

 そうなれば、獅子神皇に勝っても、意味がない。

 いや、もちろん、この世界のひとびとにとって、百万世界にとっては極めて大きな意義があるに違いないのだが、セツナ自身としては、そう想わざるを得ない。

 セツナが戦っているのは、やはり、周囲の大切なひとたちのためなのだ。だからこそ、戦える。戦い抜くことができる。

「……ああ、そうだな」

 小さくうなずき、獅子神皇を見据える。

 獅子神皇は、完全に変貌を終えていた。白銀の獅子を模した甲冑に身を包み、圧倒的な光背を負っているその姿は、神々の王と名乗るだけの存在感があった。とはいえ、本人の顔の形や背格好に変化はない。獅徒や神将たちの用いた“真聖体”とはまるで異なる代物なのだろう。

「俺も、役目を果たさないとな」

「ちょっとちょっと、セツナたちだけで話を進めないでよう!」

「そうだぜ、俺たちだっているんだからな!」

「うむ。わしらが力を合わせてこそ、奴を斃せるというものじゃぞ」

「ラグナのいうとおりでございますわ、御主人様」

「もちろん、わかっているさ」

 セツナは、皆の力強い言葉に大きくうなずいた。なんとも心強い仲間たちだ。皆がいるという事実だけで、いくらでも戦えるような気がした。

「外の皆とは連携は取れないし、取らないほうがいいのよね?」

『おまえたち以外は、獅子神皇に支配されるだけだ。それでは意味がない』

 ファリアがだれとはなしに問えば、エインの中のマユリ神が応えた。

(それに、これ以上の人数は……)

 セツナは、クオンを一瞥し、彼の強張った表情を確認した。クオンは、当然のようにファリアたちを窮地から救ったが、そのためにどれだけの力を消耗したのか、想像するまでもない。神理の鏡の反射能力も、召喚武装の能力のひとつなのだ。行使には、なにかしらの代価を必要とする。トワの使徒であるクオンに限界がない、とは、言い切れないのだ。

 使徒の肉体は、神兵同様際限なく再生し、復元するが、精神力はどうか。精神力にも限界がないのであれば、クオンの負担など考える必要もないが、彼の表情を見る限り、そうでもなさそうだった。

 少なくとも、死という事実を跳ね返す能力は、彼にとって大きな負担となることは間違いない。

 それも人数が増えるほど負担もまた増えるのは道理というものであり、故に、少数精鋭による決戦となったのは、幸運だったのかもしれない。

 獅子神皇が、冷笑した。

「わたしに一蹴されたものたちがどれほど集まったところで、どうなるものでもあるまいに……よかろう。かかってくるがよい。わたしみずからおまえたちの相手をしてやろう。そして、思い知るがいい。おまえたちが如何に無力で無意味な存在であるのかということをな」

 獅子神皇が振り翳した杖が一瞬にして剣へと変形すると、左手には盾が出現した。

「思い知るのはあんたのほうだぜ!」

 エスクの叫び声とともに一条の光線が獅子神皇の元に殺到する。

「なんたって、もう動けるようになったんだからな!」

 彼の発言によって、セツナは、いつの間にか皆が動けるようになっていたことに気づかされた。そういえば、彼らは皆、獅子神皇の力によって身動きを封じられていたはずだ。それがいま、なぜか、無効化されている。

 おそらくは、クオンだ。

 クオンが神理の鏡の力で、撥ね除けたのだ。

 それができるのならば最初からそうしておけばよかったのではないか、と、考えるのは早計だろう。クオンにはクオンの考えがあり、その結果、皆が生きているのだから、セツナが余計な口を挟む必要はない。

「そういう問題?」

「そういう問題!」

 一直線に爆発的な速度で伸びたソードケインの光刃だったが、しかし、獅子神皇の盾に防がれたことでそれ以上伸びることはなかった。ただし、そこからがエスクの腕の見せ所だ。エスクはすぐさま光刃の軌道を変化させた。盾の表面を沿うようにして走らせ、獅子神皇の背後に回らせた光刃の切っ先でもって、後頭部を狙ったのだ。

 そして、光刃の切っ先が獅子神皇の後頭部に刺さった――かに見えたが、つぎの瞬間には、何事もなかったかのように光刃が逸れていった。

「やった――って、あれ!?」

「残念だったな、エスク!」

 吼えたのは、シーラだ。

 獣化したシーラの九つの尾のうち、いくつかが一斉に獅子神皇に襲いかかった。九つの尾は、それぞれ異なる性質を持つ。最初に襲いかかったのは、貫通の尾。尾と化したランスオブデザイアよろしく、螺旋状に回転しながら突貫していく様は、破壊的といっていい。

「無駄なことだ」

 獅子神皇は、盾で貫通の尾を受け止めると、続いて殺到した切断の尾を剣で切り裂いた。そこへ破砕の尾が降ってきたが、それは避けようともしなかった。

 そして、直撃する。



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