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武装召喚師――黒き矛の異世界無双――(改題)  作者: 雷星
第三部 異世界無双

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第三千五百八十三話 夢の続き


 真躯の究極形とでもいうべきか。

 救世神ミヴューラの力が増大したことによって、オズフェルト・ザン=ウォードの真躯が大きく変化し、獅子神像にも負けないくらいの巨大さを得ていた。ただ変形し、巨大化しただけではないことは、そこからの猛攻によって明らかになっている。明らかに力が増していた。

 アズマリアがいったとおりなのだろう。

 ゲートオブヴァーミリオンによって世界中に拡散された最終決戦の有り様は、生きとし生けるものに絶望を与えた。そして、絶望は、救いの声を生んだ。数え切れない救いを求める声が救世神ミヴューラに届いたのもまた、ゲートオブヴァーミリオンの力に違いない。

 世界中から届いた声が、ミヴューラ神の力を際限なく増幅し、真躯を進化させたのだ。

 その一撃はナルンニルノルを震撼させ、その一太刀は獅子神像の足を切り飛ばす。

 獅子神像が変貌を遂げようと、ミヴューラ神の一方的ともいうべき戦いに変化はなかった。獅子神像の攻撃がミヴューラ神に痛手を負わせることはなく、一方、ミヴューラ神の攻撃は、獅子神像に大打撃を与え続けた。

 ついには、ミヴューラ神が莫大な光を纏わせた極大剣でもって、獅子神像の上半身――巨人を断ち切り、さらには獅子の胴体をも両断した。

 すると、セツナたちのいる玉座の間が激しく揺れ、天井が真っ二つに切り裂かれた。まばゆいばかりの光が視界に飛び込んできて、それがミヴューラ神の極光の刃だということがわかったのは、すぐ後のことだ。

 直後、極光の刃が視界から消えたのは、ミヴューラ神がセツナたちを巻き込まないようにと配慮したからだろう。天に届くほどに巨大な光刃をあのまま振り下ろしていれば、間違いなくセツナたちも巻き添えになっていたはずだ。

 ミヴューラ神は、極光の刃での攻撃こそ諦めたものの、攻撃の手を止めることはなかった。玉座の間の天井に開いた穴を両手でさらにこじ開けると、獅子神皇に向かって叫ぶようにいった。

『このときを待っていた。待っていたぞ、獅子神皇!』

「……それはこちらの台詞だ、ミヴューラ」

 獅子神皇は、頭上を仰ぎ見て、冷ややかに告げた。玉座の間の天井は、ミヴューラ神によってこじ開けられ、いまや完全になくなろうとしていた。天井の代わりに頭上を覆うのは、ミヴューラ神の巨躯であり、その神々しくも猛々しい姿は、なんともいえないくらいに頼もしかった。

「救世神を名乗る偽神よ」

『なんとでもいうがいい。我は我の正義を断行する!』

 ミヴューラ神の左手が物凄まじい速度で玉座の間に突っ込んでくると、獅子神皇を掴まえてしまった。獅子神皇が反応できないほどの速度だったとは考えにくい。獅子神皇になにかしらの考えがあると見てよく、セツナは、クオンに目配せすると、床を蹴って飛んだ。

 ただ黙って成り行きを見守っているほど、セツナも愚かではないのだ。

 ここでミヴューラ神に加勢しない手はない。

「正義。正義か」

 セツナが獅子神皇を間合いに捉えた瞬間だった。獅子神皇の全身を覆い隠すには十分すぎるほどに巨大なミヴューラ神の左手が粉微塵になって消し飛んだのだ。飛散する神威の粒子が巻き起こす渦の中、獅子神皇は、悠然としていた。

「偽神に相応しい物言いよな」

「だれが偽神だって?」

「耳が悪くなったんじゃないか、セツナ」

 ミヴューラ神に向かって右手を翳しながら、獅子神皇は、こちらを一瞥した。金色に輝く目に見つめられただけで意識が遠のきかける。動きが鈍った。

「君は昔、戦場の彼方の音まで聞き取って、わたしを窮地から救ってくれた」

 はっとしたときには、もう遅すぎた。

 獅子神皇の右手から放たれた莫大な神威は、ミヴューラ神の左肩から胸甲に至る部分を消し飛ばし、巨大な風穴を開けた。ミヴューラ神は、怯むことなく右手に極大剣を握り締めると、獅子神皇に向かって振り下ろす。極光の刃は、しかし、獅子神皇に到達することはなかった。獅子神皇の遙か頭上で動かなくなったのだ。まるで金縛りにでも遭ったかのようだった。

 一方、獅子神皇は、話を続けてくる。

「わたしはいまもはっきりと覚えているよ」

「……俺の初陣」

「そうとも。君の初陣であり、君という存在が世界に認識された最初の戦いだ」

「俺だって、忘れちゃいない」

「なら、よかった」

 獅子神皇が微笑を浮かべた直後、ミヴューラ神の極大剣の刀身が半ばから融解し始めた。神威を凝縮して作り出された武器だ。神威の結合を解かれれば、一溜まりもない。が、当然、そんなことが簡単にできるはずもない。ましてやミヴューラ神はいま、世界中のひとびとの祈りを背負っているのだ。真躯を構築する神威の結合は、極めて強固であるはずだった。

 それなのに、獅子神皇は、意図も容易くやってのけてしまった。左手や肩を消し飛ばしたのも、同じ方法だろう。

「わたしにとってそれは、まさに光だった」

 獅子神皇が語る中、セツナは、ようやく意識にかかった呪縛を振り払うことができた。そして、すぐさま獅子神皇に飛びかかる。ミヴューラ神との連携で攻め立てるつもりが、想定外の事態に陥りかけたが、いまならばまだ間に合う。

「あのとき、わたしは君という光を見出した」

 全速力で飛翔すれば、獅子神皇を間合いに収めるまで一秒もかからなかった。振りかぶった黒き矛でもって、全力で斬りつける。

「そして、わたしの夢が動き出したのだ」

 だが、カオスブリンガーは、空を切っただけだった。虚空に漆黒の剣閃が走り、時空の裂け目が生じる。獅子神皇の気配は、背後に在った。透かさず、ランスオブデザイアを奔らせるも、手応えがない。気配が移動している。

 今度は、頭上。

「これはその続きだよ、セツナ」

「……続き?」

 仰ぎ見れば、獅子神皇は、神々しくも眩い光に包まれていた。目も眩むほどに烈しく鋭い光を放つ姿は、まるで小さな太陽のようだ。光は、即ち神威であり、並大抵のものは、近づくだけで溶けて消えてしまうことだろう。

「そうとも。これは、あの日終わった夢の続きの物語」

 獅子神皇は、静かに語り続ける。

「わたしが再びこの世に覇を唱えたのは、今度こそ、夢を叶えるため」

 そして、無造作に手を翳したかと思えば、獅子神皇に殴りかかったミヴューラ神の右拳を腕ごと消し飛ばして見せた。神威の結合が解かれていく様は、蒸発していく様に似ている。

 しかし、それでミヴューラ神の攻撃手段がなくなったわけでも、力が失われたわけでもなかった。

「今度こそ、あのとき、道半ばに終わってしまった夢を完成させるため」

 ミヴューラ神は、瞬時に真躯の失った部位を復元すると、再び極大剣を作り出し、獅子神皇に斬りかかった。今度は、セツナも一緒だ。ミヴューラ神の攻撃に呼吸を合わせ、飛びかかる。

 セツナだけではない。

 その場にいただれもが、獅子神皇への攻撃を行ったのだ。

 ファリアのオーロラストームが唸りを上げれば、ルウファはシルフィードフェザーを羽撃かせ、ミリュウのラヴァーソウルが擬似魔法を発動させ、レムが“死神”とともに完全武装影式を用い、シーラが金眼白毛九尾となり、エスクがソードケインを振り翳す。ラグナが吼え猛る中、ウルクが波光砲を撃ち放ち、エリルアルムの翼が紅蓮と燃え上がり、エリナがフォースフェザーを身に纏う。

 エインがマユリ神に身を委ね、マユリ神が神威を放てば、クオンが神理の鏡を掲げる。

「すべてはそのために。そのためだけに」

 そして、最終決戦の幕が上がった。


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