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武装召喚師――黒き矛の異世界無双――(改題)  作者: 雷星
第三部 異世界無双

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第三千五百八十一話 救いをもたらすもの(四)


 オズフェルト・ザン=ウォードの真躯ライトブライトワールドに起きた変化を目の当たりにして、シグルドは、ただただ口を開けて呆然としていた。

 ただでさえ巨大だった真躯がその数倍、いや、数十倍にも大きくなっただけでなく、さらに堅牢かつ強靭になり、その上より一層神々しくなったのだ。

 オズフェルトの身になにかが起こったのは間違いないが、それがなんであるか、シグルドたちには想像もつかなかったし、想像しようもなかった。

 ただひとつ、わかったことがある。

 それは、オズフェルトの真躯がその膨大化した質量に相応しいだけの力を持っているということだ。

 獅子神像が引き起こしていた天変地異の数々を静めただけでなく、獅子神像に強烈な一撃を叩き込んで見せたのだ。これまで、獅子神像の絶対的な力の前に為す術もなかったのが連合軍であり、防戦一方だったのだから、とてつもなく大きな変化であり、形勢逆転といっても過言ではなかった。

「すげえな……」

「ええ……」

 ジンも、ほかに言葉が出てこないといった様子だった。それはそうだろう。オズフェルトの真躯も巨大なら、獅子神像も巨大であり、二体の巨大な怪物がぶつかり合う様は、圧倒的としかいいようがないのだ。

 真躯の攻撃が獅子神像の巨躯を揺らせば、獅子神像の攻撃が真躯を襲う。巨人と巨獣の激突は、それだけで凄まじい余波を生む。天変地異ほどの被害はでないにせよ、その直撃を受ければどこまでも吹き飛ばされるに違いない。

 壊滅的な戦場の真っ只中で、シグルド率いる《蒼き風》は、なんとか生き残っていた。それもこれも獅子神像の力を目の当たりにして、即座に戦術の方針転換を行った連合軍首脳陣の判断が正しかったからだ。天変地異が引き起こされ始めるなり、すぐさま全軍を護るべく動いた。神々も竜属も皇魔も、だれもかれもが連合軍の護りを固め、そのおかげで被害は最小限で済んでいる。

 だからこそ生き延びられたのだが、あのまま全軍を護り続けることは難しかっただろう。

 オズフェルトとその真躯が突如とした変化を見せてくれなければ、連合軍は壊滅していたはずだ。

「最初からああしていればよかっただろう」

 そう皮肉っぽくいったのはルニアだ。疲労困憊といった彼女の様子を見れば、そういいたくなるのもわからなくはない。ルニアは、シグルドたちを助けるために散々に魔法を駆使しており、そのために体力も魔力も消耗しきっていた。

 シグルドたちがこの地獄のような戦場を潜り抜けてこられた理由のひとつが、彼女なのだ。故に、シグルドは、彼女には感謝しかなかったし、そのことを何度となく伝えている。

「ようやく、なんだよ」

 頭上から降ってきた声に顔を上げると、マリク神が浮かんでいた。ネア・ガンディアの神々を引きつけるために戦場を飛び回っていたマリク神だったが、獅子神像の顕現後は連合軍将兵を護るために動いていたのだ。

「ようやく?」

「ようやく、力が満ちたんだ。ミヴューラにね」

「だから、変身した?」

「そういうこと」

 マリク神が静かにうなずく。

「それもこれも、おそらくアズマリアのおかげでもある」

「アズマリアの?」

「アズマリアはゲートオブヴァーミリオンを用い、この戦いを世界中に伝えていた。この地獄のような戦いの有り様をね」

「……悪趣味だな」

「なんでまたそんなことを?」

 シグルドはマリク神に問いながら、前方に視線を戻した。結晶の大地は、もはや原型を失うくらいに壊れ果てている。大地は割れ、そこかしこに存在していた結晶も砕け散り、地上に散乱していた。そんな壊れ果てた大地に蠢く白が見える。白い化け物たち。神兵の群れだ。

 天変地異が収まったことは、連合軍だけでなく、ネア・ガンディア軍にとっても事態の好転といってよかったのだ。

 獅子神像の攻撃は、敵味方の区別なく行われていた。その攻撃が収まるまではまともに動けなかったのがネア・ガンディア軍であり、天変地異が静まったときから、彼らが攻勢に転じる可能性は考慮できていた。

「いきとし生けるものに思い知らせるためさ。ぼくたちが戦っていること。獅子神皇を打倒しなければ、世界が破滅すること。けれども、獅子神皇を斃すのは極めて困難であり、絶望的といっても過言ではないこと。実際、獣と化したナルンニルノルの前には、ぼくたちは手も足も出なかった」

 マリク神のいうとおりだ。

「その光景を見たひとや竜、皇魔が絶望したとしてもおかしくはないよね」

「まあ、そりゃあ……」

「絶望させることになんの意味が?」

「ただ絶望させただけでは意味がないんだ。絶望の中で、救いを求めてもらわなければ」

「救いを求める?」

「そう。ミヴューラは救いを司る神であり、ひとびとの救いを求める声を力に変える」

 シグルドたちの元へ雪崩れ込んで来つつあった神兵の群れが、突如として塵となって消えた。

 見れば、オズフェルトの真躯――いや、ミヴューラ神の手に極大剣が握られていて、その切っ先がこちらに向いていた。

 極大剣の一閃が、数多の神兵を消滅させたのだろう。

 シグルドは、唖然とするほかなかった。

「故に彼は、いまや無敵となった」

 すぐさま、ミヴューラ神は獅子神像に向き直った。獅子神像が右前足を振り上げたからだろう。だが、右前足がミヴューラ神に届くことはなかった。

 極大剣が閃き、獅子神像の右前足を上空へと切り飛ばしたからだ。さらに、天に瞬く雷がその前足に直撃し、紅蓮の炎が前足を包み込む。前足が灼き尽くされるまであっという間だった。

「無敵……」

「獅子神皇にも勝てるのか?」

「それはどうだろうね」

 マリク神が疑問とともに小首を傾げる。

「獅子神皇は、聖皇の力の後継者だ。聖皇は、異世界の神々を召喚し、その力を得ていたという話なんだ。人間、竜、皇魔の祈りがミヴューラに莫大な力をもたらしたとして、その総量が神々の力に並ぶほどかというと……」

「比較にもならない……か」

「ただし、獅子神像はその限りじゃない」

 マリク神がいう通りの光景が目の前に展開していた。

 獅子神像は、神々しくも異形なる獅子と巨人の上半身が融合したような怪物だ。獅子の咆哮だけで天変地異を引き起こすほどの力を持っている。連合軍の神々が力を合わせても歯が立たないくらいだ。

 だが、ミヴューラ神は、それだけ圧倒的な力を持つ獅子神像に対し、強烈な攻撃を加え続けていた。

 右前足に続いて、左前足を粉砕すると、獅子の翼から放たれた光線の尽くを極大剣の一閃で吹き飛ばして見せる。

 さらに、ミヴューラ神の光背から放たれた光線は、美しい曲線を描いて獅子神像に殺到し、巨大な翼につぎつぎと直撃し、爆発、無数の火球が舞った。

 その上、ミヴューラ神の巨躯から飛び出した二本の双戟が、獅子神像の背に突き刺さる。

 ミヴューラ神の猛攻は、止まらない。




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