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武装召喚師――黒き矛の異世界無双――(改題)  作者: 雷星
第三部 異世界無双

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第三千五百七十七話 門は繋げる


「わたしがなんのためにここにいると想っている」

 声に振り向けば、遠方、真っ白な床の上に魔晶人形の躯体の部品が散らばっている様が目に飛び込んできた。それがアズマリアの成れの果てであることは、疑いようもない。アズマリアは、かつて依り代としていたミリア=アスラリアの代わりに、魔晶人形の躯体に乗り移っていたのだ。しかし、一見すると、魔晶人形とは想えないように外見を変える術を持っていたはずだ。

 その魔法のような力も、彼女が魔人たる所以であり、ミエンディアの一部であったことの証左なのかもしれない。

 魂だけの存在であり、肉体を移し替えることで五百年以上生きてきたことも、そうなのだろうが。

「わたしのような戦う力もないものが、なぜ、セツナたちとともにこの場にいると」

 魔法が解けたアズマリアの姿は、量産型魔晶人形アルのそれであり、四肢をばらばらにされた上、胴体と首も切断されていた。

 その様子から、セツナたちがここに来るまでの間、彼女が獅子神皇と戦っていたことが推測される。ナルンニルノル突入直後の空間転移によって、アズマリアだけがどこに飛ばされたのかわかっていなかったのだが、それがいまわかったのだ。

「実際、わたしにはなんの力もない。召喚武装ゲートオブヴァーミリオンは、戦闘向きではないし、ほかの召喚武装を用いても、獅徒のひとりにすら勝てないだろう。わたしの力など、その程度のものでしかないのだ」

 彼女の告白は謙遜も混じっているはずだ。

 ゲートオブヴァーミリオンの力は、空間転移だけでなく、異世界からの召喚をも可能とする。かつて、彼女はその力でもって皇魔を呼び出したり、異世界の存在と思しきものを召喚したりした。異世界の存在を大量に呼び寄せることで、彼女自身の戦力不足を補うことだって不可能ではなかったはずだ。

 しかし、それはできなかった。なぜならば。

「だが、わたしはここにいる。それは、何故だと思う? 獅子神皇よ」

「それは貴様が愚かものだからだろう。魔人アズマリアよ」

 獅子神皇は、冷ややかに告げた。すると、光の剣がアズマリアの元に降り注ぎ、その躯体をさらに粉々に打ち砕く。セツナたちが反応する暇もない。

「愚か故、我が前に現れ、そのザマとなった」

「愚かなのはおまえだよ、獅子神皇」

 アズマリアは、それでも嘲笑うのを止めない。むしろ、勢いを増している感さえあった。

「そうとも。神々の力を得ても、百万世界の叡智を得ても、無限の生命力を手に入れても、どうにもならないことがあるのだ。それをわたしは知っている」

 その言葉には、随分と実感が籠もっているように感じられた。おそらく、アズマリア自身の本音なのだろう。彼女が体験し、五百年以上の長きに渡って抱え続けてきた想い。

「だから、おまえは負ける」

 アズマリアが断言する中で、セツナは、光を感じた。振り向けば、光の幕の向こう側で莫大な光が集まっていた。それは、ナルンニルノルの光ではない。まったく別の、しかし、神々しくも暖かな光だった。

「あれは……」

「なんなの? なにが起こっているの?」

「ようやく、状況が整ったようだ」

「状況?」

「反撃開始といこうじゃあないか」

 そういったのは、アズマリアだ。

 いつの間にか魔晶人形の躯体は元通りに復元されており、見ている間に魔人の姿に上書きされた。躯体はおそらくマユリ神がその御業で復元したのだろう。マユリ神は、エインとともにある。故に獅子神皇の隙を突くことができたのかもしれない。

「ああ」

 セツナは、アズマリアの言葉にうなずくと、獅子神皇に目を向けた。

 もはや、ナルンニルノルの外のことを考える必要はなかった。

 元よりなんの心配もしていなかったのだ。

 セツナには、外でなにが起きているのか、わかっていた。

 魔王の力を持ってすれば、わからないことなどなにもない。

「反撃だと? 笑わせる。状況はなにも変わってなど――」

 獅子神皇が傲然と言い放とうとした言葉は、ナルンニルノルの激しい震動音によって途切れた。床や壁、天井が強く揺れ動く様は、ナルンニルノルそのものが倒壊するのではないかと思わせるほどだった。獅子神皇が言葉を失ったのも、きっとそのためだろう。

「既に門は開かれているのだよ、獅子神皇」

 アズマリアの嘲笑が響く中、ナルンニルノルが再び震えた。今度は、先程よりも激しかった。ナルンニルノルになにかが起こっている。ナルンニルノルの外で、なにかが起きているのだ。

「門が繋ぐはひとの心。この世界に存在するすべてのひとびと、すべての皇魔、すべての竜、すべての精霊、すべての神々の心を繋ぎ、想いを結ぶ」

 セツナは、獅子神皇が見せるナルンニルノルの外の有り様に目を向けていた。まさに獅子の神像とでもいうべき異形の巨像が暴れ回っているという絶望的な光景は、いまや遠い昔のものと成り果てている。

「ひとびとは見ただろう。この戦いを。神の軍勢に立ち向かう人魔竜の連合軍、その絶望的な戦いを目の当たりにしたのだ。ひとびとは、知っている。神の軍勢がいかなるものか。この世界に破壊と混沌を撒き散らす滅びの軍勢であることを、身を以て知っている」

 獅子神像の右前足が切り飛ばされると、天から降り注いだ雷が右前足に直撃し、紅蓮の炎で包み込んだ。その先、セツナは、いままで以上の衝撃を感じている。獅子神像への攻撃が、ナルンニルノル内部を揺らしているということに間違いはなかった。

「ならば、と、ひとびとは連合軍を応援するだろうか。中には、そう声を上げるものもいるかもしれない。だが、多くはそうではない。連合軍がなにものであるかも知らず、ましてや絶望的な戦いを繰り広げている様を見せつけられて、祈れるものか。願えるものか。望めるものか」

 獅子神像が吼えたらしい。獅子神像周囲の空間が大きく歪曲するほどの力が生じたのがはっきりと見て取れる。そんな攻撃が拡散されれば、連合軍は一溜まりもない。もろともに消し飛ばされるだろう。だが、そんなことを心配する必要はなかった。

「だから、ひとびとは、悲嘆に暮れ、絶望し……されど、救いを求めるのだ」

 アズマリアが断言したからではないだろうが、救いを求める声が聞こえた気がした。

 いや、気のせいではない。

 確かに聞こえるのだ。

 ただしそれは、声ではなかった。

 はっきりと聞こえるのは、想いだ。

 救いを求める想いが世界中から集まっている。

「そして、救いを求める声に応えるものこそ――」

 アズマリアの視線の先、光の幕の向こう側に極大剣を掲げるのは、騎士の如き姿の神だった。

「救世神ミヴューラ」

 確かにそれはミヴューラ神なのだろうが、ナルンニルノルと対峙しているその姿は、フェイルリング・ザン=クリュースの真躯ワールドガーディアンとも、オズフェルト・ザン=ウォードの真躯ライトブライトワールドとも、大きく異なっていた。

 まるで、すべての騎士たちの真躯を統合したような、そんな印象を受けた。


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