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武装召喚師――黒き矛の異世界無双――(改題)  作者: 雷星
第三部 異世界無双

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第三千五百六十九話 大いなる矛盾の果て(六)


 突入組の面々が半死半生のまま合流した際、その傷を癒やしたのは、トワだ。

 生まれ立ての女神であるトワは、周囲のものの望むままにその神の御業を用い、ラグナとエリナと共闘したり、皆の傷を癒やしてきたようだ。

 まさにいまさっきもクオンをみずからの使徒としたのも、そうだ。セツナから説明されずとも、セツナが望んだ通りの行動を取った。

 さらには、切断されたままだったセツナの右腕を接合してくれてもいる。ほかの傷口も塞いでくれており、セツナも万全の状態となった。

 しかし、皆が合流できたのは、トワのおかげではなかった。

 セツナが魔王の力でファリアたちを見たとき、彼女たちとともに観戦する異形の存在がいた。それは、ナルンニルノル突入時に対峙したものに似ていた。そして、獅徒でもなく、神将でもないそれの顔は、セツナのよく知る人物に酷似していたのだが、その事実を認識したのは、それと直接顔を合わせてからだ。

 それが、セツナの目の前に現れたのは、セツナたちが合流を果たし、いくつかの話し合いを終えた後のことだった。

 セツナがファリアたちをこの場に呼び寄せたとき、それを呼ばなかったのは、無意識のうちに選別していたからだろう。

 そして、無意識のうちに認めたくなかったからに違いない。

 艶やかささえ漂う桜色の異形の存在。獅徒とも神将とも異なる存在と思えるのは、全身が白化しているわけではないからだ。しかしながら、その全身は神威の塊といっても過言ではなく、故に獅徒や神将のような存在であることに代わりはなかった。なにかが違う。そのなにかがどういうものなのかは、その顔を見ただけで理解した。

 セツナは、彼女が目の前に出現したとき、その顔を見て、思わず片膝をついた。

「ナージュ様……」

 桜色の異形の存在。以前は見受けられなかったはずの顔は、まさにナージュ・レア=ガンディアそのひとのものだったのだ。見間違うはずがない。ガンディア時代から何度となく言葉を交わし、親しくしてもらっていたのだ。王立親衛隊《獅子の尾》隊長として、この上なく信用してくれていたし、親しみを持ってくれていた。数え切れないくらい言葉をかけてくれた。

 それは、破局後の世界でも変わらなかった。

 龍府での再会時、ナージュと交わした言葉の数々を覚えている。

 ナージュがいまもなおセツナのことを頼みとしてくれていて、だからこそ、レオナ姫にセツナの逸話を語って聞かせてきたのだという事実は、彼の心の深いところに刻まれていた。その想いに応えたかったし、そのために戦おうと想ったのだ。

 ガンディア再興のために。

 だが、ナージュは、ネア・ガンディアの獅子神皇レオンガンド・レイグナス=ガンディアの元へと行った。セツナが獅子神皇にレオンガンドを見たように、ナージュもまた、獅子神皇の中にレオンガンドを見出したのだろう。そして、レオンガンドとともにいることが正しいと判断したのだ。

 セツナは、ガンディア王家の家臣だ。いまもそう想っているし、ガンディア王家に忠誠を誓い、務めを果たそうとしていた。であれば、ナージュとともにネア・ガンディアに行くことが正しい道なのかもしれなかったが、セツナは、そうしなかった。

 獅子神皇は、レオンガンドであって、レオンガンドでないものだと想ったたからだ。

 聖皇の力の器であり、斃すべき敵、滅ぼすべき存在であると認識した。

 だから、ネア・ガンディアにはつかなかった。

 その結果が、この有り様だというのだろうか。

「わたしはナルエルス。ナージュではありませんよ、セツナ殿」

 と、彼女はいった。しかし、哀しみに満ちたまなざしも、心の奥底にまで染み入るような柔らかなその声も、ナージュ・レア=ガンディアそのものとしかいいようがなかった。

「ナージュ・レア=ガンディアは死んだのです。レオンガンドを……いえ、獅子神皇を止めることもできなければ、なにも為せず、だれひとり救えぬまま、死んでしまった……」

 彼女の声からは、哀しみと苦しみ、嘆きと後悔が入り交じった想いを感じた。ナルエルスと名乗る、ナージュの成れの果て。獅徒でもなく、神将でもないのであれば、一体なんなのか。なぜ、どうやってそうなってしまったのかなど、セツナにはわからない。おそらく、ナルエルス自身にもわからないに違いない。わからないが、そうなってしまった。生まれ変わってしまった。

 だから、ここにいる。

「わたしは、その残滓。枯れ果てた涙の名残に過ぎません」

 セツナは、そんな風に自分を卑下するナルエルスに同情の言葉をかけることすらできなかった。なにをいっても、彼女の心には響かないだろう。心を安んじるどころか、余計に追い詰めるだけかもしれない。ナルエルスは、ただ、絶望していた。

「いまだって、そう。あなたたちを頼ることしかできない」

「そうは仰りますが、ナージュ様」

 口を挟んだのは、ファリアだ。

「ナージュ様が合流させてくださったおかげで、生を繋ぐことができたものばかりなのです。なにもできなかった、などとは仰らないでください」

「ファリア……」

「ファリアのいうとおりですよ。あたしなんて死んでいたも同然だったんですから」

 心から感謝を込めて、ミリュウがいった。

「そうじゃな。最初に現れたときは驚いたもんじゃが」

「連戦になるかと思ったもんね」

「助かったのは間違いありませんな」

「皆様が御無事なのは、ナージュ様とトワちゃんのおかげでございますよ」

 皆がそれぞれにナージュへの感謝の気持ちを述べていく中で、セツナも同様の気持ちだった。もし、ナージュがナルエルスとして生まれ変わらなければ、皆を合流させてくれなければ、ここに立っている人数は極めて少なくなっていたのは間違いないのだ。

「皆のいう通りです。ナージュ様。ナージュ様のおかげで、俺たちは合流できた。だれひとり欠けることなく……」

「……ああ……わたしにも役割があったのですね。そして、その役割を果たすことができた……」

 ナージュが己の胸に手を当て、いった。絶望を拭い去るほどのものではなかったにせよ、多少なりとも哀しみが癒えたのであればいいのだが。

 セツナは、なんともいえない気持ちのまま、変わり果てたナージュの姿を見ていた。

「エイン殿とマユリ様がまだですがね」

「そりゃあ、あいつらは戦っている最中だからな」

 エインとマユリ神は、神将ナルフォルンの受け持つ戦場に隔絶されたままであり、故にあの二名だけはこの場に呼び寄せなかった。そんなことをすれば、ナルフォルンを自由にさせてしまう。

「だが、それもすぐに終わる」

「え?」

「俺が終わらせる」

「その必要はないよ、セツナ」

「うん?」

 突如、話に割り込んできたのはクオンであり、彼は、セツナの疑問には答えなかった。

「すぐにわかる。一先ず、彼女の元へ行こうか」

「行くたって、どうやって?」

「君たちがどうやってここへ来たのか、覚えていないわけではないだろう」

「セツナの力でってこと?」

「そういうこと」

「俺が全員を運ぶのかよ」

「それくらいできるだろう? 魔王様」

「……いつから俺はおまえの主になったんだよ」

「ぼくはトワ様の使徒だからね」

「理由になってねえ」

「さあ、行こう」

「話を聞けよ」

 とはいったものの、これ以上、こんなところで言い合いをしていても埒が明かないのも事実であり、セツナは、魔王の力を使った。

 虚空に穴を開け、エインたちが戦っている空間へと、その場にいる全員ごと移動して見せた。


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