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武装召喚師――黒き矛の異世界無双――(改題)  作者: 雷星
第三部 異世界無双

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第三千五百六十八話 大いなる矛盾の果て(五)

 セツナの話を聞いて、エスクも納得したようだった。

 一から十まで説明したわけではないが、セツナたちの戦いを途中からとはいえ観戦していた皆には、十二分に理解できるものだったのだろう。

 セツナが最初から圧倒していたわけではなく、徐々にその力を増していったという事実さえ認識していれば、セツナがクオンだけを生かし、ほかの獅徒たちに救いの手を差し伸べられなかった理由もわかるというものだ。

 もし、セツナが最初からこれだけの力を持っていたならば、獅徒の全員を獅子神皇の軛から解き放ち、トワの使徒とすることで、対獅子神皇の戦力に加えることだって考えたかもしれない。

 が、可能性があったというだけで、最初からそう考えられたかどうかは別の話だ。

 クオンを味方に引き入れ、共闘するという選択を取れたのだって、彼との戦いの中で、彼の本質に触れ、彼の目的を知り、彼の想いを理解したからだ。

 クオンは、セツナが魔王の杖の力を完全に解放し、制御し、掌握できるようになる瞬間を待っていた。神理の鏡をも圧倒するほどの力でもって討ち斃されることさえ望んでいたのだ。だからこそ、彼は最初から全力ではなかったのだし、セツナが魔王の力を増すたびに相応の力を解放していったのだ。

 獅子神皇を打倒するには、ナルンニルノル突入時点のセツナでは、圧倒的に力が足りないのだと、彼は考えていたのだろう。

 だから、みずから試練となった。

 そして、セツナは、クオンの試練を乗り越え、魔王の力を制御する術を手に入れた。神理の鏡の守護結界を超え、獅徒ヴィシュタルを圧倒し、獅子神皇の支配にすら干渉しうる力。百万世界の魔王そのものの力といっても過言ではない。

 これならば、獅子神皇にも対抗できるだろう。

 だが、セツナは、クオンを獅徒ヴィシュタルとして討ち滅ぼさなかった。

 対抗できるだけでは、駄目なのだ。

 絶対に打ち勝ち、滅ぼしきらなければならない。

 そのために打てる手を打つ。

 そのひとつがクオンとの共同戦線であり、そのような考えに至ることができたのも、ヴィシュタルとの死闘があったればこそだった。

 最初からいまのように魔王の力が使えていたのであれば、クオンとの共闘など考えなかったかもしれない。すべての獅徒、神将をたったひとりで滅ぼして回り、突入組だけで獅子神皇と対峙する羽目になったのではないか。そして、そうなれば、どのような結末を迎えたものか。

 無論、魔王の力を制御できるのだから、戦うことはできただろう。少なくとも、獅子神皇に一方的に殺されるという展開にはならなかったはずだが、勝ち目があったかどうかについてははっきりと断言できることはなにもない。勝てたかもしれないし、勝てなかったかもしれない。無惨に殺戮された可能性だってある。

 それは、いまだって同じことではあるのだが。

 しかし、クオンとシールドオブメサイアの加入は、獅子神皇との戦いを有利に運ぶ上では必要不可欠といえるはずだ。

 だからこそ、彼の力を必要とした。

 そんなクオンは、突入組の面々を見回して、感嘆の声を上げた。

「それにしても……君の仲間のだれひとり脱落しなかったとは、驚きだね」

「最高の仲間だからな」

 セツナは胸を張っていったが、セツナ自身、驚きがないわけではなかった。

 ナルンニルノルへの突入直後、強制的な空間転移によって味方と引き離されたとき、セツナは、不安を覚えたものだった。ファリアたちがそれぞれ何人かで行動をともにするような目に遭っただけならば、まだ、いい。しかし、セツナのように一対一を強いられれば、どうなるものか、まったくわからなかったのだ。

 ファリア、ルウファ、ミリュウの三人は、最終試練を終えたことで連合軍最高戦力と呼べるまでになっていた。シーラは元々ハートオブビーストの能力を使いこなしていたし、ウルクも圧倒的な力を持っている。ラグナも最強の竜王と呼ぶに相応しい存在だ。セツナ在る限り死ぬことのないレム、精霊と召喚武装を内包するエスク、天才武装召喚師エリナ、召喚武装使いにして歴戦の猛者エリルアルム、そして、生まれ立ての女神トワ。

 戦力的には問題なさそうに思えるが、相手は獅徒なのだ。

 獅徒は、神に匹敵する力を持っていた。つまり、獅徒を斃すには、神を斃すだけの力が必要だということであり、それは、さすがの突入組の面々でも荷が勝ちすぎるのではないか。

 しかも、神将との対決を強いられる可能性も考えられた。

 全員が全員、生き残り、再会を果たせることを祈るしかなかったし、信じるしかなかった。

 まさに奇跡のような再会であり、ミリュウが抱きついて離れないのも無理はなかった。

 特にファリア、ルウファ、ミリュウの三名は、神将を相手にしなければならなかったというのだ。ミリュウは勝ったもののほぼ死んでいたというし、ファリアも瀕死の状態で勝利を収めたという。いまこうして元気に生きていられるのは、トワのおかげなのだそうだ。

 トワがいなければ、いま現在合流できたうちの半数以上が死んでいた可能性があるらしい。

 まさに奇跡だ。

 この状況は、度重なる奇跡の上に成立している。

(だが……)

 セツナは、トワの頭を撫でるミリュウと、ミリュウを嬉しそうに見上げるトワ、そんなふたりの様子を眺めるファリアたちの様子を俯瞰した視点で見つめながら、考え込んだ。

 獅子神皇との戦いでは、奇跡を当てにしてはならない。

 奇跡などそうそう起こるものではなく、起こったとしても、それが必ずしも自分たちにとって最良の結果になるとは限らない。いまでこそ、最良最善の奇跡が起き続けているが、それが今後も重なり続けるわけもない。

 奇跡など当てにせず、堅実に戦い、確実に勝利を収める。

 そのための一手が、クオンだ。

「……そうだね。君の仲間は、ぼくが想っていた以上に素晴らしいひとたちのようだ」

「おまえの仲間だって、そうだっただろう」

「……ああ、もちろん」

 クオンが戸惑いを見せたのは、セツナがそんな風なことをいってくるとは想ってもみなかったからのようだ。

「胸を張って、そういえるよ」

 クオンの心中は、察するに余り在る。

 彼の獅徒としての部下たちは、皆、《白き盾》時代の幹部らしかった。ウェゼルニルにせよ、ミズトリスにせよ、それ以外の獅徒たちにせよ、クオンにとって気の置けない存在だったに違いない。だからこそ、クオンが獅徒として転生するという選択に従い、今日まで同じ道を歩んでこられたのだ。だれひとり、クオンを疑ってなどいなかったはずだ。

 聖皇復活を防ぐため、命を擲った義人たちでもある。

「だから、皆がちゃんと逝けたことには、少しばかり安心する」

 クオンのその言葉には、獅徒として生まれ変わり、ネア・ガンディアの活動に力を貸してきたことへの多少の後悔が滲んでいた。彼自身がそう認識していることもあるだろうが、仲間たちにそのような行いを強いてきたことにこそ、痛みを覚えているようだった。

 獅徒たちを斃してきた突入組の面々に対し、クオンが恨みや憎しみを持つどころか、どこか晴れ晴れとした表情を向けているのは、そういう理由があるかららしかった。

 


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