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武装召喚師――黒き矛の異世界無双――(改題)  作者: 雷星
第三部 異世界無双

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第三千五百五十五話 卑怯者たち(一)


 加速度的に巨大化しながら迫り来る岩塊と、それを巧みにかわしながら殺到する竜巻と光線の雨霰。

 数のみならず質量も凄まじいとしかいいようのないヴィシュタルの攻撃に対し、セツナが発動したのは、ロッドオブエンヴィーの能力だ。深化融合によって籠手と化したロッドオブエンヴィー。その禍々しい手の先から伸びるのは、闇そのものを凝縮したような巨大な手であり、それもまた急激に膨張していった。岩塊の成長速度よりも早く、瞬く間にセツナの視界を覆い隠す。“闇撫”の巨大化はそれだけに留まらない。セツナの前方超広範囲を埋め尽くすほどに巨大化すると、その外見に変化が生じた。

 液状化した闇のように見えていた黒い手が瞬く間に凝固し、硬質化していったのだ。まるで石化したかのようであり、視界を覆う闇の腕や手の甲、指は、黒曜石のように見えた。

 直後、なにかが“闇撫”に衝突した。物凄まじい激突音とともに衝撃が手のひらを駆け抜け、腕を貫き、セツナの左手にまで伝わってくる。“闇撫”が岩塊を受け止めて見せたのだ。さらに無数の衝撃が続く。

 竜巻と光線による攻撃の数々は、岩塊を避けてセツナを目指したが、岩塊よりもさらに早く、圧倒的に巨大化した“闇撫”によって進路を妨げられたというわけだ。そして、石化した“闇撫”の防御を貫くことができなかった。唯一、セツナに衝撃を伝えることができたのは、岩塊の直撃だけであり、それも大した痛みにはならなかった。

 そして、セツナは、ロッドオブエンヴィーの能力をさらに発動する。“闇撫”に触れているすべてのものに石化を伝播させることで、岩塊を石化させるのだ。岩塊を石化というのもなんだか変な話だが、そもそも、あの岩塊はセツナがそう認識しているだけであり、本物の岩塊ではないのだ。岩塊のように見える神威の圧縮体というべきものであり、故に爆発的な勢いで成長もした。周囲の神威を吸収して、だろう。

 だからこそ石化させ、岩塊の成長を封じ込めた上で、“闇撫”の石化そのものは解き、岩塊を握り締める。そして、間髪を容れず振りかぶり、ヴィシュタルに向かって投げつけた。

「おらぁっ!」

 ロッドオブエンヴィーの闇に覆われ、巨大な黒曜石の塊と化した岩塊は、上空のヴィシュタルに向かって一直線に飛んでいく。もはや成長することはないものの、セツナの身長の数百倍はあろうかという質量のそれは、直撃を受ければだれであれただでは済むまい。莫大な神威の塊を凶悪な魔力で包み込んでいるのだ。並大抵の神ならば、それだけで瀕死の重傷を負うのではなかろうか。

 もっとも。

「少しは」

 ヴィシュタルは、涼しい顔だった。

 涼しい顔でシールドオブメサイアを掲げていた。すると、当然のように彼の周囲には見えない壁が張り巡らされる。絶対無敵の盾が生み出す力の壁。防御障壁。

 凶悪な魔力で包み込まれた超巨大質量も、シールドオブメサイアに立ちはだかられては為す術もない。ヴィシュタルの遙か前方で見えない壁に激突すると同時に爆散し、魔力を散らし、神威の嵐を巻き起こした。魔力と神威がぶつかり合って荒れ狂い、空間が歪んでいく中でも、ヴィシュタルの表情に変化はない。

「力の使い方がわかってきたようだね」

「はん」

 セツナの右頬に鋭い痛みが走った。おそらく、魔力と神威の激突によって生じた余波だ。余波が、小さな刃となってセツナの頬を裂いた。血が流れるが、気にすることはない。掠り傷だ。それよりも気になるのは、余裕綽々といった相手の態度のほうだ。

 試されているような気分すらしてくる。

 腹が立った。

「まるで俺に合わせて戦ってくれているような言い方だなあ、おい!」

「そうとも」

「んだと!」

 悪びれもせずに肯定してくるヴィシュタルに対し、セツナは、怒声を上げた。

「ぼくが最初から全力を出して、その結果一方的な展開になったりなんてしたら、なにも面白くないだろう?」

「なるかよ」

「なるよ」

「ならねえよ」

「……いまならね」

「あん?」

「いまなら、そうはならないかもしれない」

 ヴィシュタルの背後の光輪が浮かび上がり、彼の頭上で角度を変えた。天使の頭上に浮かぶ輪っかのようだが、それにしては大きすぎた。大きすぎ、眩しすぎた。ヴィシュタルの顔が白く照らし出されるほどに。

「でも、まだだ。まだまだ足りない」

 天使の輪から光が放たれる。それは一条の稲妻となってセツナに迫ってきたが、それを見た瞬間、セツナは矛を掲げた。矛が威圧的な光を発すると稲妻が霧散した。

 黒き矛にはいくつかの能力がある。そのひとつが雷光反射能力だ。あまり使う機会のない能力であり、忘れがちなのが玉に瑕だが、今回のように相手次第では有用だった。

 火炎は吸い込み、雷光は反射する。

 それがカオスブリンガーの本体たる魔王自身の能力と関係しているのは、間違いない。

「こんなものじゃあ、ぼくは斃せない」

 再び、稲妻が瞬き、降ってくる。

「ぼくは殺せない」

 三本目の稲妻、

「ぼくは滅ぼせない」

 四本目の稲妻、と、立て続けにセツナに襲いかかった雷撃は、すべて、黒き矛の反射能力の前に打ち消された。雷撃には負けない。負ける気がしない。

「そうだろう、セツナ」

 ヴィシュタルは、またも、試すようにいってくる。

「君は、ぼくを斃し、殺し、滅ぼさなくてはならないんだ。でなければ、前に進めない。この先へ。この先の先へ。先へ征くんだ。征って、戦わなくては」

 発言のたびに天使の輪っかから稲妻を降らせてくるが、それらはひとつ残らず反射し、消滅させた。なんの意味もない攻撃の数々は、セツナを苛つかせるためのものなのか、どうか。時間稼ぎをしているように思えなくもないが、そんなことをする意味があるのかはわからない。

「だのに君は、いつまでこんなところでぐだぐだしているんだい?」

 不意に光輪が水平に拡大したかと思うと、無数に瞬き、無数の稲妻を降らせてきた。

 セツナは、矛を頭上高く掲げると、降り注ぐ稲妻のすべてを打ち消しながら、ヴィシュタルを睨み据えた。

「……てめえ」

「その目」

 ヴィシュタルが嬉しそうに笑う。

「いいね。ようやく、本気になったようだ」

「俺は……」

 未だ降り注ぐ雷の雨の中、セツナは、翼を交差させた。エッジオブサーストの時間静止能力を発動させると同時にヴィシュタルに飛びかかる。

「最初から本気だっての!」

「そうかい?」

 時間が止まった世界の中で、ヴィシュタルは当然のように反応して見せたものの、雷の雨は凍り付き、微動だにしなくなっていた。つまり、雷による邪魔はなくなった、ということだ。

「そうは、想えなかったな」

「てめえの盾が卑怯過ぎなんだよ!」

「それはお互い様だろう」

 セツナが矛を振りかぶって突撃すれば、ヴィシュタルが苦笑交じりに告げてくる。

「ぼくの盾は、確かに無敵だ」

 シールドオブメサイアが、カオスブリンガーの一撃を受け止める。神威と魔力。相反する力が衝突し、世界が震えた。

 時が、再び動き出す。



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