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武装召喚師――黒き矛の異世界無双――(改題)  作者: 雷星
第三部 異世界無双

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第三千五百五十三話 ふたりの代行者


 エッジオブサーストの座標置換で逃げ回るだけでは、無論、サイスオブアズラエルの能力を止めることはできないが、ランスオブデザイアが生み出す破砕の螺旋ならば、ヴィシュタルの断裂攻撃を相殺することができる。そして、破砕の螺旋を撃ち出すまでの時間稼ぎは、座標置換による空間転移を連発し、ヴィシュタルが隙を見せるのを待てばよかった。

 が、セツナは、ふと考え、別の方法を試すことにした。

 逃げ回り続けるだけでは、また同じ展開になりかねない。

 断裂攻撃を相殺しても、すぐさま断裂攻撃を行ってくることだって十分に考えられるのだ。

 では、どうするべきか。

 単純なことだ。

 断裂攻撃の元を破壊してしまえばいい。

 サイスオブアズラエルを打ち砕くのだ。

 そうすれば、ヴィシュタルは、しばらく断裂攻撃を行えなくなるはずだ。しばらくというのは、召喚武装が修復するまでの時間であり、それは、この戦闘中には絶対に訪れないであろう長大な時間を必要とする。

 召喚武装は、異世界の存在を術式によって武装化したものだからこそ、たとえ損傷したとしても、送還し、時間が経てば元通りに修復する。たとえ、召喚武装が真っ二つになったとしても、粉々に打ち砕かれたとしても、送還さえしてしまえば、それだけでいいのだ。

 武装召喚術の利点は、そこにもあるのだろう。

 アズマリアの話によれば、召喚魔法とは、異世界の存在をありのまま呼び出す技術であり、召喚物が負った傷を回復するには、召喚物自身の能力や技術、またはそれ以外のなんらかの外的要因に頼る以外にはなかったのだという。つまり、召喚物を元の世界に送還したところで、召喚武装のように日数の経過で回復するわけではないらしいのだ。

 よって、回復手段を持たない召喚物を酷使することはできなかったし、仮に召喚物がこの世界で死ぬようなことがあればどうしようもないのだという。

 その点、召喚武装は、なんの問題もなかった。どれほど酷使して、どれほどの損傷を負ったとしても、たとえ破壊され、ばらばらになったとしても、送還さえできればよかった。損傷の度合いによって修復にかかる日数に変化こそあれ、召喚武装の本体が死ぬようなことはないのだ。

 だから、魔王も死ななかった。

 黒き矛が折れたとき、それで終わらなかった。

(そして、もう二度と、折れない)

 セツナは、胸中で決意を口にした。

(カオスブリンガーも、俺も、二度と!)

 同時に、能力を発動する。

 瞬間、ヴィシュタルの動きが止まった。彼だけではない。犠聖の間の空気の流れも、なにもかもが、だ。エッジオブサーストの能力のひとつ、時間静止を発動したからだ。時間静止は精神力の消耗が激しく、あまり使用してこなかったが、完全なる深化融合は、消耗効率をも最適化し、最小限に抑えられているようだった。

 それが手に取るようにわかるくらい、時間静止本来の消耗というのは大きかったのだ。

 時間静止によって空間の断裂も止まっている。空間を削り取り、消滅させる力の束。その厚みがはっきりとわかるが、そんなところに注視している場合ではない。

 セツナは、空中で静止するヴィシュタルに向かって飛んだ。一瞬にして距離を詰め、間合いを埋める。

 時間静止能力は、神以外の相手ならば問答無用で動きを止めることができるという極めて強力な能力だが、それだけの能力でもあった。時間を止める以外、なんの力もないのだ。たとえば、時間を止めている間に相手を一方的に攻撃するということができない。時間静止の影響下にある対象に力を加えることができないからだ。傷つけることどころか、動かすことさえできない。

 つまり、時間静止中にできることは、現在の状況の把握や、自分自身の移動、または――

「マスクオブディスペア」

 セツナは、さらに能力を発動した。

「真の名を、忌むべき暗影ナドラ」

 マスクオブディスペアの能力の発動によって無数の影を生み出したのだ。それらは、ヴィシュタルを全周囲から包囲するように出現し、いずれもがセツナとまったく同じ状態、同じ姿を取っていた。ただし、影のように昏く、影のように黒い。

 分身ではなく、影。

 セツナを映しだした影たちは、セツナと同じように黒き矛の切っ先をヴィシュタルに向けた。

「それで、ぼくを追い詰めたつもりかい?」

「なっ!?」

 不意にヴィシュタルの声が聞こえたかと想うと、獅徒が、セツナに顔を向けてきた。セツナは、瞬時に時間静止を解くと同時に“真・破壊光線”を撃ち放つ。数千体の影たちも同時に“破壊光線”を発射したため、黒き破壊の奔流と、純白の光の奔流が、ヴィシュタルに向かっていった。

 まばゆくも破壊的な光景だった。

 つぎの瞬間、すべての光線がヴィシュタルに直撃し、凄まじい爆発が起こった。それこそ、空間を震撼させるだけに飽き足らず、犠聖の間そのものを崩壊させかねないほどの余波が巻き起こり、爆風に次ぐ爆風がなにもかもを吹き飛ばすかのように吹き荒んだ。天は割れ、大地は裂け、祭壇も壊滅し、開戦当初の犠聖の間の姿があっという間に失われていく。

 セツナは、莫大な熱と光が吹き荒ぶ中で、目を細め、舌打ちした。

 ヴィシュタルの不意を突けなかった以上、あれだけの“破壊光線”を叩き込んだとしても、なんの意味もないだろう。

 事実、濛々と立ちこめる爆煙の中にヴィシュタルの気配は燦然と輝いていたし、彼がまったくの無傷であることになんの疑問もなかった。シールドオブメサイアの防御障壁を貫いた上で損傷を与えるには、“破壊光線”では駄目なのだ。“真・破壊光線”ですら、防御障壁を破壊できない。

 では、どうするべきなのか。

(簡単な理屈だ)

 セツナは、自嘲気味につぶやいた。

(力を理解し、力を認識し、力を把握し、力を制御しろ)

 完全なる深化融合によってもたらされた力は、極めて膨大であり、圧倒的にもほどがあった。故に完璧に制御するには至っていないのだ。ヴィシュタルのいうとおりだった。使いこなせていないのだ。だから、力を十全に発揮できない。

 ただ、無闇矢鱈に力を振り回しているだけになっている。

(完全に、無欠に、一切の矛盾なく、扱いこなせ)

 自身を叱咤しながら、セツナは、黒き矛を握った。矛から流れ込んでくる意思もまた、そういっている。魔王自身が、鼓舞してくれている。敵を斃すために。斃すべき敵を滅ぼすために。そのために魔王と眷属たちがセツナを応援してくれているのだ。

(魔王なら)

 力は、充ち満ちている。溢れそうになるくらい膨大だ。これだけ能力を使っても、時間静止しても、影を大量に生み出しても、なんの問題もなかった。まだまだ力はある。精神力の消耗も、微量だ。それは即ち、多少なりとも力を使えているということにほかならない。

 黒き矛を。

 魔王の杖を。

(おまえが魔王だというのなら)

 爆煙が風に巻かれて消えて失せると、やはり、まったくの無傷のヴィシュタルがそこにいた。当然、サイスオブアズラエルも傷ひとつない完全な状態だ。

「驚いたわりには冷静だったようだね」

「……神が時間静止に割り込んでくるのは経験済みだったからな」

「なるほど」

「おまえは、神なんだろう?」

 ただの神兵や使徒ならばいざしらず、獅子神皇の使徒であり、その祝福と加護を受けた存在にして、シールドオブメサイアの契約者であり召喚者である彼ならば、神と同質、いやそれ以上の存在だといわれたとしてもなんら驚きはなかった。

「百万世界の神々、その代行者だ」

「そうとも」

 彼は、臆面もなく肯定して見せた。

「君が百万世界の魔、その代行者であるようにね」


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