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武装召喚師――黒き矛の異世界無双――(改題)  作者: 雷星
第三部 異世界無双

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第三千五百五十二話 魔王の杖対神理の鏡(八)


(えっ?)

 凄まじい痛みに目を遣ると、右腕の前腕が半ばから失われており、切断面から夥しい量の血が溢れていた。

(なんだ……!?)

 突然の事態に騒然とするセツナだったが、咄嗟にその場を飛び離れることでヴィシュタルの追撃を逃れた。ヴィシュタルは直接攻撃こそしてこなかったものの、光輪による光線は止めどなく撃ち出され続けていたのだ。あのまま腕の損傷に気を取られていれば、蜂の巣のようになっていたかもしれない。

 しかし、一大事は一大事だ。

 右腕が、なんの前触れもなく切り取られてしまったのだ。当然、右手に握っていた矛もなければ、矛の加護も失われてしまっている。

 このままでは、深化融合が解けてしまうのではないか。いや、それ以前に、眷属たちの力を制御することができなくなってしまう可能性が高い。魔王の眷属たちは、魔王の杖を手にしているからこそ、完全無欠に制御できていたのだ。

 いわば、魔王の杖は、六眷属の制御装置であり、それが失われたいま、それぞれの力が膨れ上がりつつあることが身を以て理解した。

(なにが起きた?)

 セツナは、なんとかエッジオブサーストを制御して空中を飛び回りつつ、また、マスクオブディスペアの能力でもって右腕の切断面を覆った。

 マスクオブディスペアは、影を操り、分身を生み出す能力を持つ。その分身生成能力の一部を用いることで擬似的な止血を行い、これ以上の出血を抑え、失血死だけは免れる。激痛は収まらないが、こればかりは致し方がない。

 そして、痛みにはなれている。

 地獄で数え切れないほど死んだのだ。

 痛覚が麻痺してもおかしくはないくらいに重傷を経験し、死を体験した。地獄が実在し、魔王の杖によって交信が可能であるとわかった以上、あの経験が夢想でも妄想でもなく、現実だったことは疑いようもない。士の経験も、死者との対峙も、試練の数々も、すべて現実の出来事だったのだ。

 地獄だから、死んでもなんともなかったのか、どうか。

 その点だけはなんともいえないが。

 しかし、経験は生きている。

 意識を失ってもおかしくないくらいの痛みにも、平然と耐えられるのがその証左だ。

(なんの前触れも……いや、あったな)

 セツナは、右腕の消失する直前の光景を思い出して、苦々しく思った。

(ロッドオブアリエル……か)

 ヴィシュタルが失った右腕の先に出現させた杖型召喚武装ロッドオブアリエル。その能力こそ、セツナの右腕が切り飛ばされていた原因に違いない。

 それも、能力の発動と同時に、だった。

(どういう能力だ?)

 セツナは、地上に降り立つと、すぐさま視線を走らせた。そして、黒き矛を握ったままの右腕を発見する。即座に駆け寄って、右腕の切断面から伸ばした影の手で掴み取り、そのまま切断面にくっつける。それで接合するわけではないにせよ、その場に放置しておくよりは遙かにましだ。

 なにより、黒き矛を擬似的に握っている状態にできたのだ。これで、眷属たちの制御は安定する。

(調和の王子っていったな。調和……か)

 頭上を仰ぐ。

 すると、無数の光点が蒼穹を塗り潰すかのようだった。光の槍だ。ランスオブカマエルだったか。その能力による光の槍が、空を覆い隠すほどに生成されていた。

 そして、降り注ぐ。

(あの野郎……)

 セツナは、防御障壁を全力で展開しながら、光の槍の雨の彼方にヴィシュタルを見て、その右腕がいまもなお復元されてすらいない様子を確認した。彼は、人間ではない。獅徒だ。その再生能力たるや、並の神兵とは比較にならないほど強力なのだが、それを抑えているということは、なにかしら意味があるということだ。

(さっきはわざと喰らいやがったな!)

 瀑布の如く降り注ぐ光の槍の中で、セツナは、胸中吼えるように思った。

 セツナの腕が切断されたのは、十中八九、ロッドオブアリエルの能力に違いない。そして、その能力とはおそらく、複数の対象者の状態を均等にするというもの。たとえば、対象者のうちのいずれかが右手に傷を負えば、対象者全員が同じ傷を負う――という能力なのではないだろうか。

 そうであれば、セツナが先程、突然右腕を切り取られた説明がつくし、ヴィシュタルがセツナの攻撃を防御するのではなく、敢えて喰らった理由もわかろうというものだ。ヴィシュタルにはシールドオブメサイアという鉄壁の防御手段があるのだ。炎の剣で受けきる自信があったのもあるのだろうが、ロッドオブアリエルの能力という隠し球も控えていたからこそ、防御障壁を展開しなかった。

 その結果、ヴィシュタルは炎の剣を失い、右腕を切り飛ばされたが、同時にセツナも右腕を切り飛ばされてしまった。

 しかも、だ。

「せこいな!」

「なにがだい?」

「おまえだけ元通りかよ!」

「それはそうだろう」

 ヴィシュタルは、悪びれるどころか、むしろ呆れるような声を降らせてくる。

「ぼくは獅徒で、人間じゃあないんだ。肉体の欠損なんてご覧の通り」

 彼は、右腕を復元していたのだ。だからといって、セツナの右腕が復元するわけではなかった。つまり、ロッドオブアリエルの能力は、恒常的に作用するものではなく、発動したそのとき、その瞬間だけに作用し、強制的に対象の身体状態を均一化するのだろう。その後、だれかの傷が塞がったとして、ほかの対象者の傷まで塞がることはないのだ。

 ロッドオブアリエルの能力は、決して使い勝手がいいものではない。なにせ、対象を窮地に追い込むほどの致命傷を与えるには、自分自身もそれだけの状態にならなければならないのだ。ただの人間には使い道がない。

 しかし、ヴィシュタルのように圧倒的な再生能力を持ったものならば、話は別だ。ロッドオブアリエルの能力を使い、不利な状態を相手に押しつけ、自分だけは回復するということができてしまう。

 実際、セツナの右腕は切り離されたままであり、マスクオブディスペアの能力がなければ、永久に失われたままだったかもしれないのだ。

「それが羨ましいというのなら、君も獅徒になればいい。陛下もお喜びになる」

「はっ、心にもないことをいいやがって」

「獅徒には獅徒の務めがある。それだけのことさ」

 ヴィシュタルは、苦笑交じりに告げてくると、右手の先に異形の鎌を具現化させた。レムの死神の大鎌とは異なり、神聖さすら感じさせる光り輝く鎌は、おそらくサイスオブアズラエルという奴だろう。そして、その鎌を具現させたということは、どういうことかといえば、だ。

(空間の断裂がくる)

 無造作に振り下ろされた鎌の遙か前方、つまり、セツナの立っていた場所が見事に抉り取られたのを、彼は、空間転移先から見ていた。エッジオブサーストの座標置換による空間転移。当然、ヴィシュタルの断裂攻撃は、すぐさまセツナの現在地に向かってくる。

 遙か遠方からほとんど時間差もなく空間を削り取り、軌道上のあらゆるものを消滅させる断裂攻撃は、やはりヴィシュタルの攻撃手段の中でもかなり強力な部類に入るのだろうということがわかる。だからこそ、彼も断裂攻撃に頼るのだ。

 しかし、断裂攻撃は既に見切っているといっても過言ではない。



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