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武装召喚師――黒き矛の異世界無双――(改題)  作者: 雷星
第三部 異世界無双

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第三千五百三十八話 神の声を響かせるもの(八)


(やはりか……)

 ルウファは、血反吐を吐きながら、体を起こした。

 遙か上空から大地に叩きつけられたことで骨のいくつかが折れ、全身に凄まじい痛みが生じたが、それだけならば大した問題ではない。既に雷撃を背に受けているし、その痛みのほうが遙かに勝っている。よく死ななかったものだと思わざるを得ないが、それもこれも、シルフィードフェザーのおかげだ。

 全身を覆い尽くす無数の翼が、あらゆる衝撃を緩和してくれているのだ。そのため、こうして生きていられる。

 顔を上げれば、“真聖体”と化したナルドラスが遙か遠方に浮かんでいる。大戦斧を得物としているが、それは本当の武器ではない。胴体と両肩、両膝にある獅子の口こそ、ナルドラス“真聖体”の真の武器であり、脅威そのものといってよかった。

 先程の間髪を入れぬ連続攻撃は、五つの口がそれぞれ“神の声”を発した結果によるものだろう。ただし、同時ではなかった。凄まじい速さの連携攻撃ではあったが、時間差があったのだ。ということは、五カ所同時に“神の声”を発動することはできないのかもしれない。

「矢よ」

「剣よ」

「斧よ」

「槍よ」

「杖よ」

(はっ)

 ナルドラスの全身の口から同時に発せられた声を聞いた瞬間、ルウファは、前言を撤回するとともにその場から全力で飛び離れた。無数の矢が飛来したかと思えば、上空から剣の雨が降り注ぎ、周囲四方から手斧が殺到し、槍が地中から飛び出してきた。そして杖がどこからともなく出現し、光弾を放ってきたものだから、ルウファの周囲は地獄のような有り様となった。

 ルウファは即座に対応方法を変えた。つまり、避けるのではなく、全身を無数の翼で覆い隠したのだ。何百何千の翼を幾重にも纏うことで要塞となし、矢や剣、槍や斧の猛攻を耐え凌ぐ。翼が一枚、また一枚と破壊されていくが、耐えきれないものではない。

(これで打ち止めなら、な)

 そんなわけがあるはずもない。

 ルウファは、翼が剥がされていく最中、さらなる声を聞いた。

『光よ』

 異口同音の五重詠唱がルウファの耳に届いた瞬間だった。翼の要塞が、四方八方から降り注ぐ光の筋によって突き破り、そのいくつかがルウファの腕や足を貫いた。

(しくじったな)

 内心、吐き捨てるようにいうと、激痛の中で翼の要塞を解いた。翼の要塞は、“神の声”で具現した武器の群れから身を守る分にはよかったが、重大な欠点を抱えてもいた。その場に動きを止めてしまうということだ。それは明らかな弱点であり、ナルドラスに狙い撃ちにされても文句は言えなかった。わかりきっていたことだ。それでも、咄嗟の判断では、ああするしかなかった。

 その結果、両腕と両脚を光線に貫かれるという事態に陥ってしまった。幸い、腕も足も繋がったままだったし、仮に千切れていたとしても腕と足だけでよかったと思うほかあるまい。もし、頭を貫かれていたら、それで終わっていたのだ。

 翼の要塞最大の欠点がそれだ。

 周囲を翼を覆うことで、周りが見えなくなってしまう。

 受ける攻撃が、外周の翼を剥がす程度ならばまだしも、分厚い翼の防壁を貫き、中心のルウファにも到達するようなものならば、どうにもならなくなる。

 それだけの威力を持った攻撃などそうそうあるものではないが、ナルドラスならば容易に可能だということがわかった以上、翼の要塞を使うのは最大の悪手となった。

 全力で回避に専念したほうがまだましかもしれない。

(いや……)

 それでさえ、どうなるものか。

 ナルドラスの口が動いた。

「疾風よ」

「烈火よ」

「紫電よ」

「霧氷よ」

「閃光よ」

 異なる音の五重詠唱が、同時に五つの事象を引き起こした。衝撃波が、咄嗟に空高く飛び上がったルウファを捉え、地面に逆戻りにさせるように叩きつけたかと思うと、広範囲の大地が燃え上がった。そこに電撃の雨が混じり、つぎには電熱もろとも凍てついた。そして、まばゆい光によって、すべての翼が打ち砕かれたのだ。

 ルウファは、大地に叩きつけられた衝撃と、電熱の嵐と浴びたかとで、死にかけていた。辛うじて息があるのは、シルフィードフェザーで痛みを軽減したからだが、その翼もすべて、破壊されてしまった。

 地に伏したまま動けないのは、体が凍り付いているからというのもある。

 “神の声”による間髪を入れぬ五連続攻撃には、現状、対抗手段がなかった。またシルフィードフェザーの能力で翼を増やしたところで、結果は見えている。再び、同じように破り捨てられ、地に伏していることだろう。

(……終われない)

 それでも、ルウファは、諦めるつもりなどなかった。強引にも腕を動かし、地面から体を引き剥がすようにして、起き上がる。目眩がした。全身が激しく痛む。折れている骨の数は、倍増したかもしれない。それくらい、痛みがのたうち回っていた。

(このまま終わるなんてまっぴらだ)

 立ち上がれたのは奇跡なのではないか、とすら想えるほどの惨状だ。満身創痍。傷のない部位など存在しなかったし、視界も霞んでいた。思考すら明瞭ではない。

(死ねない。死ぬわけにはいかない)

 ナルドラスの姿が見えない。

 それはそうだろう。シルフィードフェザーの翼を尽く破壊されてしまったのだ。召喚武装による感覚の強化という副作用が、恩恵が受けられなくなった以上、遙か遠方にいる神将をその目に捉えることは不可能だ。だが、視線の先にいることはわかっている。

 ナルドラスが、わざわざルウファの死角に隠れる必要などないのだ。

 ルウファには現状、勝ち筋が見えない。

 そのことは、ナルドラスが一番理解しているはずだ。

「エミル」

 ルウファは、胸中でつぶやいたはずの言葉が口から出ていることに気づいたが、もはや気にも留めなかった。身も心も消耗しきっていて、それどころではなかったのだ。

「俺は君の元へ還ると約束した。約束した。約束したんだ。したんだよ」

 脳裏に浮かぶエミルの姿だけは、はっきりとしていた。愛する妻の姿だけは、見失わない。たとえ、命が燃えて尽きようとするいまであっても、それだけは絶対だ。

「約束は護らなきゃな。あのひとに……隊長に示しがつかない」

 生きて還るという約束だけではない。

 絶対にエミルを悲しませるようなことはしないという約束もある。それは、師匠と結んだ約束であり、それもまた、絶対に護らなければならない約束だった。

 それはつまり、エミルとともに生き続けるということでもある。

「なあ、シルフィードフェザー」

 シルフィードフェザーからの反応は、あった。

 先程まで顕現していた翼のすべては破壊され尽くしたが、シルフィードフェザーは特別な召喚武装だ。外套形態と翼形態を自由自在に切り替えることができる。いま、シルフィードフェザーは外套形態になっていて、ルウファを包み込んでいた。

 こうして立っていられるのも、間違いなくそのおかげだった。

「命を燃やすときがきたようだ」

 シルフィードフェザーもまた、それを理解していた。

 最終試練を乗り越えて得た力、そのすべてを解き放つときがきたのだ。


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