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武装召喚師――黒き矛の異世界無双――(改題)  作者: 雷星
第三部 異世界無双

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第三千五百話 軍師ふたり(八)


「ここは」

 そう、アレグリアが告げた直後だった。

 エイン軍陣地が爆砕されたかと思うと、居並ぶ連合軍将兵とともに支城のひとつが吹き飛ばされた。いや、ひとつどころではない。続け様にもうひとつ、またひとつ、と、つぎつぎと支城が消し飛ばされていく中、連合軍将兵も立て続けに撃ち倒されていく。

 その一連の流れの中で、エインの眼前に展開する光の板に表示されていた無数の光点が、大量に消滅した。光点は、兵士そのものだ。光点が消えたということは、兵士が斃されたということであり、敵軍による攻撃が始まったということを示していた。

 反撃が。

 アレグリア軍のうちのなにものかによる攻撃は、それで終わるはずもなかった。

 続け様に別方向の支城が真っ二つに両断されたかと思えば、無数の刀剣が花のように咲き乱れ、多数の魔晶人形を切り刻んで見せた。

 うろ覚えで再現されたとはいえ、魔晶人形は魔晶人形であり、その躯体の強度は、想像力の分だけ頑強なはずだ。そんな頑強な装甲されも容易く切り刻めるのだから、アレグリア軍の主力も見くびっていい相手ではないということだ。

 無論、エインは当初より相手を見くびったつもりはなかったし、過小評価してもいなかった。自軍を過大評価してもいない。

 しかし、エイン自身の想像力を元にするセツナたちの圧倒的活躍を目の当たりにすれば、多少なりとも油断するのは無理からぬことだった。その油断が、自軍に甚大な被害をもたらしている。

 エイン軍陣地を攻撃しているのは、アレグリアが再現した戦力のうち、獅徒か神将のいずれか、だろう。

 別方向、爆発に次ぐ爆発に目を向ければ、獅徒と思しき女が無数の星屑のような光の棘を飛ばしていた。優雅に舞い踊るかのような流麗な動きで光の棘を撒き散らす様は、戦場とは想えない光景だったが、つぎの瞬間に巻き起こる大小無数の爆発は、エイン軍陣地に多大な被害をもたらしている。

 獅徒と神将による猛攻は、それだけに留まらない。

 あっという間にエイン軍陣地が壊滅状態に陥り、本城を残すのみとなったのは、まるでアレグリア軍陣地と同じだ。

「想いの力が強くするのは、なにもあなたの軍勢だけではないのですよ、エインくん」

「……それはまあ、そうでしょうけど」

 エインは、多少のばつの悪さを感じながら、アレグリアの発言を肯定するほかなかった。

 エインが興奮したセツナたちの想像通りの強さは、ここが特異な空間であり、アレグリアこと神将ナルフォルンの支配する領域であるからこそのものだ。エインの想像力によって再現されたセツナたちだからこその力であって、元を正せば、それはアレグリアの力といっても過言ではないのだ。

 故に、アレグリアが用意した獅徒や神将が、セツナたちと同様の力を発揮したのだとしてもなんら不思議ではなく、獅徒、神将とセツナたち突入組のみが対峙するという結果になったのも、必然的なものだったのかもしれない。

 両軍互いに本城を残すだけとなった。支城はすべて壊滅、陣地そのものも甚大な被害によって機能不全に陥っていて、将兵はひとり残らず消滅するか戦闘不能といった有り様だ。

 エイン軍はセツナたち突入組が残り、アレグリア軍は獅徒と神将を残している。

 数の上では、こちらのほうが多い。

 数の上では、だが。

「だからって、突入時の再現までする必要、あります?」

「結果的にこうなったまでのことですよ、エインくん。ネア・ガンディアにおける最強戦力が獅徒であり、その上に立つのが我ら神将。こうなるのは、必然」

「必然……必然ねえ」

 エインは、アレグリアの発言を受けて、怪訝な顔に成らざるを得なかった。結果的にこうなるのは確かに必然めいてはいる。しかしそれはつまり、最初からこうなるように仕組まれていた、ということではないのか。なにもかもすべて、アレグリアの戦術通り、思惑通りにことが運んでいるのではないのか。

 だとすれば、決していい気分はしなかったし、打開策を考えなければならなかった。

 なにもかも彼女の思い通りに進ませるわけにはいかない。

「そして、戦力は拮抗する」

 アレグリアのいったとおりだった。

 エインは、自軍本城への攻撃を開始しようとする獅徒たちに対し、セツナたちを差し向けることで辛くも本城を護ったのだが、それによって両軍の最終決戦が始まった。

 突入組対獅徒・神将という組み合わせは、いままさにナルンニルノル各地で行われている戦いそのものに違いない。

 ナルンニルノル突入直後、強制的な空間転移によって目的地とは異なる場所に移送されたエインは、そこで、神将ナルフォルンと対峙した。ならば、セツナたちほかの突入組の面々も、獅徒や神将といったナルンニルノルに残された敵戦力と対峙させられていると考えるのが、妥当だろう。

 そうすることでこちらの戦力を削ぐというのが敵の目論見であり、各々の実力差を考えれば、適当な戦術だ。ほかに取り得る戦術としては、空間転移によって分散させた突入組をひとりずつ確実に殺していくという方法であり、その方法を取られた場合、こちらの敗北は決定的となるに違いなかった。

 だが、どうやら、そうではないらしい。

 というのも、そのような策を取ったのであれば、エインがナルフォルンと対峙するような状況など生まれようがないからだ。

 ナルフォルンが、無理を言って、エインとの対決を望んだ、ということも考えられるが、合理的に突入組を殲滅するというのであれば、ナルフォルンの望みだけ叶えることは考えにくい。

 つまりは、突入組ひとりひとりが獅徒か神将のいずれかと対決する格好になっている、と、結論づけるのが妥当だろうということだ。

 だから、エインは、焦ることも怖じることもなく、アレグリアとの対決に全力を注ぐことができているのだ。

 真っ先にエイン軍本城の目の前に割り込んだのは、セツナだ。そして、その圧倒的な力によって、本城に集まった獅徒、神将の全員を吹き飛ばして見せると、獅徒のひとりだけが、彼の眼前に立ちはだかった。獅徒ヴィシュタルだろう。

 戦場に散り散りになった獅徒や神将たちに対し、突入組の面々がひとりずつ、対峙していく。

 エインには、獅徒と神将の情報がほとんどないため、どれがだれでどのような名前なのかまったくわからないのだが、そんなことはどうでもいいことだった。

 大切なのは、突入組の面々が獅徒や神将に一蹴されることなく、食らいつけているということだ。

 セツナ、ファリア、ミリュウ、ルウファ、レム、ウルク、エスク、エリルアルムがそれぞれ一対一の対決を行う中、ラグナはエリナを背に乗せて戦い始めていた。

 突入組と獅徒、神将の激突は、ともすればその余波だけで本城に被害が及びかねないのではないか、と思うほどに激しく、凄まじいとしか言い様がないものであり、エインは、その戦いぶりを見守る以外にできることはなかった。

『なにか戦術はないのか?』

「現状、ありませんね」

『軍師が聞いて呆れる』

「そういわれましても」

 エインは、マユリ神の歯に衣着せぬ物言いに軽く肩を竦めた。

 基本的に一対一の熾烈な戦いが始まってしまった以上、そこにエインが口を挟む余地はなかった。

 獅徒たちにも抗しうる戦力が残っていれば、いくらでもやりようがあったのだが、残念ながら、残った手札は本城に残る自軍総大将のみであり、総大将に戦力は期待できない。

 いま、エインにできることがあるとすれば、セツナたちの勝利を信じて待つことだけだ。

(それじゃあまるで……)

 彼は、胸中、苦笑するほかなかった。

 それではまるで、いつものことではないか。


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