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武装召喚師――黒き矛の異世界無双――(改題)  作者: 雷星
第三部 異世界無双

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第三千四百九十六話 軍師ふたり(四)


『どうやら相手は動きだしたようだが……こちらはなにもしなくてよいのか?』

「そんなわけはないでしょう。ただ、彼女の出方を見てから判断しても遅くはないかと思いまして」

 マユリ神が多少の不安を以て話しかけてきたのは、敵軍が進軍を開始したというのに、自軍本陣より一歩も動かない兵士たちを見れば当然のことといってよかっただろう。

 しかし、エインも当然、そのことは理解している。

 広大な、けれども限定された戦場の全体像は、はっきりと把握できている。自軍本陣の位置から、三叉槍のような進軍路を経て、三つの戦場に至り、その先が敵軍の支配地であるということもだ。

 だが、敵軍本陣の様子や、敵軍がどのように部隊を振り分け、配置したのか、といった詳細な事柄まではわからなかった。

 戦場の情報が投影される光の板を見ても、明白なのは自軍の状態であり、敵軍の様子は、ある程度接近してくるまで判然としない。

 当たり前といえば当たり前のことだった。

 敵軍の情報が全部完璧に把握できるような状況など、そうあるものではないのだ。

 得られた情報から様々な状況を想定し、戦術を組み立て、勝利に導く。

 それが軍師の役割であり、在り様なのだ。

 ナルフォルンの力をもってすれば、敵味方の情報を完全に開示した状態にすることも不可能ではないのだろうが、軍師アレグリア=シーンという本質が、この勝負への拘りを生み、このような形式を定めたに違いなかった。

 そして、彼女もまた、こちらの様子を完璧に把握していないはずだ。

 でなければ、対等な勝負にはならない。

 対等な勝負でなければ、どちらがより優れた戦術家であり、軍師の後継者に相応しいのか、判断することなどできないからだ。

 彼女がアレグリア=シーンならば、そこに拘るはずだ。

 これもまた、軍師エイン=ラナディースとしての判断のひとつであり、アレグリア=シーンという人間に関する情報から導き出された結論だった。

 エインはいま、神将ナルフォルンではなく、軍師アレグリア=シーンと戦っているのだ。

 敵軍が部隊を三つに分け、三叉路に突入したちょうどそのころになって、ようやく、エインの軍勢が動き出した。

 三叉路には、戦術の基本通りといっても過言ではない戦力配分を行った三つの部隊をそれぞれ宛がった。

 右手の進軍路には、歩兵を中心とする部隊。鬱蒼と生い茂る森の道は、騎兵にとっては進軍すら困難であり、弓兵の弓射も効果を発揮しにくいからだ。

 真ん中の進軍路には、騎兵を中心とする部隊。岩場ではあるが、巨大な岩が遮蔽物となって存在するからといって道幅は決して狭くはなく、騎兵が駆け抜けるには打って付けだった。

 どうやら、ナルフォルンが定めたこの戦いの基本的な原理として、騎兵は弓兵に弱いらしい、ということが初戦の中で判明している。

 騎兵は歩兵に強く、弓兵に弱い。

 歩兵は弓兵に強く、騎兵に弱い。

 弓兵は騎兵に強く、歩兵に弱い。

 そんな遊戯のような基本原理が働いているのが、この戦場なのだ。

 それぞれの兵種を活かせるには、弱点となる兵種と当てないようにするべく動かすべきであったし、弱点となる兵種が苦手とする戦場にこそ配するべきだった。

 つまり、森にせよ、岩場にせよ、弓兵が不得意とする戦場であり、騎兵を配するならば、そのどちらかにするのが上策だった。

 だが、それは基本的な戦術であり、相手も同様の戦術を取っていると考えるべきだ。

 だから、エインは、考えに考え、敵軍が動くのを待ったのだ。

 敵軍が動き出し、その方針が明らかになってから、動き出したのは、こちらの策を把握されるわけにはいかないからだ。

 最後に左手の進軍路には、弓兵を中心として編成した部隊を当てた。沼地は、歩兵も騎兵も不得手とする地形だ。沼地に足を取られるのは、弓兵とて同じことではあるのだが、弓兵には射程がある。

 沼地のような遮蔽物の存在しない空間ならば、弓兵は、その能力を遺憾なく発揮することができるだろう。

 敵軍が沼地に騎兵を中心とする部隊を展開してこようものならば、弓兵が圧倒的火力でもって攻め立て、勝利を掴み取るに違いない。

 もっとも、先も述べたように、その程度の考えなど、アレグリアもお見通しのはずだ。

 そもそもが、彼女の考えた戦場の原理であり、戦場そのものもまた、彼女が想像し、創造したものなのだ。どこにどの兵種の兵を配するのが最適なのか、彼女には手に取るようにわかっているはずだ。

 その点ばかりはどうしようもない。

 が、たとえ彼女がこの戦場の創造主でなかったとしても、エインと同じ結論に至っただろうことについては、疑う余地もなかった。

 森に歩兵を中心とする部隊を差し向ければ、岩場には騎兵隊、沼地には弓兵隊を配する。

 当たり前の戦術がぶつかり合い、当たり前のような戦場の光景が、眼下に展開される。

『しかし、押されているのはこちらのようだぞ』

 マユリ神のいうとおりだった。

 敵軍の全貌が明らかになるまで動き出さなかったために、三つの進軍路それぞれにおいて、敵軍のほうが圧倒的だったのだ。

 森、岩場、沼地――得手不得手がはっきりとした三つの戦場において、それぞれ得意とする兵種を主軸とする部隊を差し向けるという基本戦術を展開するのであれば、当然、先に動き出したほうが有利な戦況を作り出せるものだ。

 そして、拮抗する戦力同士がぶつかり合うのであれば、より有利な状況を作り出せた軍勢のほうが、より有利に戦闘を展開できるのもまた、道理といってよかった。

 三つの戦場では、各部隊が出遅れたことで戦況は悪くなる一方であり、マユリ神が心配するのも無理からぬことだ。

 が、エインには、すべて想定通りの動きだった。

 各部隊が出遅れたのも敵軍の戦力配分を見るためだったし、それがわかったからこそ動き出したのだ。そして、想定通りの結果となり、各方面で相応の損害が出た。

 そして、三つの進軍路が敵軍によって制圧され、味方本陣に押し寄せてくるのを見て、エインは、内心ほくそ笑んだ。

 すべては読み通りだ。

 敵軍は、まっしぐらにエイン軍本陣を目指している。本陣を攻め立て、大将を斃すことだけを考えているかのような苛烈な進軍は、一切の迷いがなかった。

 そこには、アレグリアらしさが見受けられない。

 極めて慎重で、攻めよりも守りを得意とし、特に籠城戦に関する戦術の巧みさはエイン以上といっても過言ではない彼女がこのような無造作な攻めを見せるのは、めずらしいといってよかった。

 しかし、だからこそ、付け入る隙があろうというものだろう。

『これで勝てるのか?』

「まあ、見ていてくださいよ」

 エインは、マユリ神の不安を他所に、本陣に雪崩れ込んでくる敵軍を見ていた。

 本陣の守りは、決して手薄ではない。全軍五十万のうち、五万を本陣防衛に割いている。

 対する敵軍は、二十万程度。

 数の上では、敵軍のほうが圧倒的だ。マユリ神が不安がるのも当然といっていい。

 しかし、そのときだ。

 本陣に雪崩れ込んできた敵軍二十万を、自軍三十万が包囲して見せたのだ。

 本陣防衛の五万と、本陣に伏せていた三十万の兵士たち。

 見事、敵軍二十万を挟撃して見せると、大打撃を与え、あっという間に壊滅せしめた。



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