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武装召喚師――黒き矛の異世界無双――(改題)  作者: 雷星
第三部 異世界無双

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第三千四百八十話 幻想と虚構の狭間(一)

 幻理の間と名付けられた領域が外界と隔絶されており、獅徒ウェゼルニルを斃さないことにはどうしようもないという事実は、彼に聞き出すまでもなく明らかだった。

 そして、ナルンニルノル突入直後に起きた空間転移は、ネア・ガンディア側の意思によるものであり、突入組が分断され、各個撃破されるかもしれない状況を作り出されたのだろうと推測する。その推測が間違っている可能性は極めて低いだろう。

 レムだけが幻理の間とやらに囚われている、などとは、とてもではないが考えにくい。

 セツナを始め、ファリアやルウファたち突入組のだれもが同じような状況にあるのだと考えるべきだった。

 故にこそ、レムは、獅徒ウェゼルニルに対し、開口一番、討滅を宣言したのだ。

 同時に攻撃をしかけている。

 頭上から降り注ぐ日の光を反射し、まばゆいばかりに輝く雪原の真っ只中、ウェゼルニルの巨躯もまた、一面の銀世界に溶け込むかのように白く輝いている。レムの二倍はあろうかという体躯は、彼が人間ではないという事実を示しているが、そんなことはどうでもよかった。

 大切なのは、相手が斃すべき敵であり、獅徒だということだ。

 獅徒。

 獅子神皇を主とする使徒のことであり、おそらく、ネア・ガンディアにおける親衛隊というべき存在だろう。ほかの神々の使徒の扱いと比べれば、一目瞭然だ。なにより、ネア・ガンディアの軍勢を率いる権限を持っていたのだ。

 ほかの神々が強い兵士程度の扱いしか受けていないところを見れば、獅徒がいかに重用されているかがわかろうというものだろう。

 それはつまり、獅徒がとてつもなく強いということを示してもいる。

 そもそも、獅子神皇の力を命の源としているのだから、当然といえば当然なのかもしれない。神々の王たる獅子神皇、その加護と恩寵を受けた存在が弱いはずがないのだ。

 それは、レム自身が一番よく知っていることだ。

「あんたとは、一度戦ったことがあったな」

 ウェゼルニルがにやりとしたのは、レムが間合いを詰めながら“死神”を呼び出したときだった。ウェゼルニルの巨躯が地を蹴り、レムとの距離を詰めてくる。ふたちの間合いは一瞬でなくなり、白銀が舞った。

「随分と懐かしい話です」

「ひとつ、いっておくが」

 閃光を発しながら振り抜いた拳でもって“死神”を殴り飛ばしながら、ウェゼルニルがレムを見て、いった。

「俺は、あのときとは違うぜ」

「そうですか」

 レムは、ウェゼルニルの拳の一撃で“死神”が跡形もなく消し飛ぶ様を目の当たりにしながら、みずからの影から取り出した大鎌でもって、獅徒の拳を受け止めて見せた。衝撃とともに凄まじい激突音が鳴り響き、風圧で雪が舞い上がる。

「しかし、それはわたくしの台詞でもございまして」

 続け様にもう一方の拳で殴りつけてきたウェゼルニルだったが、大鎌の柄を旋回させることでその拳を払い落として見せ、さらに鎌を振り回して獅徒を殴りつけようとすると、彼はその場を飛び離れて見せた。大鎌が生み出す風圧もまた、雪を空中に舞い上げる。

 舞い散る雪の数々が、陽光を受けてきらきらと輝く様は、幻想的といっていい。

 しかし、そんな幻想的な戦いをウェゼルニルのような相手と行うのは、レムとしては不服極まりないことだった。

「あなた様がどれだけ強くなられようとも、関係のない話でございます」

「随分と強気だな」

 ウェゼルニルは、雪原に立ち尽くすと、苦笑を交えつつこちらを見つめてきた。レムに倍するほどの長身を誇る巨漢は、その白化した肉体そのものを武器とする。ウェゼルニルとの交戦経験から、彼が近接戦闘を大の得意とすることはわかっている。ただし、それだけが彼の能力ではない。

 虚像を生み出し、誤認させるという能力を持っているのだ。

 それを使い始めてからが本格的な戦いとなる。

 つまり、現状は、小手調べに過ぎない。

「だが、それでこそだ」

 拳を構え、彼はいう。

「それでこそ、俺がここにいる意味があるってもんだ」

「それはようございましたね」

 いって、レムは、“死神”たちを呼び出した。一体ではなく、五体の“死神”。弐号から陸号までの“死神”は、それぞれ異なる得物を持ち、レムの周囲に布陣した。弐号は戦輪、参号は長棍、肆号は両刃槍、伍号は二刀一対の短刀、陸号は巨大な拳を構えている。

「わたくしには関係のない話でございますが」

「そういうわけにはいかないんだなあ、これが」

「あなた様を斃さなければ抜け出せない、ということでございましょう」

「そういうこった」

「そんなわかりきったこと、いまさらいわれるまでもございませんよ」

 いうが早いか、レムは、“死神”たちに号令した。

 弐号が戦輪を投げつけるのと同時に“死神”たちが躍動する。もっとも素早い伍号がいち早くウェゼルニルに肉薄すると、闇色の短刀でもって連続的に斬りつけるが、獅徒は、短刀の切っ先が届くより早く、その拳を“死神”の腹に埋め込んで見せた。

 伍号の幻像が崩壊していく中、“死神”たちの猛攻は止まらない。

 伍号の背後から獅徒に迫っていた参号が長棍を突きつければ、その頭上を飛び越えるようにしてウェゼルニルに襲いかかった肆号の両刃槍が閃き、ふたつの戦輪が大きな弧を描いて獅徒を挟み込むように殺到する。陸号の巨躯は、そんな状況下にあって、獅徒の背後に出現していた。

「はっ」

 ウェゼルニルは、笑ったようだった。

 彼が勢いよく拳を振り上げると、それだけで参号と肆号の体が吹き飛ばされて崩壊し、続け様に勢いよく振り回した足が戦輪を弾き飛ばした。さらに、背後からの急襲に対しても、ウェゼルニルは能力を使うことなく対処して見せている。つまり、陸号の両拳による打撃を体で受け止め、反撃として拳の裏を叩き込んだだけで陸号を撃破したのだ。

 残ったのは、弐号とレムだけだが、そのときには、レムは、ウェゼルニルの頭上に迫っていた。“死神”たちだけで圧倒できる相手だとは、端から思ってもいないのだ。囮に過ぎない。

 弐号には地上からウェゼルニルに接近させることで敵の注意を分散させつつ、レム自身は、空中から襲いかかる。

「悪くはないが……」

 ウェゼルニルは、こちらを一瞥した。

 飛びかかった勢いそのままに振り下ろした大鎌は、その切っ先を二本の指で挟み込まれて微動だにしなくなったものだから、レムは唖然とした。そして、その間にウェゼルニルに迫った弐号は、獅徒が投げ出すように伸ばした足の爪先で吹き飛ばされ、幻像を崩壊させた。

「少々、俺を甘く見過ぎだ」

 ウェゼルニルが、鎌を握り締めたままのレムに向かって拳を振り上げた。

 すると、風圧が渦を巻き、小さな、しかし獰猛な竜巻が生じたものだから、レムは瞬時に鎌の柄を蹴って、その場を飛び離れた。風圧の渦が鎌を飲み込み、蹂躙し、粉々に破壊する。

 ただの拳打ではない。

 どれだけ強力かつ速度のある拳打であっても、風圧だけで竜巻が生じるはずがないのだ。

 神威を込めた拳打が、力の渦を生んでいる、と考えるべきだろう。

 つまりは、それがウェゼルニルの基本的な攻撃手段なのだ。

 打撃と神威を織り交ぜた攻撃は、至近距離だけでなく、中距離はおろか、遠距離さえも対応できるのではないか。

 頬に生じた鋭い痛みに目を細めつつ、レムは、ウェゼルニルの認識を改めなければならないと想った。



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