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武装召喚師――黒き矛の異世界無双――(改題)  作者: 雷星
第三部 異世界無双

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第三千四百七十三話 力の化身(二)

 無論、ウルクにミズトリスの変化を見届ける道理などあろうはずもない。

 ウルクは、力を解き放っていく最中のミズトリスに向かって両腕を掲げると、複合式波光砲を発射した。自分の身を守らなければならなかった先程とは異なり、一切の手加減も容赦もなく、最大出力の複合式波光砲を撃ったのだ。

 まばゆいばかりの波光が莫大な力の奔流隣、ウルクの視界を緑色に染め上げ、あっという間もなく塗り潰していく。

 ミズトリスが放出する力の波動を突き破り、その光り輝く肉体へと到達すると、破壊的な力の衝突が起きた。

 波光と神威による凄まじいまでのせめぎ合いが空間を歪ませ、軋ませる。

 そして、先程以上の大爆発が起きると、この戦場全体が激しく揺れた。熱と光が散乱し、衝撃波が嵐となって吹き荒び、都市そのものを消し飛ばしていく。

 先の複合式波光砲が都市の一部を消滅させただけに留まったのと比較すれば、全力の複合式波光砲の威力がわかるだろう。

 圧倒的な差がある。

 しかし、ウルクは、視界を埋め尽くす爆煙の向こう側にミズトリスの生体反応を確認したため、言葉もなかった。

 獅徒を斃すには、“核”を破壊しなければならないのだが、外部から肉体を破壊するだけでは“核”を傷つけることすらかなわないとでもいうのだろうか。

(だとすれば)

 やはり、先程の攻撃法が正解だったのではないか、と、ウルクは考える。

 先程のようにミズトリスを羽交い締めにして、全力の複合式波光砲を叩き込めば、肉体も“核”ももろともに破壊し尽くせるのではないか。

 先程失敗したのは、戦闘後のことを考慮し、保身に走ってしまったからだが、それも当然の結論ではあった。

 ウルクたち突入組は、獅徒と戦うためにナルンニルノルに乗り込んだわけではないのだ。

 獅子神皇の打倒こそが突入の目的であり、それ以外にはなかった。

 叶うならば、獅徒や神将など無視し、獅子神皇に全力を注ぎ込みたかったのだ。

 それが、できなくなってしまった。

 突入組は分断され、隔絶された空間に閉じ込められてしまった。

 そこに獅徒が現れた以上、立ち向かい、斃す以外に道はない。

 ただし、獅徒を斃しただけで終わりではないのだ。獅徒を斃し、この空間を脱出した後、セツナたちと合流し、獅子神皇を討ち斃す。

 そのためにも、余力を残しておく必要がある――ウルクは、そう考えていた。

 故に、躯体が傷つかないようにと配慮したのだが、その結果、ミズトリスに反撃の機会を与えてしまうことになったのは、明らかな失態だった。

 最初からミズトリスの撃滅に専念していれば、こうはならなかった。

 分厚い爆煙の向こう側で、ミズトリスの生体反応が安定した。変化が終わったのだろう。

(仕方がありませんね)

 ウルクは、ミズトリスに向かって両腕を翳したまま、波光大砲と連装式波光砲を連射した。複合式波光砲が通用しなかった以上、波光大砲も連装式波光砲も、牽制攻撃程度にしかならないだろうが、構わなかった。

 遠距離からの複合式波光砲が通用しないというのであれば、至近距離から叩き込む以外にはなく、そのための好機を掴みとるしかないのだ。

 そして、そのような好機が訪れることなど、そうあるものではあるまい。

 相手も、それはわかっているはずだ。

 無数の光弾と分厚い光芒が煙の幕を貫き、地上に落ちていく。爆煙に開いた穴が、地上の様子を垣間見せ、ミズトリスの姿を明らかなものとした。

 一瞬の光景だ。

 つぎの瞬間には、光弾と光線がミズトリスの周囲に着弾し、新たな爆煙を舞い上げ、ウルクの視界を塗り潰してしまった。

 しかし、ウルクにはその一瞬で十分だった。一瞬で、ミズトリスの変化した姿を精確に把握している。

 変化。

 確かにそれは変化といえた。

 獅徒は、元は人間だ。神兵や使徒と同じく、神の力によって変異した生物であり、その元となったのは人間なのだ。そして、獅徒の通常形態というべき姿は、人間が元になっただけあって、人間に酷似したものだった。

 皮膚や毛髪が真っ白に変容してしまっていたものの、それ以外は人間と変わらないといっても過言ではなかった。

 神威を感知することができなければ、人間との違いなどわからないのではないか、と想うほどだ。

 それが、いまや完全に変わり果てていた。

 生物的な甲冑、あるいは外骨格とでもいうべきもので全身を覆い尽くしており、それらは全体的に分厚く、頑強そうに見えたが、特に両腕が巨大だった。腕力が特に優れている、というのだろう。

 背には、神々のように光背が浮かんでおり、それはまるで二本の剣が輪を作っているようだった。

 顔面も装甲で覆われており、その獰猛な顔つきは、ミズトリス本来の顔立ちからかけ離れたものだ。

 もちろん、ウルクには、どちらの顔が本質に近いのかなどわかるはずもない。

 どうでもいいことでもある。

 ミズトリスは、斃すべき敵でしかないのだ。

 考えるべきは、ミズトリスの実力であり、斃し方であって、本質やその在り様などではない。

 そう想ったときだった。

 地上から猛烈な突風が噴き上がってきたかと思うと、煙の幕に大きな穴が空き、衝撃がウルクの下腹部を叩いた。

 ただし、損傷はない。

(なんだ?)

 疑問に感じて視線を向けた先では、ミズトリスがこちらに向かって拳を突き上げていた。巨大化し、異様な形状をした拳からは、光が発散している。

 ミズトリスは、当然のように無傷だった。あれだけ大量の波光を浴び、幾度か直撃も喰らったはずだが、獅徒の再生能力を持ってすれば、無傷に等しいのだろう。

「挨拶代わりだ」

 ミズトリスは、そんな風にいってきた。

「なんのことです?」

 ウルクが怪訝に想うと、間もなく、ミズトリスが飛び上がってきたものだから、彼女ははっとした。

「“真聖体”になった、な」

「意味がわかりません」

 一瞬にして目の前まで肉薄してきた獅徒に対し、ウルクは、距離を離すのではなく、むしろ詰め寄りながらいった。

 ウルクが遙か上空にいただけではなく、ミズトリスは、遙か地下に埋まっていたはずなのだ。最大出力の複合式波光砲が、都市そのものを吹き飛ばして地上に開けた巨大な穴、その中心深くに埋まっていたというのに、ミズトリスは、ただの一瞬で間合いを詰めてきた。

 その跳躍力も速度も、ともに先程までとは比べものにならない。

「話が通じる相手とは思ってもいなかったが、まさかここまでとはな」

 などといいながら、ミズトリスが猛然と殴りかかってきたのを見て、ウルクは、瞬時にその拳を手で受け止めて見せた。凄まじい衝撃音が響き渡るが、ウルクの右手は無事だったし、なんの問題もない。

 ミズトリスの拳は、ウルクの手のひらよりも何倍も巨大だったが、威力は、肆號躯体を揺るがすことすらできないものだったのだ。

「それはあなたがわたしと会話するつもりがないから、ではないですか?」

「そうかもしれないな」

 ミズトリスは、透かさず、もう一方の拳で殴り続けてきたが、ウルクの反射速度の前では意味がなかった。容易く受け止め、無力化する。

 すると、今度は右足で蹴りつけてくる。

 が、それもウルクの脇腹に直撃しただけで、それ以上のことはなかった。

 力は、上がっている。

 しかし、この程度では、ウルクの敵ではない。



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